10連ガチャ、そして覚醒の時

 黒塗りシルエットの、主人公。本来、ゲーム内に立ち絵すらない存在が、目の前にいる。


『敵を……倒します……]


 うわごとをつぶやきながら、

 ふらふらと、ゾンビのようにこちらに近づいてくる。


『よし、攻撃するんだ……!」


 主人公は一人芝居をくり広げながら、右腕を天にかかげた。


 ブゥン!!


 独特のSEと共に、その腕の先にメッセージが表示される。


[スペシャルスキル 10連ガチャ]


 スペシャルスキル!?いわゆる必殺技だ。操作キャラじゃ無い主人公が使えるはずは……それに、10連ガチャってなんだよ?


 その答えはすぐにわかった。


 空間に黒い穴が開き、そこから10個のカプセルが飛び出したのだ。【テロ】のキャラガチャを回したときに出るカプセルと同じ。


 カプセルは地面の上で2、3回揺れると、次次に弾けて光を放つ。


 そして、上空にメッセージウィンドウが出現した。


[ガチャ結果:スタミナ回復薬×3]

[ガチャ結果:特上やくそう×1]

[ガチャ結果:秘石50%割引き券×2]

[ガチャ結果:神秘の首飾り]

[ガチャ結果:リタイア丸]


 うーん、ゴミ!


 石使って回すガチャで、キャラとアイテムと装備が抱き合わせ、しかもキャラの確率は低すぎるときたもんだ。


 秘石ってのが石ね。なので課金アイテムなんだけど、その割引き券がガチャから出てくる。もうね、馬鹿かと。アホかと。

【テロ】がクソゲーなのが、よくわかる。


 主人公がガチャを引き始めたのはびっくりしたが、まあ爆死でしょう……


[ガチャ結果:格闘少女ランレイシャドウ ☆3]

[ガチャ結果:木工屋トーカシャドウ ☆2]


「え?」


 残り2つのカプセルが割れ、その中から影のようなランレイと、同じく黒塗りの少女のシルエットが現れる。トーカと表示されている影は、ハンマーのようなものを持っている。


「……」


 2つの影が無言のまま構えをとり、双方の上にHPバーが表示された。


「あ、あれは私……?なんで……」


「とにかく、戦うしかない」


 驚きで固まるランレイに呼びかけ、構える。


 このゲームのガチャ確率はさっきのように低すぎて、トーカとやらの性能はしらない。何をしてくるか、全く不明だ。


 最初に動いたのは、影トーカだった。ハンマーを構え、こちらに向かってくる。


「やらせるか!」


 腕を大きく広げ、その通せんぼをする。ハンマーが横っ腹に当てられるも、痛みは全くない。HPバーも減っていない。やはり、さっきの仮説は正しかったんだ。シャドウマンはダメージを受けなーー


 ドゴォォッ!!


「え?」


 影ランレイの拳が、いつのまにか腹にめり込んでいる。


 俺のHPバーが、みるみる減っていく。


「カゲさん!」


 俺の体は紙のように吹っ飛ばされ、見えない壁にぶつかって止まる。

 痛い。


 そうか、カゲといえど、あれも同じランレイ。だから、俺もダメージを受けてしまうのか。


 くらむ視界で、ランレイが影の自分にチョップを放つ姿が見える。

 だが、HPバーはほとんど削れない。


 ああ、レベルか。ガチャで排出されるキャラは、最初から高レベルなんだ。

 同じキャラでも、ステータスの差が……


「きゃああ!!」


 影トーカと影ランレイの同時攻撃を受け、ランレイが俺のすぐ横まで吹き飛ばされてきた。


[オートスキル発動:不靴の闘志]


 しかしオートスキルで、彼女はギリギリ耐える。


 ランレイはよろよろと立ち上がると、いまだ起き上がれない俺の前にたち、ばっと両手を広げた。


「大丈夫です。■■流の誇りにかけて、カゲさんを守ります」


 冗談じゃない。ランレイのミリしかない体力で、2人を相手にできるわけがない。


 ……………………………………

「■■流の使い手として、守る経験はたくさんしてきました。でも、守られる経験は初めてでした……」

 ……………………………………


 彼女はそう言ってくれたのに。


 今の俺は、ランレイを守るどころか守られ、自分は何も出来ずはいつくばったままだ。何か、何か出来ることは……


「……ん!?」


 少し遠くに、黒いビー玉のような物体が落ちているのが目に入った。

 あれは……


 ……………………………………

[勝利 戦利品をドロップ]


【バットの羽根×1】

【シャドウパーツ×1】


 煙のように消えたダークバットが、戦利品を草原に落としていく。

 羽根と、黒いビー玉のような何か。


 この球体がシャドウパーツ?

 なんだこりゃ。こんなのゲームにあったか?

 ……………………………………


 そうだ。シャドウパーツ。本来のゲームに存在しなかったアイテム。


 可能性があるとすれば、あれしかない。


 はいずり、震える手を、懸命に伸ばした……


 ※


「敵を……倒してください……!】


 主人公が叫び、影ランレイと影トーカはトドメをさすべくランレイに迫る。


「くっ……!」


 ランレイが目をつぶった瞬間。


 俺はそこに滑り込み、勢いよく体を伸ばした。シャドウパーツに手を伸ばした時、

 体中の痛みがなくなったのだ。


「か、カゲさん……!?」


 もしかしたら、シャドウパーツにはしょぼい回復効果しかなかったのかもしれない。


 だが、ランレイを守れるなら、それでもいいと……

 俺はまた、彼女の盾になった。


 だが、影トーカと影ランレイの攻撃が俺に届くことはなかった。

 俺の体は黒い膜に覆われ、攻撃を防いでいた。


「これは……?」


 さらに、黒いうずが体を包んでいく。頭上のHPバーが回復していく。

 うずがほどけると共に、俺の頭上にメッセージが表示された。


[ダークバットの力を継承しました]


 なんだかわからんが、力がみなぎっている。俺の右腕に、翼のような物が生えていた。


「覚悟しろよ、主人公。その座はもらってやる」


 反撃開始だ。

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