第4話 家族と

「お父さんのスエットきれいに入ったわね」


「暖かいです。ありがとございます」

 お父さんの服に違う人の肌が通った。


「なんかやだな」


「どうした藍」


「なんでもない。今日は鹿?」


「去年のだがな。干し肉と酒は美味い」


「大人だけよ。子どもは隣の県から来たお魚。向こうの人は生に抵抗あるから、鯖の塩焼きよ」


「お箸難しいです」


「ゆっくりだけど、慣れてね。これも日本文化の洗礼よ」


「わかるました」

 おじいちゃんもお母さんも嬉しそうだ。晴れないのは私の心だけ、お母さんと一緒私の中にはこの時期お父さんがいる。


「食べないですか?」


「食べるよ。食べる」

 お風呂は入ってきたから、お布団敷いてあげるね。

 お母さんは二階に消えた。


「お母さん、それくらい自分で出来るよ」


「サーシャちゃんと一緒にいなさい。まだ色々不安でしょ」

 サーシャは視線をうろうろと動かした。


「あの、この服」

 サーシャの方を見ないように私は話始めた。


「山に食べられたお父さんの服。いつもは和やかに登る登山道なのに五年に一回大吹雪が吹いて、人が一人食べられちゃうの。そういう恐ろしい山に食べられてしまった」


 サーシャは服を脱ぎ始めた。


「何してんの?


「私にはパパ、ママいます」

 騒ぎにおじいちゃんもお母さんもやってきた。


「この服着てる藍悲しそう。私、寒いところ大丈夫。お父さんいない気持ちわかりません。でもこの服は本当はお父さんのもの。だから多分まだにおいついてないから、これはお父さんの物です」


 きっとサーシャはお母さんや私と会って察したのかもしれない。この家に欠けたものを、本来あるはずのものを。


「いいの、いいのよ。あなたがそう思ってくれただけでも私は嬉しい。何も思わないで着てね」

 お母さんはサーシャを強く抱きしめた。


 お母さんに抱きしめられたサーシャは私の部屋に敷かれた布団で上を向いたまま何も言わなかった。なんとなく気まずくてサーシャの方を向いた私は「お昼のさ、おっぱい大きくなるやつ教えてよ」と、言った。

 

 サーシャはこちらを向き「本当に知りたいですか?」と、言った。なんとなく違う雰囲気に私は「やっぱいい」と、言った。


 外は風が強くて下の雨戸を揺らしている。


「手を握ってください」

 私はサーシャの手を握りすっかり冷たくなっていることに驚いた。


「サーシャダメだよ。お湯作ってくるから」


「冷え性なだけです。手を握ってください。それだけでいいです」

 サーシャの柔らかく冷たい手を私は握った。


 横からスースーと聞こえた。これじゃ、トイレに行けないな。明日は私服登校かな、早めに出ないといけないだろうな。


 そう思いながら目を閉じた


「え、おじいちゃん。寮母さんに何も言ってないの?」


「お母さんが言っただろ」


「私は知らないわよ。藍が言ったんじゃないの?」


「サーシャ、あんた」


「外出届書きました」


「外泊は?」


「あの時点で泊るかわらないでした」

 そうか、服が無いという理由だけではなく。そもそも届を出していなかったんだ。

 

 がっかりとした気分でおじいちゃんの車に乗って登校。寮の前の管理部屋を叩くと管理の先生の顔が一瞬の安堵と憤りで大変だった。

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