反撃、そしてチュートリアルの終わり(少し長め)

【テロ】に存在しないアイテム、シャドウパーツ。


 それに触れた俺は、右腕にコウモリのような翼が生えた。全身に力がみなぎっている。


「覚悟しろよ、主人公。その座はもらってやる」


 実際にかっこつけてみたはいいが、本当に俺は強くなったのだろうか。


 これで負けたら笑い話にもならないぞ。


 目の前の敵は、動かない。


[格闘少女ランレイシャドウ

[木工屋トーカシャドウ


 主人公がスペシャルスキルで引き当てた2体のキャラ。なぜかその姿は影のようになっており、こちらに容赦なく攻撃してきた。


 さて、どうするか。2人の攻撃をしのいだから、次は俺の攻撃なわけだ。

 ずっと拳で戦ってきたし、やはりそれしかないか……


 そう決めて足を踏み出そうとした瞬間、右手がむずむずし始めた。カとマダニに同時に刺されたかのような痒みが腕に襲いかかる。


「な、なんだ!?」


 シュゴォォォォォォ!!!


 ジェットエンジンみたいなSEの後、

 翼の生えた右手が、きり離されて飛んでいった。


 ええ……?


 飛ばせ鉄拳ロケットパンチが、影トーカの腹に命中。


 影トーカは大きく吹き飛ばされ、HPバーがごっそり減った。


 すごい。なんて威力だ……!


 いやこれダークバット関係ないだろ。


 っと、影ランレイが猛烈な勢いで突っ込んできた。あれの攻撃はダメージを受けてしまう。どうする……?


「させません……!」


 え!?


 なんと、またランレイが俺をかばうように立った。彼女の体力は、もう1しか残ってないんだぞ……!?


「さ、下がれランレイ!死ぬぞ!?」


「……!」


 ランレイは答えない。だが、その背中からは強い決意を感じた。

 だからといって、このまま見殺しにするわけにはいかない。


 だけど、どうすれば?


 と、その時、飛んでいった右腕が戻ってきた。もともと黒ずくめの体なおかげもあって、戻ってきた腕はなんの違和感もなくくっついた。翼もちゃんとある。


 ……まてよ。翼?


 ………………

[ダークバットの力を継承しました]

 ………………


 もしかしたら。


 いや、いちかばちかだ。


「え……ひゃあ!!??」


 ランレイを抱え上げ、とび上がる。


[オートスキル発動:黒翼の守り]


 頭上にメッセージが表示され、右腕の翼が巨大化した。

 そして、俺とランレイの体を空中にとどめる。


 突進してきた影ランレイの攻撃は、みごとに空を切った。


 俺のHPバーが少し削れている。HPを代償に、相手の攻撃を回避する……そんな感じだろうか。


 もちろん、これもゲームにはなかったオートスキルだが……もはや、ゲームにあるなしは関係ない。今はとにかく勝てばいい。


「か、カゲさん……こんな能力もあったんですか……?」


「いやまあ、ちょっとね……」


 と視線を近くに戻し、悲鳴をあげそうになった。


 慌てて抱え上げたランレイは、まるでお姫様抱っこのような状態になっている。


「ご、ごめん!すぐ降ろすから!」


「え?あ、はい……」


 しかしおかしい。攻撃を終えた影ランレイが、定位置に戻らないのだ。すぐ下で、俺たちが降りてくるのを待っている。


「な、なんでだ!?まずい、手が痺れてきた……」


「いえ、カゲさんはそのまま手を離してください」


「え?」


「大丈夫ですから!」


 言われたとおりに、手を離す。


 勢いよく空から落下するランレイ。だが、素早く体勢をととのえ、足を下に向けた。


「てりゃああああああああ!!!!!!」


 ラ◯ダーキックのフォームからくり出された、鋭い一撃。ハイヒールのかかとが、影ランレイの頭に突き刺さった。い、痛そうだ。


 さすがにこれはかなり効いたらしい。レベル差があったにも関わらず、体力バーがごっそりと削れていき……


[オートスキル発動:不靴の闘志]


 だが、削りきることは出来なかった。

 やっぱり、影の方も、体力1で耐えるそのスキルを持っているのか……!


