主人公を殴った、そして初会話



 気づけばまた、暗闇に俺はいた。


 また死んでしまったのか?そう考えた瞬間。


「起きてくだ……さいっ!」


「ふべっ!!!??」


 鋭く尖った何かが俺の腹に突き刺さり、頭上の緑の体力バーが、半分に減る。


 俺は咳き込みながら、驚きで目を見開いた。


「よかった、気がつきましたか!」


 草原に横たわった俺。体は黒く、どうやら「シャドウマン」のままだ。


 その顔を覗き込んでいるのは、赤いチャイナドレスに身を包んだ、茶髪ロングの美少女。右手のメリケンサックで


 ランレイだ。【テロ】に登場する星3キャラ、ランレイ。


「すいません、いきなり手荒な真似をして……私、ランレイって言います!」


 頭をぺこりと下げ、快活な自己紹介をするランレイ。しかし……なんてこった。


 こんな台詞、状況、本来のゲームに存在しないぞ。


「あの……大丈夫ですか……?」


 ランレイの声で我に返る。


「え、ああ、大丈夫大丈夫!」


「よかった……当たり所が悪かったのかと思いました……」


 メリケンサックで胸をなで下ろすランレイ。


 銀色のメリケンサックに真っ赤なチャイナドレス、ピンクのハイヒール……彼女の身につけている物は全部とっちらかってるが、こうやって普通に喋っていると案外まともに見える。


 まあ、ソシャゲキャラらしく顔も整ってるが……元々イラストだけは評価されてるもんな。


「いやそんな、助けていただいて……」


「いえいえ、人助けは■■流のつとめですから!……いったぁ!!」


 そう言って胸をはるランレイ。そのまま自らの胸をドンとメリケンサックで叩いたので、げほげほと咳き込んでいる。


 彼女の頭上にもHPバーが浮かんでいるが、今の自爆で少し削れた。


 ……ん?■■流?明らかにそこだけ、ノイズのようなものがかかって聞き取れなかった。


「えっと、人助けはなんのつとめだって?」


「■■流です!私の使う格闘術は皆■■流のものなんです」


「な、なるほど……」


 やっぱり聞き取れない。


 ……そういえば、元の【テロ】には数行程度のキャラプロフィールしか存在してなかったな。格闘少女といいつつどんな流派なのかも書いていなかった。


 未設定だからそこだけ上手く聞き取れないのだろうか。


 でも、さっきからずっと存在しない台詞を喋ってるからなあ。


 よくわからん。一旦こういうことは保留だ。


「それで、ランレイさんはどうしてここに?」


「ランレイで良いですよ!それはそうと、実は私にもわからないんです……気がついたらこの草原に立っていて。少し歩いたら、倒れているあなたを見つけたんです」


「そういう経緯か……」


 ランレイ、マジでこのゲームとは思えないくらいぺらぺらと喋るな。確かにボイスが少なすぎるだけで演技は上手かったが……

 しかし、彼女にも理由がわからないとなると、困った。


「えっと、あなたはどう呼んだらいいんですか?」


 あ、そうか……


 シャドウマン……はまずいな。すごい呼びにくいし、さんをつけたらさらに呼びにくい。


 だから……


「俺は……カゲ、おとこ、だよ」


 何やってんだ俺。これ、シャドウマンを和訳しただけじゃねえか!


 しかしランレイはにっこりと笑って、


「カゲさん、よろしくお願いします」


「ああ、うん、よろしく」


 まあ、ランレイがいいならいいか……

 差し出された手を、黒い手で握り返す。握力の強さにこちらの手がミシリと音をたてた。


「それで、これからどうします?」


「そうだな……」


 とりあえず歩いてみよう、と言おうとした瞬間、ひどい不協和音が流れてきた。


 これは……【テロ】の戦闘BGM!?


「「キョエエエエエエエエエ!!!!!」」


 独特な奇声を上げ、【テロ】の雑魚敵エコーバット2体が、俺たちの前に現れた。

 シャドウマン戦後の、最初の敵だ。


 ……まさか。


 主人公抜きのまま、ゲームが進んでいるのか?

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