第6話 生誕祭

「藍おはよう」


「出た裏切り者」


「ごめんって、その確かに気は重かった。でもまさかあんなに数学の難易度が上がるなんてさ」


 確かに一か月は数学のテストは難しくなった。それでも復習をしない明里が悪い。


「それでさ、生誕祭はどうすんの? 唯一、男を学園の中に呼べる機会よ」

 概ねあっているが完璧ではない。

 家族を招待する発表会だ。

 高等部一年は地域観光についての発表を班ごとにする予定だ。


 その後にみんなでダンスをしているところを縫って様々な男女が仲睦まじくそれぞれ校内で致すと。


「嫌だなー、何もしないよ。ちょっとした交友だよ、アンタも早く相手見つけなよ、じゃ」

 学校と家の往復でタバコ吹かしてたまに仕事に出るおじいちゃん、ヘルパーのお母さん、赤い罰が貼られたお父さんの部屋。

 そんな中でどうやって家族を招待出来ようか。


 冬、まさに生誕祭の日にお父さんは山に食われたのだ。


「藍?」

 ハッとした。目の前にはサーシャがいた。


「え、なんで?」


「ほっとしたした。廊下で崩れ落ちてそこから」

 サーシャは私の手を握った。


「いなくなるの、いや」


「えっ、なに」


「藍が山に持って行かれるのは嫌」


「なんで」


「お父さん食われて今年で五年。登りに行ってもお父さん帰ってきない」


「分かってるわよ! それくらい」

 私は差し出された腕を払い除けた。


 でもあまりにも非力だった。


「分かってるわよ。お父さんは帰ってこない。毎日福祉施設に働きに行く人だった。施設には山の写真でいっぱいだった。私は山に興味が無くて、いつかいい写真を見せてやるって言われて気にもしなかったのに、お父さんがいなくなってから、後悔だらけよ」


 胸に抱かれた。


「私、春来る前日本さよならします。それまではここにいます。もっと仲良くなります。また帰ってます。待っててください」

 うん、うん。そう言って強くサーシャの体に身を押し付けた。


 生誕祭の発表も終わりダンスもそろそろお開きかという感じになった。と、言うのも生徒が結構いなくなっていた。

 名前を呼ばれて名簿に書かれている。何人が怒られるのだろうか、上手くごまかせよ、下手すりゃ停学だぞ。


「サーシャの姿がないが、また外泊?」

 寮の管理の先生がサーシャを探しているのか。


「そのつもりです」


「寒いから道中気をつけろ」


「ありがとうございます」

 寮の管理の先生は知らない。この日がお父さんの命日ということを、寒いのにどこにいるんだろサーシャ。


 暗くて寒く無いところでそういうことをしていると聞いたので、その候補を外した暗いが寒いところか明るいが寒くないところを探した。

 候補を立てたうちの一つが教会だった。ここを不純異性交遊は避けるだろうと思ったのだ。


「サーシャ何して」


「お祈りです」


「お父さんのことはもう」


「違います」



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