にわめ

――我が家はマフィアなの


母の言葉を咀嚼する。が、どうやってものどを通らない。

「わかる?マフィア。」

「いや、わかるけど……」

言ってから、いや、わかんないよ、と思う。

「まあ、そういうわけで。」

説明が面倒なのか、早々にケリをつけようとする母を止める。

「ちょっとまって。」

当時に、椿はうっ、とのどがつぶれそうなうめき声をあげた。

少し身を乗り出した瞬間、足にとてつもないしびれが走った。

「牡丹、一回降りて。」

じんじんと痛む足を制服のままあぐらに組み替える。

牡丹は姉の状況など理解もできず、遠慮なしに椿の足の上に座る。

椿はまた呻き声を上げたが、母は気にするそぶりも見せずに続けた。

「もうちょっと詳しく話したほうがいい?」

あたりまえじゃん、と思いながら椿は首を二回、縦に振った。

「マフィアっていうのは……やってることはアニメにでてくるマフィアと変わらないと思うけど、表向きは極道みたいな感じ。」

椿は思わず声を出す。

「えぇ……」

どうしたの?と言わんばかりの母の瞳に椿は答える。

「警察案件じゃん。」

後ろで兄のどちらかが笑った。

「大丈夫よ、うちは警察公認だから。」

「そういう問題なの?」

と聞いてから、そういう問題か、と落ち着いてしまった。

「どうしてそうなったの?」

「父さんの実家が代々そうなんだ。」

父が、初めて口を開いた。

「へぇ……」

父を追求する気にはなれない。椿は少し肩を落とした。

「なんでいまさら……?」

思春期真っただ中の娘にいうことでもないだろう。

すでにタイミングは逃してしまっている気がする。椿はもうずいぶん、普通と言うものに慣れてしまっている。

両親の言葉に現実味がわかないように。

「え、ドッキリじゃないよね?」

椿は我に返って聞く。

また後ろで、笑い声がした。

「違うわよ。私はともかく、この人は演技なんてできないでしょう。」

母は父をさしながら言った。

妙に説得力のない言葉だ。ドッキリを疑う思いを強めつつ、椿はさらに質問を重ねた。

「お母さんも、お父さんも、この人たちも人殺しってこと?」

椿の問いに、部屋がシン、と静まり返る。

聞いちゃいけなかったかな、と椿は思う。本当にマフィアとは思えないほど、繊細な心の持ち主だ、とも。

「……ごめんね。」

母の言葉に、椿は純粋に、なんで?と聞く。

「え。」

母は絶句して椿を見ていた。

「別に、親の仕事に口出さないよ。今更言ったところでどうにもなんないし。」

家族とは、たしかに友達とは違う絆を持っているけれど、でもやっぱり他人同士であると思っている。

子どもである椿が、自分の人生には全く影響のない親の人生に口を出すべきではない、と思うのだ。

少なくとも、今まではなんの影響もなしに生きてきた。自分でも、まっとうに生きていると思っている。だからこそ、これまでのことをとやかく言っても仕方がない。

どこか楽観的な椿は、大事なのはこれから、だと思っていた。

「それで、なんで今更家族が増えて、マフィアだなんて言ったの?」

椿の鋭い視線に、堂々とした立ち振る舞いで母は口を開いた。

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