第20話 諮問刑事 春平編

 春平が剣術の修行を始めて、まだ、片手で数えるほどの年数しか経っていなかった頃。


 その日は真夏で師でもある養父に従い、出稽古に行っていた。


 途中、死んだ鳩を見つけた。


 まだ、小学校にも上がってない春平は、養父が止めるのも聞かず、ハトの傍に寄った。


 動かない。


 鳴かない。


 飛ばない。


 突っついても、抱き上げても動かない。


 今では思い出せないが、春平は急いでハンカチに包むと近くの雑木林に手で穴を掘りハトを埋めて手を合わせた。


 戻ると養父に怒られると思ったが、意外にも頭に手を置いてグシグシと撫でた。



 それから、幾星霜。


 すでに師父の年齢を超えた春平は馴染みの居酒屋のカウンターでいい気分になっていた。


 周りには酔ったサラリーマンなどが馬鹿笑いをしている。


 目の前には焼き鳥のネギマとぼんじりがあり、気の抜けたビールの入ったグラスを持っていた。


「師匠、聞いていました?」


 隣で日本酒を飲んでいた猪口直衛は心配そうに問うた。


「ええ、まあ、大体は……」


「大体って……何考えていたんですか?」


 少し、春平は迷い口を開けた。


「もしも、自分に自由に生える翼があるのなら、何処へ行きたいかという……馬鹿馬鹿しい妄想ですよ」


「実に馬鹿馬鹿しいですね」


 猪口は肯定した。


「そもそも、人間が飛べるのなら身長の四倍の長さの羽が必要だし、それを動かす大胸筋も鍛えなきゃいけないし、軽量化のために骨は脆くなりますし……」


「あ、いや、本当に鳥になりたいわけではなく……」


 そう言いつつ焼き鳥を食べた。


「で、警察は民間人を交えた『諮問刑事』という新しい組織を作りたいと……」


「警察側としては秋水君をイギリスとかアフリカで活躍した刑事に仕立てて星ノ宮警察に配属させるという案もありましたが、あの性格からして無理ですね」


「その前に、あいつに似合う制服がないでしょう?」


 その言葉に猪口は痛快に笑った。


 それに合わせるように春平はビールをグラスに注いだ。


 綺麗な泡と黄色い液を観ながら思った。


――最後の大仕事が始まるぞ

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