EP.3 izakaya mannen

 西武ドームスタジアムの総失神の怪現象は他でもない、内閣官房長官の定期報告で、そうかなで紐解かれた。


 総失神の時間、気象庁の装置通知は無いものの、地面から発した稲妻で通電し失神したのだろうと。

 しかし当該場所の機材はシャットダウンするも、回路は破損していない微妙さ。

 何より、西武ドームスタジアムの関係各位に目立った外傷が無い。その軽微では装置でも検知しないだろうが、筋立だ。


 ただ残された怪現象はとして、西武ドームスタジアム関係各位の、ONE MORE KISS DEARの公演の記憶がまるで無い。もぎり買ったの証拠はある。そうかドームライブに来たのかが、ちらほらやっとだ。

 内閣官房長は、未曽有の現象なので、そう言う事も有りますよと、丁重に閉じた。不思議ファイル案件の取り扱いは、そういうものかと思い知った。



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 西武ドームスタジアムの総失神の事象で、ONE MORE KISS DEARの活動は半年休止の枷が引かれた。不吉案件は、興行として忌避したい事だろう。

 そしてドームライブ中止で、本来なら払い戻しになる筈も、当日の公演は2/3を消化しており、何より自然現象と言う事で、綺麗に免責と損失は逃れた。


 そして私は、事務所から三件隣の馴染みの居酒屋万年の完全個室に呼ばれた。

 メンバーは、私溝口菖蒲。事務所社長真田辰政。社長の弟で名門道密院大学名誉教授真田寛人。もはや戦友の新鋭映像監督の近衛優介。以上4人で、タブレットの動画を一部始終を眺めている。

 私の曖昧な夢は、確信へと変わる。


「監督さ、ステージの爽やかさん二人、何を言ってる」

「社長、生楽器以外はワイヤレスなので拾えません」

「あのう、爽やかさんは、姉弟の様です。ステージで、ちょこっと聞こえました」

「成る程、耐性出来てるのか。菖蒲さんは」教授が何度も頷く。

「教授、耐性って何です…あっつ、ここからが、きっと」私のあの日の記憶が色づけされる。

「そう、驚愕映像が始まります。機材は軒並みシャットダウンするのですが、私の備忘録としてハードケースに入れたスマホが録画していました」監督がただ息を呑む。


 その近衛優介監督のPA席からの俯瞰映像は、私の記憶と一致する。ステージ上のパグが唸り、膨張化するそれだった。かろうじてドームの天井に届かず、ステージも重さで破損していない。一体どんな質量なのだろう。

 そしてパグは咀嚼する様に縮退化し、姉弟に抱かれては花道を降りていった。

 会席の皆が一斉に押し黙る事、7分。近衛優介教授が静かに置く。


「これは、伝説の生き物、獏だね。通説では悪夢を食べると言うが、恍惚感に触れるた際でも食べれると言うのか」

「優介、また表に出せない論文書くのか、骨折り損なこった」

「兄さん、そこは国立国会図書館行きだよ」

「獏って、あれですか。本当に悪い夢食べるって、そう言えば、あれ、私の悪夢ってまさか、食べられちゃってた」

「まあ、菖蒲も功徳が高いって事だ。儲かるのは良いが、トラブルはどうしたものかな、ははは、」社長が儲け損ねたのに、陽気に爆笑する。

「菖蒲さん。獏のそれは、最近ではなく、Thunder Boom時代から既にです。何故、Thunder Boomでの卒業公演2部構成がBlu-rayにならないか不思議では有りませんか。1stサイドで凄まじいブロックノイズが走りまくり、こんなの商品化出来るかと。当時の事務所と縁が切れたそれです」監督が想いを馳せる。

「ああ、それは監督、そういう事情だったなんて。ご面倒掛けました。つまり、あの姉弟は、私のファンと言う事ですか」

「菖蒲さん、そこは守護者と言うべきでしょうか」教授が丁寧に置く。


 そこからはビジネスの話になった。スタジアム公演の収録映像は、辛うじて残るも、同様にブロックノイズが走っており、映像化出来るそれでは無いと。

 映像販売出来ないものの、チケットと辛うじての物販で、1000万円の赤字では済んでいる。


 赤字のものの。連日の望まない報道で、ONE MORE KISS DEARの提供映像がひっきり無しに流れ、国内国外の注目を浴びている。

 私もロンドンの国営放送のインタビューを受けた。

 英語はバレエ時代で培った日常英会話は出来るので、正式にリーダー扱いされた。


「ここ迄総熱狂させる、あなた達の魅力って何ですか」

「無我夢中のダンスでしょうか」私は屈託なく答えた。


 それを経て、ロンドンの国営放送の深夜枠で私達の提供ライブ映像1時間が放送され、メンバーとスタッフのSNSのフォロワーが天井知らずに伸び続ける。

 そして居酒屋の秘密談義に戻る。


「あの、そもそもなのですけど、この姉弟は、一体誰なのですか」

「菖蒲さん。私もドキュメンタリーも撮っているので、不文律の人材です。ここは置きましょう」監督がきつく口を結ぶ。

「いや、姉弟と知っている以上、話すべきかもしれない。菖蒲さんの収まりが悪いだろうし」

「教授、教えて貰えるのですか」私が前のめりを過ぎる。

「その姉弟、何より弟の方は、聖道界隈では300年に一人の逸材と呼ばれている。まあ、この先は管理者に会うべき頃合いかな。それより、今日は労い会も兼ねてだから、今は、飲み食べようか」


 私は、教授に瞬足0.5秒のお酌で、ギネスビールを注いだ。

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