第9話 チャンス
ストーブで暖められた家の中の仕事場。玄関から隔離されているので、ここから家に入ろうとしたら、鍵を開けてもらおうとしないと入ることが出来ない。
何が悪かったか。それを考えようとした。幸い着替えとタオルが置いてあったので、着替えた。室内とは言え、隙間風が堪えた。
ストーブに当たりながら考えた。
二度殺した。一度目は心当たりがある。布団に押し倒された時に勘違いと言った。他はなんだ。何が間違えているんだ。
「その気が無いなら、ちゃんと線を引くべきだった」
お祈りの時に感じた違和感だ。
「おじいちゃん」
「ミサキもな、学生時代に間違えたんだ。留学生の女の子に迫られて、間違えたんだ。その女の子は異国に帰ることは無かった。海誠じゃないぞ。県外だ。自分とダブったんだろうな」
「その留学生って」
「日本で結婚したそうだ。招待状が来て欠席と書いて送ったらしい。後日、手紙が来て困っていた」
おじいちゃんはゲラゲラ笑った。
「いいか? 言葉ってのは誰かを救う時とあり得ないくらい鋭利に刺さることがある。それはいい意味でも悪い意味でもだ。ちゃんと考えて相手がどう思ってどう受け取るか。相手の気持ちになって考えるんだ。さ、お上がり」
もう人の心に対して勘違いとは言わない。今さら、この距離感に文句も言えない。
年末年始。会うことも無かった。
冬休み明け、間違いなく関係性が変わった。自分から進んで活動をして、私に依存していたサーシャの姿は消えた。
私を藍とは呼ばずに角川さんと呼んだ。
もう取り返されない。これでいい、これでいいか。このまま年度末で帰ってしまう。もっと仲良くなって、この狭い町でお気に入りを紹介して、おじいちゃんに温泉に連れて行ってもらえる未来だってあったはずだ。
仕方ないじゃない。私はサーシャをそう見ることが出来ないから、好きだよ。でもそれは友達までだよ。
気を持たせたのは私で酷いことをしたのも私。
「サーシャ、明日のテストだけど過去問もし良かったら」
「角川さんありがとございます。お友達に勉強みてもらいます。もう大丈夫です」
一月はすぐに終わった。
ごめんなさい、許してください。そんな甘えた事を言う権利はないし、それを願うのはエゴだ。許されて救われるのはサーシャでは無く私の心だ。
二月の末、まだしんしんと雪は降っていた。テストが終わって、校内奉仕という掃除をして、あとサーシャがいるのは三月の中頃にある卒業式の後の送別会だ。
校内やあちこちを毎日探した。どこにもいない、どこかにいてよ。まだ何ももっと、禁書棚で、サーシャを見た。サーシャは手を引こうとしたので、慌てて強い力で掴んだ。
「やめてください。角川さん」
「私、ひどいことした」
サーシャの引く手が緩んだ。
「謝るのはきっと気持ち悪い行為で、また傷つけてしまうかもしれない。それでもごめん。あなたの大切を私はひどい扱いをした。あと一ヶ月あなたを大切にする権利をください」
その言葉の意味はわかっている。つまり交際をする前提のお友達だ。
「ありがとう。私にチャンスくれるのですね」
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