第8話 それ勘違いないです

 狭い洗面所で髪を乾かして、一緒に歯を磨いて、化粧水をつけて、サーシャが私の手を引くままに二階へ向かった。


 二つ布団を敷いていたので、当然自分の布団に入ろうとしたが、サーシャは私の体を正面から押した。

 受け身を取らずに衝撃で跳ね返った感覚が重く感じた。サーシャはゆっくり体重をかけないように太ももの上に座った。


「私、藍が好きです。藍、もっと仲良くしたいです」


「うん、私もそう思っているよ」


「じゃ、勉強の結果、やりませんか?」

 あの漫画か、BLで実践ってなんだ? 首をくいってするのか。でももう寝転がっているし、うむっ。


 目を開けていたので、ぼやけているもののサーシャが顔を近づけていることに気付いた。異国ではこういう時に舌を入れるのか。じゃなくて!


「待って、サーシャ」


「待ちません」


「ダメだよ」


「歓迎会で見た藍とてもかわいいかった。すぐにドキドキしました。でも藍は他の女の子に話していて、こっちみなかった。嫌な気持ち、藍はわからない、この気持ち」

 分かるよ。でもその気持ちは勘違いだ。

 たまたま異国で不安な気持ちを紛らわせているだけなんだよサーシャ。

「私、日本語リスニング毎日してる。私、あなたがすき。

 したいにこもった感情に私は驚いた。


「そういうことは大人になってから、ちゃんとした方がいいよ。今はただ」

 これはこの言葉は関係性に致命的なダメージを加えることになる。

「かんちがいだよ」


 ふわっと瞳孔が開き、すぐに少し笑い部屋を飛び出して行った。


「サーシャ!」

 急いで追いかけた。


「サーシャちゃんもあなたも走ってどうしたの? ちょっと外はマイナスよ」

 外に出たのは戸が開いた音がして分かった。


 飛び出して雪に足をとられて、サーシャはは転んだ。


「サーシャ」


「来ないでください。変な人だって思ったです。もう近寄りません。明日帰って担当の人変えてもらうます。ごめんなさいです。もう帰ります」


「ダメだよ。今からここは遠い」


「何やってるの?」

 さすが慣れている。ちゃんと足の腹で床を踏んできた。


「帰るのはいいけど、何があったの?」


「私が藍に気持ち悪いことしました。嫌われました」


「アンタは?」


「サーシャが私の事を好きって」


「何て答えたの?」


「勘違いだって」


「こっちを向きなさい」

 向くと右頬に重い一撃を食らった。


「アンタが悪い。しばらくそこで座ってなさい。サーシャちゃん家に帰ろ」


「でも藍が」


「藍。何が悪かったかそこで考えなさい」

 後ろの戸の鍵が無情にも確実に閉められた。


 一時間は経ったかもしれない。いや、こんな状況で出されたから、これが三十分と言われたらそれは辛い。


 戸が開く音がした。


「藍、入れ。ミサキも酷い事をする。でもな」


「私がもっと酷いでしょ」


「あぁ、そうだ。お前は人の心を二度殺した」


「二度と殺した」


「ミサキから聞いている。サーシャちゃんは私が悪い、藍を入れてあげてというんだ」

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