第2話 上着は可愛い

ミシェルさんをおんぶしてから、多少歩いて俺は、気付いた。背中にとてつもなく豊満で柔らかい双丘が背中に押し付けられている事を。


歩くたびに体が揺れて背中のお胸が離れては、近ずいてを繰り返す。その度に甘い柑橘系の匂いが鼻に吸い込まれて変な気持ちになってしまう。


(がぁぁあ……背中にプニプニがぁぁぁ……)


今にも別の意味で色々と暴れだしそうな自分の自分と理性を必死に押し殺す。もし暴走をさせたなら速攻通報案件&ミシェルさんに最悪なトラウマを産み付けるに違いない。


そうなれば、今でも学校での肩身が狭いのに更に狭くなり学校生活が過ごせなくなる。そうなると将来的に色々と困る。


俺は、自分自身の脳を最大限フル回転させて別の物に意識を移す。


「ミシェルさん、どうしてあんな所で足を挫いたのですか?」


「えっ……あ」


別の考えに移す為、質問をするとミシェルさんは、無言の時間からいきなりの質問に驚いたのかオドオドとしていた。


即興で質問したが怪我の原因を聞くのは、良くなかったかもしれない。


「言いたくないなら言わなくても大丈夫ですよ」


「あ、その……実は」


背中越しに口をモゴモゴとさせながらミシェルさんは、耳元で小さく囁く。


「恥ずかしながら猫を追って走っていたら足を捻ってしまって……」


「え? 猫ってあの?」


まさかの原因に思わずミシェルさんの方を見ながら聞き直してしまう。


「はい……あの猫です……」


先程よりも、背中越しからモゴモゴと聞こえてくる感じ的に更に恥ずかしがっている。これが目の前で見られたら、全米の男子がぶっ倒れて吐血を吐くに違いない。


「猫が好きなんだね」


「はい! モフモフしてて可愛くて! 実家で飼っているペットのニャミは、鳴き声が可愛くて!」


背中越しに楽しく猫愛を語るミシェルさんは、ぴょこぴょこ体を揺らす。


その度に、先程よりも激しい頻度で双丘が背中に当たっては、離れてを繰り返す。流石に理性がぶっ壊れる。


「ミシェルさん、猫可愛いよね分かるよ。テンションが上がるのもわかる。でもミシェルさんその……ぴょこぴょこ揺れると背中に胸が当たる……」


なるべく、変態扱いされない為言葉を選びつつ慎重に発言をする。ここで仮に「ミシェルさん、おっぱい当たってる」なんて言ったら紳士としてのプライドが崩れ落ちる。


「ひゃへ!? え、 あ、すいません! 当てるつもりは、無くて! へぶち……」


「大丈夫だよ。故意は、無いことは、わかってるから。にしてもへぶちって」


独特な驚きにクスクスと笑うと、背中からポコポコと肩を叩かれる。


「恥ずかしいので、辞めてください! 恥ずかしくて出ちゃったんです!」


背中越しで見なくても、もの凄く照れてるのが分かるほどにミシェルさんは、動揺をしている。


「ごめんごめん。面白くて」


「次笑ったら許しませんからね! 覚悟して下さいね」


クラスカーストいや、学校カーストトップのミシェルさんからの「覚悟してくださいね」の言葉に俺は、背筋が凍る。多分次やったら軽く存在できなくなる。


(今度からは、うん。いや、次からは多分関わる機会は、無いが気おつけよう)


内心でミシェルさんの事を笑うのは、やめようと強く念に込めて、自宅の方向へ会話を交えながら再び歩く。



15分程ミシェルさんと雑談をしながら歩いて俺は、自宅の玄関の前に着いた。ポケットから鍵を出し、玄関を開けて、俺はミシェルさんをおんぶしながら靴を脱いでリビングのソファに向かう。


「ミシェルさん部屋から医療箱持ってくるからちょっと待ってて」


「わかりました」


リビングの突き当たり左のドアを開けて、俺は棚に置いてあった医療箱を持ってリビングに向かう。自分の怪我ならそんな急がなくても良いが、今回はミシェルさんの怪我だ。急ぐのが善だろう。


「ミシェルさん持ってきたよ。捻った所見てもいい?」


「大丈夫です!」


何故か自信満々に言うミシェルさんを横目に俺は、履いているタイツを脱がす。ゆっくり、ゆっくりとタイツを下ろしていく度に徐々に地肌が見えてくる。


タイツを脱がしていると、上から「ううっ」と言う、何か意味を含んでいそうな、声が聞こえてくる。


決して変な事はしていないはずなのに、とてもいかがわしい事をしている気分になる。


(決して変な事は、してない! していない!)


