第5話 サプライズ

 それは何の知らせも前触れもなく、突如としてやってきた。

 良く晴れた日、オーシュが庭の菜園に水を撒いているとふと頭上が一瞬暗くなる。

 雲で陰ったのかと思い空を見上げてみたが、晴天の空には太陽の光を遮るような雲は一つもない。


「?」


 不思議に思ったオーシュが首を傾げていると、すぐ後ろから懐かしい声がかかった。


「オーシュ」

「……!」


 ゆっくりと振り返るのと同時に、それは柔らかな感触をオーシュに与えた。突然目の前に飛び込んできたそれに驚いて言葉が一瞬出てこず、硬直したまま瞬きだけを繰り返していた。


「セ、セイラ……?」


 一瞬の間を置いて、呪縛から解かれた様に一言言葉がこぼれる。すると胸に飛び込んできたセレジェイラは嬉しそうに目に涙を滲ませて彼を見上げた。


「はい」


 もう会う事はないだろうと思っていたオーシュには大きなサプライズになった。思いがけずにすっぽりと懐まで飛び込んで来た彼女の姿に戸惑いしかない。


「……おま、どうして……」

「オーシュに、ずっと逢いたかった」


 頬を染めて気恥ずかしそうに瞼を伏せ俯いたセレジェイラに、オーシュはぎこちなく僅かに視線をそらした。

 ついこの間、甘い胸の疼きを思い出したもののもう一度蓋をしようと思っていたところだったのに、とんだフェイントを食らってしまった。そして彼女のあまりに素直な言葉が胸の疼きをより鮮明にさせる。


「お、おう……」


 上手く答えられずに短くそう応えると、セレジェイラを見かけて慌てて出てきたアリーナがオーシュの肩を叩く。


「馬鹿ね。他に言う事ないの?」

「な、何だよ」

「こういう時は、“俺も会いたかった”ぐらい言うもんでしょ。気が利かないわね、まったく。ほんと鈍いんだから」


 呆れたように睨み上げてくるアリーナに、オーシュは面食らったようにぐっと押し黙る。そしてぎこちなくもぷいっとそっぽを向き、ぶっきらぼうに口を開いた。


「……お、オレモ、アイタカッタ……」


 言い馴れない言葉に、信じられないほどの棒読みでそう口にしたオーシュの顔は見た事もないほどに赤らんでいる。

 決してセレジェイラを見ることなく言ったその言葉に、アリーナとセレジェイラはどちらからともなく視線を合わせた瞬間、思わず噴出してしまった。


「ぷっ……! 何それ……っ」

「……はぁ?」


 怪訝そうに二人を見ると、彼女達は目の前で笑い転げていた。

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