第24話


 事態が動いたのは翌日――バスが吹き飛んでから2日後――のことだった。

 先ず、アールーズのアパートの家主から〝タレ込み〟があった。

 3ヶ月ほど前にサローノからの留学生に部屋を貸したのだが、くだんの学生はこの2週間ほどで姿を姿を見せなくなり、代わりに素姓の知れぬ数人の男たちが部屋に籠るようになった、とのことだった。


 バンデーラたちエコーチームは家宅捜査の令状を裁判所に請求しつつ、同時にアパートの内偵を進め、令状が発付されるやSWATチームと共に踏み込んだ。

 果して、部屋にいた3人の男はSWATに踏み込まれるや即座に自動小銃で応戦し、広くはない室内で激しい銃撃戦となった。

 20秒ほどの短い間、弾丸の応酬があり、銃声が止んだときには3人は射殺されていた。全員が即死だった。



 そうして事が済み部屋をあらためたところ、やはり信管や高性能プラスチック爆薬セムテックスといった〝爆弾の材料〟の類いが押収されたのだった。これらは後に科学分析班によってバス爆破事件で使われたものと特性が一致することが確認される。

 部屋に居た3人の素性については全員が〝死人に口なし〟ということで(少なくとも当面は)判らず仕舞い…――これだけが〝画竜点睛を欠く〟こととなったが、にもかくにも、迅速な対応がテロリストグループを一掃したということで、PSIは面目躍如を果したのだった。


 これで事件が解決されたわけではなかったが、当面、アビレー市民は〝普段通りの生活〟に戻ることができると、そう思われた。




 事件発生から36時間でテロリストグループのアジトを突き止め、これを制圧した手際をマスコミが賞賛すると、さっそくアビレー市長が〝そのろう〟をねぎらうパーティーを主催するという運びとなった。

 それが準州代表選に打って出ようと考えている市長の人気取りパフォーマンスであることは明らかで、テロリストのアジトを1つ潰して以降、の捜査に進展のないことを理由にバンデーラなどは出席を辞そうとしたのだったが、結局、支局長アンテロ・ラウッカの〝命令〟で、Eチームの大半のメンバーが市長公邸に出向いたのだった。


 ベアタ・ヌヴォラーリは全く気乗りがせず、留守居の番に手を挙げたのだったが、これはジーン・ラッピンに却下された。

「どうして何もしていなかったわたしが出席しなければいけないんです?」とゴネてみせたベアタに、ラッピンはしれっと応じた。「それは私が行きたいからよ」と。


 そんなふうに〝監視対象〟から言われてしまったベアタは、行く気満々ながら留守居番に割り振られてしまったパウラ・ファンデルヘルストに羨ましがられながら、「しっかり愉しんでらっしゃいよ」と送り出されたのだった。



 市長の長々としたスピーチで始まったパーティーが一段落すると、学生のときに設えたドレス姿のベアタは、会場をそっと抜け出し、ひとり中庭を望むポーチへと出てきた。

 元々から社交の場が嫌いというわけではなかったはずだが、アールーズでテログループのアジトを急襲してからの数日、歓声や人混みというのが煩わしかった。



「――…なんだか愉しくなさそうだ」


 夜風に当たっていると、聞き慣れた声が訊いてきた。

 ベアタは声の主……ラフ・サンデルスの方を向いて、曖昧に首を振って返す。


「そんなことないですよ」

 でいつもの〝対番への気安い応答〟は躊躇われた。どこにどんな目が光っているのか知れたものじゃないから。

「――それより、退出してでてきちゃったら、ダメでしょう?」


「ま、サンデルスのパーティーじゃないから」

 サンデルスは、そう言って柔らかく笑った。


 良い仕立てのタックスタキシードの着こなし――気取りにも嫌味にも感じさせない自然なそれ――は、彼生来の柔らかな物腰も相まって〝育ちの良さ〟が漂っている。

 彼の目には、自分のエメラルドグリーンの、短めの丈の〝ポケット付き〟のカクテルドレスはどう映っているのだろう。

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