第10話 『嵐の中のタクシー(バス)』

 

 これは、『鋭利な餡』の、元になった夢の、オリジナルです。なので、お話の内容が、そちらとは、やや、違っております。


     😌🌃💤



 職場での、最後の会議が終わったのである。


 一緒に歩いている、仲良しの同僚は、まもなく、卒業退職論文を出し終えて、首都圏の職場に再就職するのだそうだ。大出世である。


 彼は、非常に優秀な人である。


 ぼくは、そういう課題すら与えられてはいない。


 つまり、卒業退職は認められたのだが、仕事は、これでおしまいである。再就職はない。


 向こうの空には、不気味な帯状の巨大な雲が、天頂から地面にかけて、大蛇のごとくに何匹も激しくのたうっていて、ごわーん、ごわーん、と、すでに、ものすごい雷鳴が、ここまで、響いてきている。


 雨も、ぽつりぽつりと、落ちかけてきていた。


 『こりゃ、駅まで歩くのは、危険だな。避難するか、タクシー乗るかだな。』


 と、ぼくは言った。


 しかし、避難すると言っても、このあたりは、小さな峠になっていて、古い民家がぽつりぽつりと、あるだけだ。


 『きみ、退職論文をいつ出すって?』


 ぼくが、尋ねた。


 『来週に、最終提出なんだ。きみは?』


 『ぼくは、出す必要なしなんだ。退職したら、もう、おしまいだよ。再就職は認められなかったから。これで、仕事は終わりだよ。』


 『そうか。まあ、それも、気楽でいいな。』


 『ああ。そうだな。悩む必要ないもんな。


      🚗💨💨💨


 すると、かなり、古そうなタクシーがやってきた。


 ぼくは、手を上げた。


 するする、と、タクシーさんは止まった。


 『きみ、もう、この際いっしょに、自宅まで乗ってくかい?』


 と、ぼくは尋ねた。


 『ああ。そうしよう。半分出すから。』


 ぼくらは、タクシーに乗り込んだ。


 まず、友人が、やたら低い車高の車内に滑り込み、ぼくは、なんとか身体を捻りながら、やっとこさ潜り込もうとしたが、まだ、入りきらないうちに、タクシーは走り出してしまった。それから、なんとか、収まったが。


 運転手さんは、愛想が良い。


 『あなたがた、うんがいいですな。こりゃ、大変だ。』


 タクシーの運転手さんは、景気よく、真っ暗な空に向かって、ぶっ飛び運転で走る。



 『わ、わ、わ、わ、早すぎい………』


 運転手さんは、おかまいなしに、ぶっ飛ばす。


 すると、いつのまにか、タクシーはバスに変身した。


 『運転手さん、このバス駅に行きますよね。』


 『え? 駅に? いやあ。いや、よがす。駅に行きましょう。』


 ほかに、お客はいなかったが、ぼくは、悪いことを言った、と思った。


 『あ、いいですよ。通常コースで、ほかのお客さんもあるかも。』


 しかし、バスはすでに、駅前に行くコースに入っていた。


 『いや、行きましょう。』


 運転手さんは、ますます、ぶっ飛ばしたのである。


 あの、大蛇みたいな雲は、ようやく弱まったようだった。


 なんだか、バスの外から、女性が運転席の反対側に張り付いている。


 怖い!


 『わ。あの、女の人が、張り付いてます。』


 しかし、運転手さんは、スピードを緩めないまま、突っ走る。


 『危ないです❗』


  と、言ってる間に、バスは、線路沿いに左に曲がり、さらに、通りがかりの自転車の人を巻き込んで接触してしまった。



 『あらあら。たいへんだ。』


 ぼくらは、運転手さんといっしょに車外に出て、接触した人の様子を見に行ったのである。

 

 すると、そのおじさんは、意外にも元気に、抗議をして来た。


 なぜだか、ぼくらは、運転手さんの弁護に回っていたのである。


 それは、まあ、当然であったが……



    🐚🐺🐯🐫🐠



 これは、つまり、今、自分がある状況に、なぜなったのか、ということを、説明しようとしているようである。


 つまり、定年前に、体調が悪くなり、職場に耐えられなくなって退職してしまい、再就職できない(しない。)まま、これまで、長く過ごしてきたことの、間違った回想である。


 ま、言い訳みたいなものだ。


 しかし、激しい嵐は、その、荒れた事実の暗示であろう。


 事故は、ひとのせいにしているが、自分が引き起こしたものだろう。


 窓に張り付いた女性は、当時の上司の一人かもしれません。


 相当に、つらい夢には、違いないのであります。


 目が覚めたあと、しばらくは、自分の状況が、解らなかったのだから。


 今は、かなり、ぎたぎた、絶望的な、状態でありますからね。


 よく、生きてますよね。そう言う意味ではなかなか、しぶといのかも。しかし、すでに、限界ではありますなあ。


       🙍 ハア💨💨



      


      


      


 


 

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