消えたエッセイ
玄納守
全裸開運術
カクヨムだったか、なろうだったか、全くウロ覚えのエッセイをさがしています。コロナが始まるもっと前の話です。
タイトルは「全裸開運術」……だったと思うのですが、もしかしたら章のタイトルだったかもしれません。正確なタイトルが思い出せないので検索もできません。
中身は割と真面目で、運勢の考え方と理屈、そして具体的な開運方法。さらにはそれに従った実体験で構成されています。
要約すれば『運気を高めたければ、全裸になれ』というエッセイです。
しかも、ホントどうでもいい微妙な運の具体例で「卵の黄身が二つ出た」とか「無くしたと思っていた本が出てきた」とか「買い忘れたナプキンが戸棚から出てきた」とか。
ちなみに、このナプキンの話で「え? この作者、女性なの?」って驚いて、一気に読んでしまいました。それまでは、作者がおっさんで「全裸で開運」と言っているとばかり思っていたので、衝撃が走ったのを覚えています。
ちなみに、妙に生々しい不倫ものエロ小説の作家さんです。
カクヨムでは珍しいので、一体、どこで読んだのか……。いずれにしろ、運営にバレたら消されるなと思っていました。
その作者が「これ以上やると、運が悪くなる」と、徐々に服を着始めてしまうわけですが、その開運術の理屈が妙に説得力があって、内容を少し覚えてしまいました。
まず、運とは外界から来るものであり、常に気を流す必要があると。
これは風水の考え方ですね。
その人は東から西へ風が通ることを推奨していました。
幸運は東からやってくると。
そして「運」という文字が示すように、これは流れて運ばれるものであり、留め続けることもできず、無理に引き留めれば、気がよどみ、運気が悪くなるそうです。なので、速やかに行動をするようにと。
次に、運には太陽と月の連動があると。
これはいろんな占いで採用されているので、珍しいものではありません。
最後に、運を受け入れるためには、外気に当たる肌の面積を大きくする必要がある、と。つまり最高に運気をあげたければ、全裸になれということです。服を着ていると、せっかくやってきた運が服の上を滑っていくとか。
で、その開運術に従って、全裸で生活されているエッセイでした。
──それから数年後。
自分も小説を書くようになり、改めてその作品を探しましたが、どうしてもみつかりません。タイトルもうろ覚えですし、当時はアカウントももっていなかったので、履歴もありません。
カクヨムじゃなかったのかもと、他のWeb小説サイトを探しましたが、それらしいものはありません。
なので、もしも、このエッセイをどこかで読んだことがあるという人はご一報いただきたいのです。
なぜ、このエッセイを探しているかというと、一度読んでしまうと、気になって仕方がなくなるからです。
皆さんも経験があるでしょう。
芥川の『蜘蛛の糸』を読んだ後は、簡単に蜘蛛を殺せなくなってませんか?
信じてなくても、そんな行動を自然と取ってしまうほど、人は何かに縛られてしまうのです。
まさに、ボクがそうでした。
実は第29回電撃小説大賞で一次選考を通った時、たまたま偶然にも、全裸だったんです。小説そのものは、「とにかく書いてみる」のレベルだったので、記念受験みたいな作品で出したのですが、それが一次選考を通りました。
なぜ、全裸だったのかというと、お風呂上りにスマホでメールを見たのです。
二次選考の結果は、外出中のスマホで見たので、服を着ていました。
落選です。
翌年、つまり今年の第30回電撃小説大賞もそうでした。一次選考はたまたま、パンイチで見ていました。
通過です。
そこで思い出したのです。
「……もしや、知らずのうちに『全裸開運術』になっていたのでは?」
確かに、窓が開いて爽やかな風が通っていったのを覚えています。
これを確かめるために、二次選考の日は、意図的に服を脱ぎました。
自室のあるマンションの部屋には東西に風を通すための窓があり、風通しはいいです。しかも角部屋なので、外廊下に人の往来がめったにありません。
さらに幸運なことに、その日は在宅勤務で、Web会議すらありません。
恐る恐る全裸になって、結果発表を待つことにしました。
今思えば、自宅とはいえ、窓を開けた状態でノーパンは相当ヤバかったなと思います。一歩間違えれば変質者です。いや、自室ならば、ギリギリ裸族で済むでしょうか?
