非常アラート、さらに宝箱

 突然現れた、ゲーム内に存在しない美女に妙な物を飲み込まされた。

 名前は確か、[冥黒のシャドウパーツ]だったか。


 しかし今のところ、俺の体に変化はない。

 ダークバットの時は腕に羽が生えたんだがな。


 そして美女は姿を消し、今はランレイとともに†神聖なる森ホーリーフォレスト†を進んでいる。


 時々横の木の間からグラスウルフやエコーバットといった雑魚モンスターが飛び出してきたが、はっきりいって相手にならない。


 グラスウルフ8体、エコーバットは10体以上しばいただろうか。


 あらゆる攻撃は俺が盾になって防げるので、緊張感は全くなかった。


「それにしても終わりがないですね……」


 もはや作業に変わった戦闘を終えて、ランレイがつぶやいた。


「そうだな……」


 ずっと木が立ち並んでいるだけで、景色にも変化がない。ずっと展開を引き伸ばされているようで嫌な感じだ。


 それに不協和音のような戦闘BGMが加わり、気分がどんどんめいってくる。


 元の【テロ】を思い返すと、確かに最初からしばらくは森が背景のクエストが続く。


 が、最初のクエストはウッドソウル戦で終わる。ひとつなぎにはなっていなかったはずだ。エコーバットは次のクエスト、グラスウルフが出てくるのは2個先のクエスト……よく覚えてるな俺。


『お前たち、まだ引き返す気はないのか』


 出た。例の声だ。相変わらず男か女かわからないが、さっきよりノイズは少ない。


「お前の言う†大自然ガイア怒りレイジ†っていうのは、いつ来るんだ?」


『行けども行けども目に映るのは同じ景色。流石にそろそろ飽きてきたんじゃないか?』


 え?そういう感じ?


「さっきのグラスウルフやエコーバットも、お前が操っているのか?」


『いや、それは知らん……オオカミとかコウモリとか怖いし……』


「ええ……」


「あの、あなたは何者なんですか?」


 当然の質問をするランレイ。


『……』


「あ、いえ、答えたくないなら別に……」


 流石にランレイは気をつかいすぎだ。ここまでの間に言いたいことをまとめたので、俺が代わりに話す。


「なあ、俺たちは降りかかる火の粉を払ったが、この森に対して何か危害を加えたわけじゃない。お前が森を守りたいなら、正体を隠したいなら、俺たちは深く踏み入らない」


『ふむ……』


 おや、意外と話がわかるやつなのか?


「俺たちが何をするのがお前にとって一番いいのか。それを教えてほしい」


 よし、なるべく丁寧に言ったつもりだ。


『いや、それは……あれ?』


「ん?」


『わからない』


「なんだって?」


『我は何故ここにいるんだ……』


 そのひとことを最後に、声は聞こえなくなった。同時に、


[エラー発生]


 冷たいアナウンスが、森の中に響きわたった。


 辺りがブザー音に合わせて赤く点滅している。


 木々も、地面も、空も、ただ全てが赤い。


「こ、今度はいったい……」


「いや、多分これは……」


 この演出は見覚えがある。


 すぐに黒枠のメッセージが表示された。


[BOSS:キンググラスウルフが出現しました]


 やっぱりか。目に悪い赤の点滅は、【テロ】のボス登場時の演出。


 このタイミングで登場するのはあきらかにおかしいが、もう何が起きてもおかしくはない。


 キンググラスウルフは【テロ】最初のボスだ。


 といっても、普通のグラスウルフを大きくしたヤツにちゃちな王冠をかぶせただけの、手抜きデザインだが。


 しかし、出現メッセージは表示されているのに、肝心の姿が見えない。


 だが、そんな疑問はいきなり目の前に現れた「それ」によって吹き飛んだ。


 黄色く縁取られ、鍵穴がついた木の箱。


「宝箱だ……!」


 バグっているのか消えたり現れたりを繰り返しているが、間違いない。


 ボスを倒したときなどに出現する宝箱。その中身は決まっている。


 ガチャを回すためのアイテム、秘石だ。


「もしかして、ガチャが回せるようになるのか……?」


「あの、さっきからなんの話ですか?」


 とまどうランレイをよそに、少しわくわくしながら宝箱に手を伸ばした瞬間。


 宝箱の下から人間の生足が生え、すっと立ち上がった。


「え?」


 そしてそのまま、森の奥へ逃げていった。

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