初戦闘の異変、そして仕様
チュートリアル後に現れるはずのエコーバット2体が、目の前にいる。
そして「あと一歩で兵器に使える」と言われるほど不協和音の戦闘BGM。
「これは、チュートリアル後の戦闘……」
「敵ですか。任せてください」
ランレイが構えを取る。
エコーバットは本当に黄色いだけのただのコウモリだ。敵グラフィックが少ない【テロ】の中で何度も色を変えて使い回される。
「せいっ!」
ランレイのハイキックがコウモリに突き刺さる。HPバーの半分が削れた。
「キョエエエエエエエエエ!!!!!」
続いて、エコーバットが体当たりを仕掛け、ランレイのHPバーが少し削れる。
「くっ…」
「くらえっ!」
離れようとするそのエコーバットに俺の拳が突き刺さり、2体いたエコーバットは1体になった。この順番は【テロ】のシステム通りだ。いや、本来俺はいないのだが。
「ナイスです、カゲさん!」
ランレイが親指を立ててくれる。
もう一体のエコーバットに近づこうとしたが、足を思うように動かせない。ターン制バトルのシステムに体が縛られているようだ。
だが、残り1体。ランレイと俺、二人分の攻撃なら反撃を受けずに倒せるだろう。
「キュエエエエエエエエエエエ!!!!!!」
「っ!?」
「な、なんだ!?」
耳をひきさくような、けたたましい叫び声。
エコーバットの体色が、黄色から黒に変わった。
さらに、体力バーがぐんぐん伸びていく。
「こ、これは……うっ!?」
次の瞬間、黒く染まったエコーバットがランレイの腹部へ突き刺さっていた。
彼女の体力バーがほんのわずかまで削り取られ、しかし消える直前でふみとどまる。
[オートスキル発動:不靴の闘志]
ランレイの頭上にテロップが現れ、消えた。
彼女が元々ゲームで所持しているオートスキル、[不靴の闘志]は体力が0になるダメージを受けたとき一度だけ1で耐える。
多分正しくは「不屈の闘志」なんだろうけど、誤字ったままなんだよな。
なんて思っている場合では無い。
黒く染まったエコーバットはすでに元の位置に戻り、こちらの攻撃を待っている。
「に、逃げてください……」
汗をにじませながら、それでも構えを取り直すランレイ。
本来は彼女の攻撃のはずだが、
エコーバットの上に、名前が表示されている。
[ダークバット]
ダークバット?エコーバットの色違いに黒なんていなかったような。
ああ、そうだ。俺はこのゲームのモンスター図鑑を全て埋めた。無駄な時間だった。100種類ちょい、しかも色違いばっかり。
それはともかく、このままではランレイが倒されてしまう。
もう一度、システムに抗え、俺!
強く念じると、重かった足がふっと地面から離れ、矢のように突っ込むダークバットの前に体を滑り混ませることができた。
尖った何かに腹パンされるような強烈な痛みが襲……あれ?
「いた……くない?」
頭上を見ると、体力バーが減っていない。
どうしてだ?あのときはランレイの攻撃でダメージを受けていたはず……
もしかして。
シャドウマンは、チュートリアルにしか登場しない敵だ。だからゲーム上でシャドウマンがダメージを受けるのは、チュートリアルで戦うランレイだけ。
つまり、システム上のシャドウマンは……ランレイ以外からダメージを受けない?
「うおりゃああ!!!!」
そうと決まれば、やることは一つ。ひたすらランレイの盾になる。
「え、ええ!!??」
「俺のことはいい!早くコウモリに攻撃を!」
「……はい!」
何度も突っ込んでくるダークバット。だが、俺はその度に身をていして盾となる。何度攻撃を受けても、体力バーは本当に減らない。
そして、ランレイの掌底がダークバットを打ち抜く、打ち抜く、打ち抜く。
5回ほどで、ダークバットの体力バーは消え去った。
[勝利 戦利品をドロップ]
【バットの羽根×1】
【シャドウパーツ×1】
煙のように消えたダークバットが、戦利品を草原に落としていく。
羽根と、黒いビー玉のような何か。
この球体がシャドウパーツ?
なんだこりゃ。こんなのゲームにあったか?
「あの……」
どうしたものかと戦利品を見ていると、ランレイが話しかけてきた。顔がうっすらと赤い。
「■■流の使い手として、守る経験はたくさんしてきました。でも、守られる経験は初めてでした……」
そう言ってもじもじとするランレイ。
「だから、その……ありがとうございます!」
「あ、ああ。うん」
人に感謝されるなんていつぶりだろうか。例えそれがゲームのキャラ相手だとしても、嬉しく、気恥ずかしくて、ぎこちない返事を返してしまった。
「じゃあ、敵も倒したことだし、行こうかーー」
それをごまかそうと足を動かした瞬間。
ゴンッ!
見えない壁にぶつかった。
「いた……くはない、けど」
「なんですか?この壁は……」
おかしい、敵は倒したはず……
いや、そういえば。
戦闘BGMが消えていない。
『敵を……倒します……]
その時、ノイズがかった棒読みの台詞が、背後から聞こえてきた。
「な……!?」
慌てて振り返る。
そこには、顔面に誤パンチしたはずのあいつが。
黒塗りシルエットのあいつが。
このゲーム本来の主人公が、立っていた。
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