自分に言い聞かせて全部のタイツを脱がせて、俺は改めてミシェルさんの足を見る。うっすらとして白色の肌に滑らかで細くスレンダーな足で艶がある。


脱がす時、足に手が触れた時に本当に同類かと思う程に、プニプニで柔らかく細くサラサラしていた。


全てのタイツを脱がすと同時に甘い柑橘系のミシェルさんの匂いが鼻腔を刺激する。今にも思考がミシェルさんに包まれそうだった。


でもそれを上回るミシェルさんの足に視線が釘付けになる。つま先から太ももまで視線を巡らせて見るが、異性から見てもとても羨ましい程に眩しい。


これは、女子が羨ましいと思うのもごもっともだ。俺が女性だった場合ミシェルさんのこの美しい足に羨ましくて枕を毎晩濡らすに違いない。


俺も女子になれたら、こんな足が欲しいです。TS展開になってラブコメ界の美少女ヒロインになりたいです。


願望を語りながらまじまじとミシェルさんの足を見てるとタイツを脱がしてあらわになった赤色に腫れた患部が目に入る。


「ミシェルさん触っても大丈夫?」


いきなり触るのは不躾と言うものなので、俺は一応ミシェルさんに確認をとる。


「大丈夫です!」


「ありがと。触るね」


「ん」


了承を貰い、俺はミシェルさんのうっすらとした肌に手を滑らせる。ものすごくサラサラしていて触り心地が良い。


このまま時間が止まれば2時間くらい堪能したい所だが、今の目的は患部の腫れの確認だ。不埒な考えのお楽しみ会では無い。


そっと赤く腫れている患部に触れる。先程座り込んでいた時よりも多少赤く腫れ上がっている。


「ちょっと押すよ」


「はい……」


赤く腫れている部分を優しく押すと、ミシェルさんの「痛ッ」と言う声が漏れる。見た感じ、骨折はしていない。捻挫ということろか。


「ミシェルさん、多分捻挫してる」


「捻挫ですか……」


「そう。ちょっと待ってね、今湿布と包帯巻くから」


医療箱から湿布と包帯を取り出し、ミシェルさんの赤く腫れている患部に貼る。捻挫とは言っても痛々しい。


「あんまり動かしたら治り遅くなっちゃうから動かないように少し固く巻いていい?」


「え? あ、はい」


あまり緩く巻いても動かせて治りが遅くなる為、多少強くではあるが、ミシェルさんの足に包帯を硬く巻く。


「どう? 少しは動くかな?」


ガチガチに固めすぎて全く動かないと言うのも、困る為、確認をする。


「動きます、大丈夫です!」


「良かった。所でミシェルさん、さっきからどうしたの? キョロキョロして」


ラブコメ漫画のテンプレの如く驚いた様に体をビクッと揺らす。


「えっとその、なんか見覚えがあって部屋の構造に、私が住んでいる部屋と同じ構造な感じがしまして……」


「そうかな? ここら辺のマンションの構造は、どれも一緒だと思うけど」


「そ、うですかね?」


「うん」


突然の話の内容に多少驚きつつ、俺はミシェルさんに時計を見ながら話しかける。


「所でミシェルさん? そろそろ時間的に暗くなるけど大丈夫? 家まで送っていくよ」


流石に夜道1人で女の子を帰らせる訳には、行かない為、なるべくキモさを出さない様恐る恐る、家まで送る提案をする。悩ましげに眉を下げて考え込む、ミシェルさんを眺めながら俺は別の事を考える。


(にしてここら辺で似てる構造の建物あったか?)


ミシェルさんが考えこんでいる間俺は、先程自分が言った言葉に疑問を持ちつつ考えている。構造は、だいたい似てるがここは、マンション他とは内装がだいぶ違うよな? ミシェルさんが似てるって言ってた部分ってどこなんだ。


引っかかった自分の言葉を考えても答えが出ない。その間にも、元気に光っていた太陽は、徐々に山に姿を隠し始めていた。


考え始めてから5分程経っただろうか、ミシェルさんが考え終わったのから、顔を上げた。


「で、では……お願いします……」


何故か、頬を赤らめている事に不思議に思いつつ、俺は軽く了承して立ち上がる。


「じゃあちょっと上着持ってくるね。ミシェルさん上着とかある?」


流石に6月の夕方は、多少は冷え込む。ここで2人とも風邪を引いたら俺は、元も子も無い。それに俺が風邪を引いた場合、数日休んだだけだ周りから忘れられる可能性がある為、避けなければならない。


「上着は、いつも持ってきてなくて」


「そっか、ならちょっと待ってて着れそうなの持ってくるね」


「ありがとうございます」


ソファーに座りながらペコッとお礼するミシェルさんを目視で確認して、俺は自室に向かいクローゼットを開ける。


ぶっちゃけ、自分の着るものだったらなんでも良い。薄くても破れてグチャグチャになってもサイズが大きくても。


だがミシェルさんに着させるものだ。薄かったり、破れたりしていた保温性も無く、風邪を引いてしまう可能性がある。 それに、そんなのを相手に渡すのは、失礼極まりない。


なるべく、着てなくて状態が綺麗で保温性がある暖かい上着……って確か、タンスの中に小さい頃仲良かった子から貰った上着があったな。


当時の自分には、サイズが一回り大きくて着れなかったが、ミシェルさんならサイズは、ちょうどいいだろう。


自分がいる上着を取り、クローゼット横のタンスを開けて、俺は綺麗に畳んである上着を取り出す。保温性もちゃんとあり、敗れてもない。完璧だ。


誰も見てないながら、ガッツポーズを決め込んで、俺はリビングに待たせているミシェルさんの方へ行く。


「お待たせ。上着これで大丈夫かな?」


ソファーに座ってるミシェルさんの前に立って、ミシェルさんが着る上着を広げる。


保温性はあるが、それ特有の重さも無く、生地は、サラサラとしている。色に関しても男女が着ても違和感の無い、白色。


どう? とミシェルさんに聞いても返事が返ってこない。少し待ってみても返事が来ない。


やっちまったか? 1人突っ走って勝手に見繕ったのが嫌だったか……陰キャ特有の突っ走りが出てしまった……これは、後で1人反省会3時間コースか……。


自分自身を自虐しながら、上着で隠れていたミシェルさんの方を見ると、俺が広げていた上着を何かに取り憑かれた様に見ていた。


「ミシェルさん? 大丈夫?」


不安を感じながら、声を掛けるとミシェルさんは、「は、はい!」と驚き? 混じりの声で反応する。


「大丈夫? 嫌だったかな、この上着」


自分の部屋にある、最も綺麗なものを見繕ったつもりでいたが、男性が選ぶとのでは、何か違う何かがあったのだろうか。


「い、いえ! 違います! ちょっと昔の思い出を思い出してしまって」


「思い出?」


「はい……小さい頃、よく一緒に遊んでいた男の子に私が引っ越す前にプレゼントしたんです」


ミシェルさんは、懐かしそうに話す。その表情は、いつもの学校で見る優しい表情とは違い、昔の思い出に浸っていて優しい別の意を含んだ表情だった。


「嬉しいだろうね。その男の子もプレゼントを貰えて」


「え? そ、うですかね……無理やり押し付けたみたいで……嬉しいですかね」


「それは違うよミシェルさん。プレゼントを貰って喜ばない人は、居ないよ。それがミシェルさんなら尚更」


「そうですかね、」


「ん」


ミシェルさんはまじまじと見つめた後、僕の手から上着を取って身に纏う。制服の上から纏われた上着は、前のボタンを閉めていないからか、とても可愛らしい。


いや、まぁ、可愛いのは、学校全体の認識なんだけどね。


「じゃあ行こっか」


「はい」


はにかみ笑顔で返事をして俺とミシェルさんは、玄関に向かった。

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