第10話 迷い猫探しています
『見つかりました ご協力ありがとうございます たすかりました』
数週間前から通学路の途中にあった迷い猫の貼紙のうえに、無事発見の報告が貼ってあった。
探しものが見つかってよかったな、という安心と共感の感想よりも、珍しいこともあるものだという驚きのほうが先行する。
出奔した飼い猫が見つかることが稀だとか、わざわざ感謝の貼紙を張って回ることが、である。
ふと気づくと張り出されていて、風雨にさらされ日に焼けて、またふと気づいたときには剝がされている。ビラとはそういうものだと思っていた。
さりとてそのような風に攫われるビラたちとは違ってこのキジトラちゃんは見つかった。帰ってきたのかもしれないが。いずれにせよ大事にされているのだな、もう逃げ出すなよ、とイマジナリーキャットの背中を撫でながら家路についた。
一週間ほど経ったある日。
『違いました 間違えました。あの子じゃありませんでした 探してください」
思わず吹き出してしまいそうになったが──果たしてイマジナリーキャットは私の膝上からも逃げ出してしまった。
野良猫ならともかく飼い猫を取り違えたということはよっぽど似ていたのだろうか。ぶち猫なんかは模様が大きいぶん分かりやすいだろうが、キジトラ・サバトラあたりは細かいので似たような柄で間違えやすい、とか。
黒猫まで行くと模様ではなく体格や目つき、毛並みの艶、ちっちゃなハゲなどまた別のところで見分けていそうだな、とも思う。
…肉球の色でも違ったのだろうか。
誰も振り返ってはいけない 遠久野仁 @FilterEngine302
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