死者蘇生の対価_4

「……わかりました、では、ご遺体をお預かりしますね」

 そういうと黒魔女の手の形になっていた髪の毛が解けたと思うと

しゅるしゅると伸びて棺に巻き付く。

それを軽々と持ち上げ、奥の部屋の扉へ向かった。

 黒魔女は扉を開いた所でライトの方を振り返る。

「30分くらいで終わりますんで」

「30分……? そんなに早いんですか?」

「はい」

 それだけ言うと扉の向こうへ消えて行った。

 部屋にはライトとうさみだけが残された。

 ライトは椅子に腰かけ。うさみは壁を背にして佇んでいる。

しばらくの間、部屋は静寂に包まれていた。

「本当に、覚悟はできているのですミ?」

 ふと、うさみはライトに声をかける。

「え?」

 ライトは顔を上げ、うさみに目を向ける。

「お館様は、自分の事しか考えていないのですミ。

自分の興味の為なら周りがどうなろうと構わない。

他人のために善意で行動するなんてことは絶対に無いのですミ。

今回の事も、己の実験欲を満たすことが主な目的なのですミ」

 ライトはどう答えていいか解らず、言葉を詰まらせていた。

「余計な事を言いましたミ。別に脅すつもりでは無かったのですミ。

ごめんなさいですミ」

 そう言ってうさみは黙り。部屋にはまた静寂が訪れた。

 ライトの心の中で、押し殺していた不安が少しずつ大きくなってゆく。

 蘇った妹はどんな姿になるのだろうか。

生前と見分けがつかなくなるほどではないと言ってはいたが、本当に?

いや、それを言うなら、そもそも蘇らせることなど出来るのだろうか。

 顔を伏せ、目を閉じてしばらく思案していると

急に、部屋が暗くなったような気がした。


 扉が軋む音がして、顔を上げるとその扉はゆっくりと開いてゆく。

 その隙間から、何かドロドロとした赤茶色をした油の塊のようなものが

流れ出てきた。

 それはゆっくりと床に溜まりながら盛り上がるように肥大化していく。

 ――これは……なんだ……?

 やがてそれは肉塊のようになり、ぼこりぼこりと歪な形に変わる。

 ぼこりと出た小さな塊が避け内側から目玉のようなものが覗き、

こちらを捕らえる。

 ――まさか……そんな……。

 そしてその斜め下の窪みにぼこりと黒い穴が開くと、

それは口の様にゆっくりと動きだす。

 ――ちがう……やめてくれ……!

「オ……ニイ……チャン」


「うわぁっ!?」と声を上げライトは目を覚ます。

「……大丈夫ですミ?」

 うさみが傍まで寄ってきてライトの顔を覗き込んでいる。

どうやら座ったまま眠ってしまっていたようだ。

 全身が汗でじっとりと濡れている。うなされていたのだろう。

そういえば、妹が死んでからほとんど眠れていなかったな。

ライトはそんな事を思いながら、袖で顎下の汗を拭う。

「そろそろ30分ですミ」

 そう言ってうさみが魔女が消えて行った扉の方を見ると、

丁度扉のノブが回る音がした。

 ゆっくりと扉が開いてゆく。

「……!」

 ライトは思わず立ち上がり、身構える。

息を呑み、扉が開き切るのを待つ。まず、黒魔女が出てきた。

「お待たせしました」

 淡々とした口調でそう言った後、

続けて扉からもう一つの人影が現れる。

 それはおどおどした様子で扉の奥からこちらの様子を伺うように

ゆっくりと顔を出す。

「お兄……ちゃん……?」

 それは紛れもなくライトの妹であった。

安堵と感激が混じった目で兄を見つめるその表情も、

その声も、まるで生前のままであった。

 ライトを見つけた妹は扉の陰から飛び出す。

「お兄ちゃん!」

 いや、ただ唯一、体のある部分のみが、

生前とは似ても似つかない程の変貌を遂げていた。

 それを見たライトの双眸が大きく見開かれる。


 妹は、巨乳になっていた。


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