季節は夏。
東側から夏の熱風が部屋を通るたびに、カーテンが広がり、ドキドキします。
角部屋とはいえ、外廊下の向こうは、当たり前ですが、外です。人がいます。
落ち着くために、椅子に座り、居心地が悪いので足を組みました。
往年のエマニュエル夫人以来かもしれません。
いや、夫人も下半身は何か着ていた気がします。
(なら、発表の直前で服を脱げば?)
と思うかもしれませんよね。
当然、ボクの脳裏にもよぎりました。
ですが、エッセイを思い出したのです。
その女性は、毎日、朝から全裸でいたわけです。恐らく、肌を外気に晒している時間と、運気に関係があるに違いありません。
エッセイには少なくとも「流れる作業が必要で、間を置かないこと」みたいなことが書かれてあったのは覚えています。
これも運は流れていくものであるという思想の一端でしょう。「運は待ってくれない」というのは、古今東西のことわざが示す通りです。
とにかく、準備を整えて、じっと発表を待っていました。
ところがです。
間の悪いことに、ちょうどその時、外廊下に人の気配が……。
なんと、生協さんが野菜の置き配を始めたのです。
なんてこった。今日は生協さんが来る日か!
と自分の迂闊さを呪いました。
コロナ以来、生協さんと契約して、野菜は外廊下の箱に詰めてもらっています。
生協さん、ありがとう。でもタイミングが悪い。ボクはいま、全裸なのです。
幸い、窓にはルーバーがついており、簡単には下半身は見えません。
しかし、あの位置から見上げれば上半身裸のボクが見えそうです。
もしも万が一、生協さんが何も知らずに、ふと人の気配に、こちらを振り返ったら……さすがに
慌ててボクはベッドの上に脱ぎ捨てたTシャツに手を伸ばしました。
もちろん、見られたら下半身に違和感が大きいわけですが、せめて見えそうな上半身だけでもと、音を立てずにTシャツにそでを通しました。物理的にパンツがより遠くに脱ぎ捨てられていたというのもあります。
しかし、そのタイミングで電撃からのメールが届いてしまったのです。
──ああ、このタイミングでか……。
万事休すです。
ですが、
メールで結果だけを見ればいいのですが、そこは、期待もあって、サイトで自分の名前を確認しにいきたかったのです。
その結果は、なんとなんと!?
二次選考を通過しているではないですか!?
声を出しそうになる自分に慌てて口を手で押さえ立ち上がりました。
あの第30回の電撃大賞ですよ!?
激戦の電撃大賞の二次を通過したという喜びと衝撃は、恐らく応募した人ならわかってくださるのではないでしょうか?
四千作品を超える応募の中で、残り九十作品まで入ったのです。
飛び跳ねたい気持ちをぐっと抑え、外廊下をのぞくと、まだ生協さんは野菜を詰めています。
ところでご存じかと思いますが、電撃小説大賞は、二次三次同時発表です。
続けて、三次選考はどうなのか?
……残念な結果でした。
その時、ふと自分の姿を見ました。
下はスッポンポンなのに、上にはTシャツが……。
ああ、このせいか。ああ、上半身の運気が三次選考だったのか……。
あのエッセイの論で言えば、このTシャツに運が遮られたことになります。
こうなってくると、あの全裸開運術の信ぴょう性が増したようにボクには思えました。
言われてみれば「家では全裸です」という芸能人は、売れっ子が多い気もします。
セレブと呼ばれる成功者たちのドレスの面積が小さいのも、関係しているのかもしれません。
家ではずっとパンイチで過ごしていた父も、特に何かしていたわけでもないのに、長生きで、なかなか死にません。
きっと今回の電撃大賞を取った人も、かなりの薄着だったに違いないでしょう。なんなら全裸を通り越して、皮膚を剥いてるくらいであってほしいです。
さすがにこの冬のカクヨムコンは、寒いので全裸になる人は少なそうですが、もしかしたら、全裸で勝負する人が出てくるかもしれません。ですが、窓を開けるとなると、冬は……地方によっては凍死しかねません。
皆さん、冬はやめておきましょう。抜け駆けは禁止です。
ということで、もしも昔に「それを読んだことあるよ」とか「あれの作者は私です」という方がいらっしゃいましたら、ぜひ、コメント欄にご連絡ください!
そして、皆さん。穏やかな季節の公募の発表の際、運を味方につけたいのであれば、全裸です。可能な限り、空気の通りの良い状態で全裸で臨みましょう。
皆さんの運気が良くなることを祈っています!
消えたエッセイ 玄納守 @kuronosu13
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。消えたエッセイの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます