異端審問官の来訪_4
うさみは扉に耳を当て、黒魔女の気配が部屋から遠ざかったことを確認すると、
すぐさま縛られている2人に駆け寄り、縄を解いて頬を叩く。
ペペペペペ(シンの頬を叩く音)ペペペペペ(ツッキーの頬を叩く音)
「起きますミ!逃げますミ!!」
「うっ、むう……ここは……?」
先に起きたのはシンだった。
「う~ん……」
続けてツッキーも目を覚ますが、まだ意識はぼんやりしているようだった。
「お前は…確かうさみ…だったか? ……っ!!」
状況を思い出したシンは、とっさにうさみを突き飛ばす。
傍にツッキーを見つけると片手で抱き起すように抱えてうさみから距離を取る。
辺りを見回すが、周りは壁に囲まれている。
入口の扉の方にうさみを突き飛ばしてしまった事に気づき舌打ちする。
彼らが持ってきていた武器は当然ここには運ばれていない。客室に置かれたままだ。
「おい、ツッキー! しっかりしろ!」
シンはまだ少し寝ぼけていたツッキーに声を掛け、
うさみに対して戦闘態勢を取る。
「シン局長……!? はっ! ここは!?」
ツッキーも事態を把握すると姿勢を正し、構える。
王国異端審問官は時に、武装した邪教徒や強力な力を持った魔術師などを
武力を行使して取り締まる事もある。
故に彼らは皆、一人で一小隊に匹敵する程の力を有していた。
その中でも多くの経験を積み、戦闘の才能にも恵まれていたシンは、
王国異端審問官の中で最強の座を冠していた。
本気で殺しに来たら、うさみなどワンパンである。
「待ちますミ! うさみは敵ではないのですミ!」
突き飛ばされてよろけていたうさみは体制を整えると
両手を前に出して2人を制し、その両手を横に広げて訴える。
「うさみは2人を助けたいのですミ!」
シンは鋭い目つきでうさみを睨む。
「何を言う、そもそもお前があの時ボタンを押したんだろう!」
「あれは知らなかったんですミ! うさみも騙されたんですミ!」
120%やばいボタンだと察した上で押していたが、そういう事にした。
「お館様は2人の頭を切り開いて脳を弄って洗脳して思うように操り、
自分の行いを隠蔽しようとしているのですミ!!
うさみも協力するから、早くここから逃げるですミ!」
そう言って道を開け、手で扉の方を指す。
「洗脳……だと……!?」
「黒魔女の手先の言う事です。罠かもしれません」
ツッキーはうさみを見据えたまま、シンに言う。
「うむ、しかしこれは……」
シンが足元を見渡すと自分たちが縛られていたであろう縄が床に落ちている。
何かするつもりであったのなら、いちいち縄を解いたり、
たたき起こしてからまた罠にかける必要があるだろうか。
シンはしばし思案し、うさみの目を見る。
(黒魔女の作った人造人間…)
確かに、普通の人間とは違う雰囲気を纏ってはいるが、
その目は嘘をついているようには見えない。
シンは長年、王国異端審問官として様々な相手の嘘や偽りを見抜いてきた、
その直感を信じる事にした。
「……本当に、お前は敵ではないのだな?」
シンが静かな口調で問うと、うさみは真剣な表情で頷く。
「シン局長? 信用するんですか!?」
ツッキーは少し驚いた様子で横目でシンの顔を見る。
「時間がありませんミ! 早く逃げないとお館様が戻ってきてしまいますミ!」
「…いや…逃げるわけにはいかんな」
「なっ? どうしてですミ?」
「ここまでされて、おずおずと引き下がれん、
あの魔女は危険だ。今ここで拘束、それが無理なら…討伐する!」
「討伐……!?」
ツッキーは思わず声を上げた。
「それは危険ですミ! お館様はとんでもない力を持っていますミ!
ここは一旦引くべきですミ!!」
「いや、それでは逆に逃げられてしまう可能性がある。
恐らく、油断しているであろう今が好機だ」
予想外の展開に、うさみの表情が
「お館様を……討伐ですミ……?」
「まずは私達の武器を返してもらおう。
ここまで助けてもらった恩はあるが、邪魔だてするというのなら
容赦はしない。ツッキーも、それでいいな」
「……はい!」
ツッキーは意を決した表情で答える。
「お館様を……討伐ミ……」
うさみは俯き、再びその言葉を繰り返すと顔を上げる。
「……わかりましたミ。ならばうさみもそれに協力しますミ……!!
3人で……お館様を殺しますミ!!!!」
うさみの言葉を聞いた審問官2人は顔を見合わせる。
「そこまでの協力は……。私たちを案内したらあなたは安全な場所に……」
ツッキーの言葉に、うさみは首を横に振る。
「お館様がいなくなったら、うさみはもう生きては行けないのですミ。
うさみは人造人間ゆえ、生命活動を維持するには
お館様による週1回の定期メンテナンスが必要なのですミ。
それが出来なくなったら、自力では代謝が行えず、やがて死んでしまうのですミ」
「何だと……?」
それを聞いたシンの顔にわずかに迷いが生まれた。
ツッキーも表情を曇らせている。
「良いんですミ……ずっと前から、あのお館様の悪逆無道っぷりは
目に余り続けていましたミ。あいつはいずれ自分の興味本位で
この世界すら滅ぼしかねませんミ。この命燃やすなら……今!!
この世界を守るために燃やしますミ!!!!」
「お前……」
「うさみさん……」
ツッキーは少し目を潤ませていた。
「さあ! グズグズしている時間はありませんミ!
武器は客室に置かれたままですミ!! 急いで取りに行きますミ!!」
3人は地下の部屋を飛び出し階段を駆け上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます