北欧聖女姫をおんぶしたら堕落に導かれた

翠川おちゃ

第1話 聖女は座ってました

俺の通っている高校には、1000年に一度の神からの美少女と呼ばれる存在がいる。


比喩表現でもなく、ミシェル・フィンネルさんは、誰にでも分け隔てなく優しく接して先生にも信頼されて周りからも頼られるそんな存在の美少女。


今も隣で大勢のクラスメイトから囲まれて質問攻めにあっている。


(相変わらず凄いな……もう入学から2ヶ月経つのに)


ミシェルさんの人気は、火を消すこと無く増す一方で最近では、アイドル事務所からのオファーも来たと聞いたりする。


もうすごいとしか言いようが無い。それに比べて自分の生活を考えると苦笑いしか浮かべられない。一人暮らしを良い事に休日は自宅から出ずゴロゴロと。


ミシェルさんと僕の生活の違いを見てみろ。もう天と地の差だ。


仮に俺がミシェルさんの生活をしたらどうなる? 考えなくても結果は、分かる……。即挫折して砕け散ってぶっ倒れる事間違えない。


周りから質問攻めでずっと喋っていたら口と脳の行動がズレはじめて会話が続かなくなるだろう。


だから今もこうして誰にも話しかけられないように机に伏せて近づくなオーラを出している。


だが例外も存在する。それが今机に伏せている俺に隣から話を掛けてくる数少ない友達の天峰遥斗。


「なんだよ……さっきから」


「いやぁ寝てるのかなぁと。お前っていつも伏せてるから寝てるか起きてるか分からないんだ」


「寝ていないがこうすれば誰にも話しかけられないから楽なんだ……」


伏せながらボソボソ言い、隣の席のミシェルさんに視線を向けると俺の視線の先に居る存在に気付いたのか、遥斗がニヒッと笑みを浮かべた。


「そういうことかぁ〜へへぇ〜隣がミシェルさんで自分には、あんなの無理って考えて挫折したんだなぁ?」


「はぁ……お前超能力者か? 心を全て見透かしてくるなこんちくしょう」


「ふっ。男友達の友情は分厚いぜ! 特に俺みたいに友達が多いいとな!」


胸を叩きながら自信満々に遥斗は、自分の友達の多さを自慢する。多少イラッとしたが俺は、その自慢に何も言い返せなかった。


何せ事実を嘘偽り無く言っているからだ。遥斗は、友達が多く、クラスでも一軍に位置するグループに所属している。


その上俺は、カースト最下位の陰キャグループだ。遥斗に言い返せる事と言えば、1つしか無い。


「俺は、自分で言うのもなんだが友達が極わずかだぞ」


顔を伏せつつ言うと遥斗は、の背中をバシバシと勢いよく叩き始める。その1つ1つの打撃は加減を知らずに叩き背中は、悲鳴をあげてる。


「そんな事言うなよぉ〜? 少なくとも俺は、友達だからなぁ!」


「そうだな。お前が友達になってくれなかったら俺の高校生活はお先真っ暗だったな」


「だろぉ? だから俺に感謝しろよ〜!」


「ん。感謝感激雨あられだ。てか遥斗そろそろホームルーム始まるから席戻れ」


時計に目を向けてホームルームの時間が迫っている事に気付き俺は、笑っている遥斗に座席に戻る様に促す。


「お、ホントだ。じゃまた後でな」


「ん」


遥斗が席に戻ると同時にミシェルさんに質問する為に集まっていたクラスメイト達も次々と自分達の座席に戻っていく。


それにしてもまた後でなって……


(あいついつもそう言って彼女と先に帰ってるやんけ)


内心彼女と帰る遥斗を軽く愚痴りながら再び俺は、机に伏せる。


下手すればこのまま寝落ちする可能性がある。何故だろうか学校の机で伏せると無性に眠気が襲ってくるのは。


机自体に睡眠薬でも塗りたくられてるのかと思う程に、もしそうだったら授業にならなくて集団居眠りになって面白そうだ。


現実味の無い事を1人考えていると前方側の扉がガラガラと開かれる。


「ちゃんと全員座ってるわね。じゃあ帰りの会を始めますよ〜」


低身長でマスコットキャラの担任の小宮麻衣先生が生徒全員いる事を確認してそう言い、帰りの会が始まった。



「やっと終わった〜なぁ今からカラオケ行かね?」


「いいね! 行こ」


帰りの会が無事終わり、クラスメイトが遊ぶ話をしている中俺は、帰りの支度をしながら遥斗を待つが一向に来る気配がない。


まあ分かっていた。いつも無言で彼女と先に帰ることが当たり前なので言われても頷くだけで信用は、していない。


(今日もぼっちで帰りますかー)


一応いつもの様に待つには、待ってみたが当たり前のように来ないので俺は、足取りを早くして階段を二弾飛ばしで降りて下駄箱に向かう。


特に急ぐ理由も無いが、強いて言うなら早く学校から帰って家で夢のグータラライフを過ごしたい。


何せ、地獄の1週間が何事も無く終わり、明日は学生諸君が待ち望んでいた休日。夜更かしをしたり、朝まで起きても休みなので誰にも咎められない。


休日とは、実に最高なものだ。毎日が休日で休みならどれだけ、嬉しく趣味に没頭出来るのだろうか。


下駄箱で不健康待った無しの事を考えながらうわばきから靴に履き替え俺は、学校を出る。


(何故だろう? いつもより足取りがリズムを刻んでいる。やっぱりこれは……休日の楽しさという物が表に出て具現化しているのか!?)


よく分からない頭おかしい事を脳裏で考えながら歩いていると、あっという間に学校が見えなくなっていた。


これも明日が休日だからと言う効果なのか。それまた、金曜日だからなのか、謎に包まれる自分の思考に若干の笑いを感じながら家までダッシュしようと走り出した時曲がり角に座り込む――


1人の少女の姿が見えた。


(えっ……? 今誰か居なかったか?)


走った時に微かに見えた光景に脳裏で疑問符を浮かべながら、考える。仮に今、座り込んでいた少女を放置したら少女は、どうなるのだろうか? もしどこか痛めていたらどうなるんだ。


少女の具合を考えると多少の不安が心を過ぎる。それに両親からは、困ってる人が居たら自分を後にして優先して助ける。それが女の子なら尚更と教え込まれている。ここで見過ごしたら多分、家に帰っても後悔して金曜日の夜が満喫出来ない。


(一応行くか……不良少女だったらまぁ、怖いが)


内心不安を感じながら、走る時見た光景を鮮明にさせながら俺は、Uターンをして確認の為早足でさっきの曲がり角に戻る。


何事も無い事を第1に願いながら俺は、先程走った所の角を曲がる。


「大丈夫ですか!」


曲がってすぐだったので何も見えてないが、自分の言おうとした発言より先に心配の発言が口から発せられた。


「さっき座り込んでるのが見えましたので、戻ってきましたが、どうしましたか?」


焦りを落ち着かせ、冷静な言葉を選び中腰になりながら座り込んでいる少女に声を掛ける。少女で良かった。これで不良少女だったら屈して言葉が発せられないだろう。


少女は、いきなり声を掛けられたことに驚いたのか体をビクッと揺らしながら、こちらを振り向いた。


「すいません、大丈夫です……ちょっと挫いてしまって……」


「それなら良か……たって……え?」


目の前に座り込んでこちらを見ている少女を見て驚きが隠せなかった。それは、相手も同じようで少女も同様に驚いていた。


「ミシェルさん?」


「え、高崎くん?」


お互いに驚きつつ名前を言うが俺は、それ以前に自分の名前を知っていてくれたと言うことに内心驚く。


(俺の名前、知ってたんだ……)


脳裏で名前を覚えてもらっていた事に少しの驚きを感じつつ俺は、ミシェルさんに返事を返す。


「うん、高崎裕翔。とりあえず足触っても大丈夫?」


勝手に触るのは、流石にタブーなのでミシェルさんに一応確認をとる。


「……大丈夫です」


多少頬を紅色に染めながらミシェルさんは、OKを出す。異性に素足を触られるのは、男の俺でも恥ずかしい。


(なんか恥ずかしいな……)


卑しい事が無いが妙に恥ずかしさを感じつつ、直ちにそんな不埒な考えを脳内天使が吹き飛ばす。


(何考えてんだ、クソ変態思考! 家に帰ったらAmezonでブート・ジョロキア購入して口に突っ込んでやる)


不埒な事を一瞬でも考えた自分の思考を懲らしめる為に、ブート・ジョロキアを食べる事を決定して、目の前の足に視線を再度下ろす。


「痛かったら言ってくださいね」


ゆっくりとミシェルさんの白くてスベスベの足を触る。柔らかくて今にも別世界に飛び込まれそうだ。


「少し押しますね」


声を掛け少し赤くなっている患部を押すと、ミシェルさんから「痛っ」と言う声が漏れる。


「少し赤く腫れてますね……ミシェルさんの家ってここから近いかな?」


「……ここからは、30分程離れた場所に」


顔を俯かせボソボソと言う、ミシェルさんを見て僕は、脳をフル回転させる。


ここからコンビニまでは、数分で着く。そこで湿布や諸々を買って処置して30分歩かせて帰ってもらう手もあるがそれは、行くまでに怪我をした患部が悪化する可能性がある。


かと言って放置するのも心が痛む……。どうすれば……。少し考え僕は、ミシェルさんに声をかける。


「その……嫌じゃ無かったら、僕の家すぐそこだから来る? 嫌だったら断って大丈夫だから」


恐る恐る言うと、ミシェルさんは、戸惑った顔つきになりながらこちらを見る。


「ご迷惑になりませんか……?」


「全然、人助けに迷惑なんて無いから」


そう言い、僕はミシェルさんに背中を向けてしゃがむ。


「おんぶして行くから背中乗れる? 」


「……え?」


背中越しから拍子抜けした声が耳に流れ込み僕は、自分が今からやろうとしている行動に気付く。


「え、あ、もし嫌だったら不審者が居ます! って叫んで良いから!」


自分でも何を言っているか理解出来ない頭おかしい事を言うとミシェルさんは、クスッと笑う。


「全然大丈夫ですよ。では、お手数をお掛けしますが、お願いします……」


「気にしないで。じゃあ行こうか」


背中に乗ったことを確認して俺は、自分のカバンとミシェルさんのカバンを持って自宅方面に再び歩き始める。


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