第23話
眼前のデュフィ上級大佐の言葉と表情に微妙な
冒頭で挨拶をしてからこれまで一言も発していないマズリエは、やはり黙ったままデュフィ大佐を観察している。
大佐は
しかし、それなりに年齢を重ねているシーロフは、迂闊に乗らなかった。
「捜査の件でしたら〝順調に進んでいます〟と(しか)……」
デュフィ大佐はそれを遮り、大きく肯いてみせた。
「…――私も〝彼女〟にそう言った」 含みのある、落ち着いた言い様である。「軍と警察は違う。軍は出しゃばらず、〝この件〟は現場のプロにお任せなさい、と」
「ご配慮、感謝します」
この〝駆け引き〟に、シーロフも慎重に応じた。
「礼に及ぶことではありません」 デュフィは表情を改めると、もう一度頷く。「ただ、くれぐれも〝敵〟を見失うことのないよう願いたい」
「――ロマン・リシュカのことをお教え頂けますか?」
ここで、マズリエが初めて口を開いた。
「話が〝見えない〟な……」
マズリエを見返したデュフィ大佐は、わずかに表情を軟らかくする。だが警戒はしたようだった。
マズリエは淡々とした口調で食い下がる。
「テロリストは彼の釈放を要求しています。違いますか?」
「話にならない。それは不可能事だ」
デュフィは声音を少し低く改めて応じた。
「〝テロリストとは交渉しない〟という原則でしたら…――」
〝使い古された
「…――そうは言っていない。居ないものは釈放できないと言っている」 大佐は主任分析官に頷いて続けた。「……本当だよ。〝彼は死んだ〟と聞いている」
「IISOはそう見てない」
シーロフが〝助け舟〟を出す。
「
デュフィは落ち着き払ってはいたが硬い声となって応じる。「彼らは〝戦場〟に立っていない」
その言には、マズリエだけでなく他のPSI捜査官ら全員が〝納得しがたい〟という目になった。
「情報源は?」
デュフィが硬い声音のままに訊く。
「ジーン・ラッピン」
マズリエが簡潔に答えた。つい先日にバンデーラから得たばかりの情報だ。
「ああ…――」
それで得心がいったとばかりにデュフィは嗤った。「あの女にサローノのことは解らない。デスクワークしか知らない手合いだ」
これまでの会話でサンデルスは理解した。
デュフィ上級大佐の頭の中で〈
「そうですか……」 一方、デュフィのその言葉を〝女性蔑視〟と捉えたのか、セシリアは素気のない声で応じた。「心しておきます」 ――部局内外の情報調整は彼女の職責だった。
「さて、私としても仕事の邪魔をするつもりはない。失礼するとしよう」
場の雰囲気にようやく気付いたという〝振り〟をして、デュフィ大佐は席を立った。
「どう思う?」
客人が帰った後、部屋に残った3人にシーロフ支部長は訊いた。
「
「〝動き〟? ――〝働き〟でしょ」
無難な回答をしてみせたサンデルスに、セシリアが言葉尻を訂正した。その様子から、どうやら大佐を好きにはなれなかったらしい。マズリエは逆に支部長に確認をした。
「大佐は〝軍務で〟来たのじゃなく〝準州代表の
支部長が肯くと、マズリエは肩をすくめるようにして言った。
「……彼は何かを知っているかも知れないし、そうでないかも知れない」
それはつまり、現時点では情報が少なすぎて判断はできない、ということだ。
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