第2話 ずるい感情
「セレジェイラ、起きているかい?」
「はい」
ふいに、部屋のドアがノックされ声がかかった。
セレジェイラはそちらを振り返り返事を返すと、そっと扉が押し開かれて天界の最高神であるマリウスが顔を覗かせた。
柔らかな金髪が、朝日に光って美しい。
「具合は良さそうだね」
朗らかに微笑みながら扉を閉め、側に歩み寄ってくるマリウスにセレジェイラは微笑み返した。
「はい。おかげさまで」
「今日でようやく終わりか……よく耐えてきたな」
ベッドの側に置かれていた椅子に腰を下ろしながら感心したように呟くと、セレジェイラはゆるく微笑みかける。
「これを乗り越えたら、あの人にもう一度会えるから……」
僅かに頬を染め、はにかんだように微笑むセレジェイラに、マリウスは複雑な笑みを浮かべて深くため息を漏らした。
「……焼けるね。君は、本当にあいつの事が好きなんだな」
「はい。とても」
嫌味など一つもない笑みを浮かべて自分の気持ちに正直に頷くと、マリウスはいよいよ困ったように笑いながら瞼を伏せて首を横に振った。
「まったく。どうやっても、俺が入り込む隙はないなぁ。こんなに献身的に君の側で看病をしていると言うのに」
「マリウス様……」
「まぁ……でも、君たちにとってこれは第一関門突破への大事な道なんだろう」
第一関門。その言葉に、セレジェイラは僅かに顔を曇らせながらも微笑み返した。
異種族同士が結ばれる事は禁忌。
オーシュは人間で、セレジェイラは天界人。異種族同士である事に変わりはない。
「……私とあの人とはこれから先、一生結ばれる事はないのかもしれません。同じ時間を生きれず、今のままなら確実にあの人の方が先に亡くなってしまう。それを分かっていても、私は今の気持ちを無視できるほど大人じゃありません」
「……」
セレジェイラの言葉に、マリウスはただ真剣にじっと耳を傾けていた。
彼女の気持ちを尊重してやりたい。その気持ちが強くて、しかし、自分が彼女を想う気持ちにも目を背けたくない。そんな複雑な思いがマリウスの胸中を渦巻いていた。
マリウスは今一度彼女に向き合うと、そっと手を握り締める。
「セレジェイラ。君にもう何度も伝えてきた言葉だが……。もしも、あいつと同じ時間を生きる術が見つからなかったら、私の妻にならないか?」
隙あらばと思う自分のずるい感情は、何度打ち消そうと思ってもやはり消えない。消したくは無かった。
答えは分かっていても、彼女を想う気持ちはセレジェイラがオーシュを想うのと同じくらい強いものだ。
セレジェイラは申し訳なさそうに瞼を伏せて口を開く。
「マリウス様……。それは、何度も申し上げてきた事ですが……」
「分かっているよ。君の返事は決まってノーでしかない。だが、私は君があいつを想う気持ちを胸にしたまま、天界人として一生一人で生きていくのを見ていたくないんだ。あいつへの気持ちはそのままでいい。君があいつを好きでいても構わないから、俺を君の側にいさせてはくれないか?」
真剣な眼差しで訴えかけてくるマリウスに、セレジェイラは視線を上げて彼を見つめる。
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