†神聖なる森†を進む、さらに『悪役』の登場

 初クエストの森を進んでいたら、ゲーム内に存在しない声が聞こえてきた。


『それ以上先に進んでみろ。お前たちは†大自然ガイア怒りレイジ†を知ることになるぞ!』


 そんなこと言われても、帰る扉は消えちゃったんだよな。

 先に進むしかないので、一歩前に出る。


『お、進むのか?歩みを進めてしまうのか?その一歩が†地獄コキュートスへの招待状インヴィテーション†だとも知らずに?』


 なんなんだこいつ。


「私たちは、森を荒らしたりなんかしません」


『いやいや、それは†愚者の妄言フールズボイス†だ。片方は両手に凶器メリケンサック。もう片方は全身黒ずくめ。そんなナリで信用できるわけないだろ』


 それはそうだ。


「シャドウパーツという物を探しにここへ来たんだ。何か知らないか?」


『シャドウパーツ?なんだそりゃ。安直な名前だな。まるでセンスを感じない』


 その言葉をそっくり返してやりたい。


「な、なんてこと言うんですか!わ、私はまあ……かっこ?いや、いい名前だと思いますよ!」


 ランレイがこちらをちらりと見て、ぶんぶんと頭を振る。俺がつけた名前じゃないんだが。


『とにかく!この先へ進むならお前たちは敵だ。それを肝に銘じておけよ!』


「いや、帰る道がなくて……」


 しかし、もう返事はなかった。


 この先にシャドウパーツがある事も期待できないし、どうすればクエストクリアになるのかも分からない。


「とにかく、早く行きましょう!」


 ランレイは軽快に走っていく。


 彼女の表裏のない優しさは、ゲームキャラだからだろうか。その優しさに、どこか危ういと思ってしまう自分がいる。


 いつか彼女が自分の身を滅ぼすんじゃないか、そんな危うさが……


「あれ、行かないんですか?」


「いや、ごめん。行こう」


 本当に考えてばかりでよくないな。考えて考えて実際に行動しない、これじゃ社畜時代と何も変わらない。


 ずんずん森を進み、やがて少し開けた場所に出た。3本に道が分かれている。


「これは……どれにしましょうか……」


 どの道も森の奥へと続いており、どれを選んでも同じのような気がする。

 ダークバットの力を手放さなければ空を飛んでいけたんだがな。


「よし、右だ」


 特に理由はない。カンだ。


「なるほど!了解です」


 ランレイ……いいのか、それで。なにかしら自分の意見は無いのか。


 ともかく、3つに分かれた道の、一番右はしを選んで進んで行く。


「ん……?」


 いきなり夜になったかのように、辺りが暗くなった。

 後ろを歩いていたランレイの姿も消えている。


 白い地面と暗闇だけの空間に、いつのまにか俺はいた。


『ふうん、あなたが例のシャドウマンね』


 とまどう間もなく目の前に現れたのは、黒いローブに身を包んだ、黒髪の美女。見上げるほどに背が高く、大きなとんがり帽子を被っている。紫色の鋭い眼光がまっすぐに俺を見下ろしていた。


 その姿は、まさに絵に描いたような悪役ヴィラン

 そして、【テロ】の敵にはモンスターしか存在しない。

 かろうじて人型と呼べるのは、シャドウマンだけだ。


「……誰だ、お前は」


 美女はやれやれというように首を動かすと、指をパチンと弾いて呟いた。


『【ボイスOFF】っと』


(……!?)


 なんだ、これは。


 さっきまでと変わらず口は動くのに、声が出せない。


『【イベントモードON】。悪いけど、黙っててくれるかしら?今日は挨拶に来ただけだから』


 こいつ、ただ者じゃない。後ずさりしようとすると、見えない壁に背がぶつかった。


『他の連中はあなたを邪魔に思ってるみたいだけど……私は違うわ。私は面白いことが好きなの』


 美女はべらべらと喋りながら、俺の方へ歩いてくる。動けない。体が、動かない。


『あなたには期待してるわよ。予定通りのつまらない計画を壊してくれるって』


 そう言いながら、俺のあごを持ち上げる。自然に口が開き、そこに何かを投げ込まれた。


 丸い何かが、俺の喉を通り抜けていく。


冥黒ダークネスのシャドウパーツ×1】

 目の前にメッセージが表示されて、消えた。


 同時に背筋がぞわっとするような感覚、その直後、全身が燃えるほどに熱くなった。


(…………!!!!)


 息が出来ない。目の前が見えない。


 それなのに、悲鳴すらあげることができない。


『その力、使いたくなったら使いなさい。きっと面白いことが起きるわ』


 美女が背を向けて去って行く中、俺の意識は遠ざかっていく。


 ※


 気付けばまた、森の中にいた。


「カゲさん!」


 背後からの声ではっとして、振り向く。ランレイが何食わぬ顔で立っていた。


「大丈夫ですか?いきなり立ち止まって。少し休憩しましょうか?」


 ランレイは何も知らないのか。


「……」


 流石に俺は理解するしかなかった。

 この世界で、ただのゲームを越えた大きな何かが、動きだしているということを。


 ▼▼▼


[システムメッセージ]


[召※※印獣キマ繧、ラの力を継承しました]


[存在しないデータです]


[存在しないデータです]

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