第8話 結局才能

「ヤバい奴が来た。」

 転校初日から欠席し、2日後にやって来た転校生。どこかズレた子であることをありありと見せつけた光乃緋音。

 

 最初は転校生と隣の席というワクワクは、巻き込まれたくないという思いだけになっていた。


 パッと見はなかなかの美少女。

 しかし、淡々と繰り広げる奇行は、そんな見た目の良さを容易に掻き消していた。

 先ず、授業は寝る。そして怒られる。

 しかし、なんてことはない顔で教科書に落書きを始め、飽きたら寝る。

 その時点でヤバい。

 しかし、何故か教師から出される問題にはスラスラと答え、トイレに行く。

 帰って来たと思えばまたすぐに寝る。

 そんな無茶苦茶な転校初日。


 2日目は昼休みに登校するという超重役出勤をしたかと思えば、教卓で1人焼き肉を始めた。

 ご丁寧にホットプレートと保冷バッグまで用意して。

 そして、午後はずっと職員室でお説教をされている。

 そんな破天荒な超絶マイペースでマイワールドな転校生。

 

「でも、結構可愛いよな。」

「それが問題なんだよ。」

 友達とそんなことを言いながら、放課後のファストフード店で話す。

「ああいうのを言うんだろうな…」


「「「おもしれー女。」」」


 確かに、傍から見る分には面白いかもしれないが…


「じゃあ、席代わってくれよ。」

「「「それは断る。」」」

 人は薄情で、未知を恐れる。

 俺たちにとって未知で奇々怪々な転校生、光乃緋音は、見た目こそ結構な美少女だが、好意よりも恐怖が勝っていた。




−−−−−−−−−−−−−−−−−



「先生…」

 夕飯時、相も変わらず酒とタバコ、少しの肴という呑兵衛スタイルの師に私は声を掛ける。

「んだよ?」

 グイ、と安物の焼酎をで飲むヴェネーラ先生は楽しみを邪魔された不機嫌さで言う。

「先生、私、ここに来て魔法使ってないです。」

「だな。オメェ全然魔法使わねぇから、私も呆れてたとこだ。」

 ブハァー、とタバコの煙を吐きながら先生は知ってたという風に言う。

「先生は魔女…魔法の先生です。何故私に魔法を教えてくれないのですか?」

 ちょっとむくれて問う。

「逆に聞くけどよぉ…魔法を使うシチュエーションを準備してやっても魔法使わねぇ奴に何を教えろって言うんだ?」

 タバコの灰を落としながら先生は続ける。

「掃除…日常使いの簡単な魔法だ。テメェ、なんであの時使わねぇんだ?」

 先生の責める様な眼差し。

「それは−」

「使えねぇんだろ。」

 私の言葉を先生は先取りした。

「テメェが使える魔法なんざクソの役にも立たねぇモンばっかだ。」

 ご明察、私が使えるのは、箒に乗るのと、物を浮かせる魔法だけ。

「まあ、オメェに魔法を教えたのがあの大バカじゃあ、それでも上出来だがな。」

 そう笑う先生を私は睨んだ。

「お母さんは凄い魔女です。」

「私からすりゃ落ちこぼれの生意気で我儘なバカ弟子だ。」

 ケッと頬杖を突き、先生は焼酎を波々と注いだグラスを放り投げた。


 床に落ちる筈のグラスも、溢れるはずの液体も、空中で静止し、完全に時を止めていた。

「これが私の魔法の世界、テメェらみてぇなド底辺の魔女とは違ぇんだ。…いいか、テメェが誰の弟子でどんな魔女になる為にここにいるのか、もう一遍考えろ。」

 宙に浮く焼酎を啜り、グラスの手に取った先生はそう言った。

「先生、それはそのまま落とした方がインパクトがあったと思います。」

「オメェはブレねぇな…しょうがねぇだろ、勿体ねえんだから。」

 弟子よりもお酒な先生は、幸せそうにグラスを空にした。


「まあ、テメェが覚悟決めんなら魔法も、魔女の生き方も教えてやる。」

 コポコポと酒を注ぎながら先生は私に言う。

「是非お願いします。明日からでも、学校は別にどうでもいいので。」

「学校は行け。それも魔女の生き方だ。」

 呆れた様に笑い、先生は一吸いする。


「ああ、あと、オメェ簡単に考えてるみてぇだが、オメェの魔法センス最悪レベルだぞ。」

 煙と共に吐き出された言葉。

「…え?」

 思わず首を傾げた私。

「だから、テメェの魔法センスは最悪。私が教えてやったからって使えるわけじゃねぇぞ。」

 頭が真っ白になる。


 魔法センスってなんですか?

 魔女なら魔法使えるっちゃなかと!?

「魔法の勉強?大丈夫!大丈夫!!そんなもん魔女ならチョチョイのチョイたい。」

 魔力の使い方を教えてくれた豪快なお母さんの笑い声が脳裏に木霊する。

 思い返せば、お母さんが箒に乗るのと飼葉を運ぶ魔法以外使っているのを見たことはないし、それしか教えてくれていない…

「お母さん…」

 基本的に嘘しか言わないお母さん…

「先生…私は魔女になれるんですか…」

 泣きながら質問する私に、

「魔女にはなれるさ。オメェの母親がなれてんだから。アイツよりも才能がない魔女はオメェ以外見たことがない。」

 先生は容赦無い言葉を浴びせた。


「憎いです…才能が…天才が憎いです…」

 仰向けで呪詛を吐く私。

「恨み辛みは魔法にぶつけろよ。」

 そう言って下着姿の先生はタバコの火を消した。


「ちょっとコンビニ言って来る。」

「服を着て下さい、痴女ババア。」

 下着のまま外に出ようとする先生に私は親切で言ったのに、拳骨を落とされた。







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