無許可イベントのウィークポイントを探る

浅賀ソルト

無許可イベントのウィークポイントを探る

車椅子の仲間6人で商店街を散策するイベントを開催しますという告知をネットで見かけた。常識的に考えてマズいのではないかと思い——あと、厄介で迷惑な活動家の匂いも感じた——私は主催者に商店街には許可を得ているのかと問い合わせた。

「あー、その企画でしたら連絡は受けてます。みんなで了解しています」商店街の代表はそう答えた。「そもそも車椅子がたくさん来るからといって許可が必要だったり、禁止したりするというのはおかしいでしょう」

何も分かっていない。6人で許可が出たら次は事前の連絡もなく12人で集まるのがあいつらだ。

私は言った。「しかし20人も30人も集まったら迷惑なのでは?」

「うちは商店街ですよ。集まって迷惑ってことはないです」

「その車椅子が邪魔で普通の客が入れなくなったら売上は普通に落ちませんか?」

「……うーん。まあ、そういうことはあるかもしれないですねえ」

私は心の中でガッツポーズを作った。「そうですよね。しかも6人で許可を出したら、じゃあ20人ではどうして駄目なんだってことになりませんか?」

「そこまでは考えてませんでしたねえ」

「6人でも3人でも、そういう迷惑な企画は許したら駄目だと思いますよ。例外を認めると歯止めが効かなくなりますし」

「そうですねえ」

電話での会話だったが、この商店街代表の話し方には愛想のよさの中に事務的なものを感じた。声のニュアンスだけだが、こちらをクレーマー扱いしているような、距離のある話し方だ。こちらがちょっと詰めすぎたかもしれない。ごほん。

私は言った。「そういう活動を許すと、今度はおかしな反対運動の人も集まります」

「あー、なるほど」

相手がこちらから距離を取り始めた。戻りそうにない。「器物破損や傷害事件に発達するおそれもあります」

「困りますねえ」

「警告はしましたからね」

私はそこで電話を切った。すでに商店街は活動家に取り込まれているという最悪の事態も想定した。

商店街散策といってもコースは決まっているような気がした。コロッケで有名な肉屋がありおそらくそこには確実に寄るのではないかと思った。散策するならそこは外せないというかテレビで紹介もされた有名店だ。

私はその肉屋に電話した。車椅子による訪問イベントの話をして、許可したのかと聞いた。

「許可ですか?」

「そうです。警察署や消防署には無許可であると確認が取れてます」——そんな確認は取ってない——「そちらの店舗では許可を出されたのかと思いまして」

「中尾さんから連絡は来てますけどねえ。許可って話ではなかったかなあ」

「なるほど。許可はお店の方では出されてないんですね」

「そういうイベントで、来客があります、という連絡だけだったですね。許可とかじゃなかったですよ」

私はその声に怒りを感じてよしよしと思った。この店主は商店街の代表に騙されたと思っている。「分かりました。……繰り返しますが、イベントの許可を出したというわけではないということでいいですね?」

「そうです。そんな許可は出していません」

「車椅子が集まると邪魔になりますからその分、売上は減りますよね? 無許可で来店するというのは非常識ではないでしょうか?」

「そんなことはないよ。うちはどんなお客でも大歓迎だよ。そんなことを言う人もいるかもしれないが、そりゃ非常識ってもんだ」

「なるほど。分かりました」最後にちょっと手応えが逃げていった。障害者というものがよく分かってない人だ。「ありがとうございます」

電話を切った。

商店街の関係者をさらに調べた。店の人は文字通り客商売だから話が通じない可能性があるのかもしれない。別の方向で考えた方がいいな。

設備責任者や防火管理者のようなものがいると思い調べてみたが、さっきの商店街の代表がその人だった。

副代表のようなものはないかと調べてみると肩書は不明だが代表っぽい名前があった。商店街の周年記念のイベントで、代表の挨拶をした人の名前が出ていた。さきほどの商店街代表とは名字が違うので親や子供でもなさそうだ。和菓子屋をやっているらしい。

電話をかけるとすぐに出た。車椅子のイベントの話を聞いて、無許可であることの確認をした。

「そんな話は聞いてないですな」

「イベントの話そのものを聞いてないということですか?」

「そうですね。ちょっと確認してみます」

「お願いします。無許可のまま開催されると商店街でも混乱が生じると思いますので」

「分かりました。ありがとうございます」

私は電話を切った。

声の感じだけだけど、客商売の声じゃなかった。偏屈で感じの悪いおじさんという感じだった。あれはいいぞ。うまい感じに暴れてくれそうだ。

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