「あっ!?」


 攻撃を耐えた影ランレイが、ランレイの足首を掴んだ。さらに、ハンマーを構えた影トーカが向かってきている!


 いや、大丈夫だ。まず、体力1の影ランレイさえ倒せば……


「え?」


 影ランレイの体力が


「い、一体あれは……」


 ………………………………………………

 そして、上空にメッセージウィンドウが出現した。


[ガチャ結果:スタミナ回復薬×3]

[ガチャ結果:特上やくそう×1]

[ガチャ結果:秘石50%割引き券×2]

[ガチャ結果:神秘の首飾り]

[ガチャ結果:リタイア丸]


 うーん、ゴミ!  

 ………………………………………………


「くそっ!あの時ガチャで出したやつか!」


 主人公の野郎。ガチャの特上やくそうで、影ランレイの体力を回復したんだ。


 つまり、影ランレイは不靴の闘志がもう一度使えてしまう。


 じゃあ。


 打つ手は、もう、ないのか?


 呆然と下を見る。


 遠くでただ突っ立っている主人公。自分は体をはらず、味方に安全な場所で指示しているだけの、主人公。


 打つ手が無いなら、せめて……


「一発殴らせろおおおおお!!!!!」


 距離が離れていても、関係ない。飛ばせ鉄拳、ロケットパンチ。


 発射された俺の右腕が、主人公の顔に勢いよくめりこ……まなかった。


 ランレイに向かっていたはずの影トーカがいきなり主人公の前に引き寄せられ、そのままロケットパンチによって吹き飛ばされた。


 残り少なかった体力バーが削り取られ、影トーカは倒れる。


 まさか、あの主人公。


 仲間を盾にしたのか……!?


 だが、主人公よ、選択を間違えたな。影ランレイはランレイの足を掴んだ状態。影トーカは今の一撃で倒され、お前は丸腰だ。


「おらああああああ!!!!!!」


 地面におり、一気に駆け出す。


「まずは、影トーカの痛みを受けてみやがれええ!!

!!」


 ドゴォォォォ!!!!


 ちょうど戻ってきた右腕が、主人公の後頭部に炸裂。


「そしてこれは、ランレイの分!」


バキィィィィィィ!!!!


 さらに俺は左腕で、主人公のあごにアッパーをかます。


「て、ててて敵を………』


 バキィッ!


 揺れる顔に向かってさらに一発。


「そしてここからは、クソゲーに苦しめられた俺の分だ……」


 このままタコ殴りにしてやる……そう思った瞬間、主人公の体が煙に包まれた。


 目の前にメッセージが表示される。


[リタイア丸が使用されました]


 そうか、ガチャで出していたリタイア丸。その効果でバトルから逃げ出したのか……

 ということは。


「か、勝った……?」


 いつのまにか、影ランレイも、戦闘BGMも消えていた。


「や、やったぁ!!私達、勝ったんですね!」


主人公の存在に、シャドウパーツ。謎は増えるばかりだが、ひとまず勝利を喜ぼう。


「ああ……本当にありがとう、ランレイ」


 ランレイはにっこりと笑い、メリケンサックで自分の胸をどんと叩いた。


「いったぁ!?」


「あ」


 その一撃でランレイの体力バーが0になり、彼女は地面に倒れた。


「マジか……しまらないな……」


 そう呟いた瞬間。


[クエストをクリアしました。ホーム画面に戻ります]


 メッセージが目の前に現れ、白い光が辺りを包み込んだ。


 ▼▼▼


[システムメッセージ]


[木工屋トーカS ☆2を入手しました]


[主人公の力を、一部継承しました]




 …………………………


 お読みくださり、ありがとうございました。

 これで序章は終わりです。幕間を挟み、新章に移ります。


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