第7話 誓い

「お前も転生者か」

「私はお前らとは違う!」


 私は叫んだ。だがこの知識はなんだ?


「雷が、いや、でんき ・・・じめん ・・・効果がない ・・・・・なんて概念どこで仕入れた? 物理的に考えて泥水ごとき雷は貫けるんだよ。その概念を持ってないと出来ない現実改変だ」

「何を……」

「とぼけるならいい。裏切り者には死を。それがプレジデントの意志だ」


 転生者はナイフを手に取り再度エネルギーを貯める。異様なほどに高まった電圧が磁力を発生させロングソードがカタカタと震える。


「死ね」


 耳をつんざく雷鳴と共に極光が迫る。


 刹那、目の前に男が現れた。彼は極光を一刀両断する。行き場を失ったエネルギーがあたり一面を吹き飛ばした。


「アリス。よく生きていましたね」

「あなたは?」


 どこか見覚えのある金髪の男はこちらを見ずに続ける。


「あなたは勇者?」

「もうそんな資格はありません」


 彼は小さく私にそう言った後、すぐさま声色を変え叫ぶ。


「リエナ! テレポートだ!」


 どこからともなく現れた小柄な女性が私とミーナに触れる。


「ここは私たちに」

「私はまだあいつを――」


 勇者はさらに怒号を飛ばす。


「早く!」

「《テレポート》」


 私たちは気が付くと町はずれの森にいた。ミーナはいまだに私を抱きしめている。また助かってしまった。みんなを失って生きるぐらいなら戦って死にたかった。私はぼーっと焼ける町を見続けた。夜はいつの間にか明けていた。


 しとしと雨が降っている。町だった焼け野原は未だ燻り、雨と血と焼けた何かの混じった匂いがする。


 私は教会の跡地に一人立っていた。ミーナは生存者を探しに行ってしまった。そんなものいるのだろうか、この惨状で。


 何も考えずに歩いた。地面に焼けただれた麻雀牌がいくつか落ちている。私はそれを1つ拾った。


 そしてまたとぼとぼと歩いた。地面に光るものが落ちていた。腰を屈めてそれを見るとペンダントだった。私がリリカの誕生日にあげたものだ。


「リリカ……」


 私はそれから必死に地面を這いずり回った。少しでも友人や孤児院の子供たちの物が見つかればと思い探し回った。すぐに手は真っ黒に、ポケットは一杯になった。


「アリスちゃん」


 消え入りそうな声でミーナが話しかけてきた。


「いましたか? 生存者」

「ううん、魔石がちょっとだけ、あの、お祈り、お願いできますか」

「はい、これでもシスター見習いですから」


 私はミーナから赤い魔石を3つ預かった。そして彼らを教会奥の墓地にそれぞれ埋めた。タバコ屋の麻雀牌も、ばぁばの指輪も、リリカのペンダントも、ココのペンも、チェリオの本も、ペティの積み木も、アマリアのガラガラも、全部埋めた。


「ミーナ、手を握ってください」

「ん」

「地母神よ、母なる大地よ。魂が迷うことなきようにどうぞお導きください」


 跪いて土を握り額につける。ミーナもそれを真似する。


 みんな守れなくてごめんなさい。私は必ず強くなります。


 握った土を地面に戻す時に手のひらに硬いものが当たる感触があった。戻した土を撫でて探ると小さな金貨があった。ミシェル王国の小金貨。それには騎士王――昔転生者に殺された父の顔のレリーフが施されている。


 お父さんの言う通り私は生きました。でも、生きて何になったのでしょうか。


 そして、昨日も生き残ってしまいました。


 今度は強くなります。見ていてください。


 今度こそ転生者を殺し、私の大切な人達のために復讐を果たして見せますから。

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黒髪碧眼のアリス ~異世界転生者に全てを奪われ復讐を誓ったはずなのに~ きのこためぞう @konoko_tamezo

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