『WONDERFUL WONDER WORLD』(改訂版)のその後の話(短編)(しかも、前編)

シーン1


 冬休み。

 

 年末まで二週間を切った頃。


 小学校一年生から中学校二年生までの子供たちが山間の小さな村に三泊四日で泊まりで農作業の手伝いをしている。


 お昼になり、老婆が作ったおにぎりを食べる。


 普段、勉強やゲームで体を動かさない子供たちは出されたおにぎりを思い思いの場所で食べる。


 今のうちに食べなければ、午後の作業と武術の修行で倒れる。



 引率の秋水は、古民家から離れ畑でひときわ大きな握り飯をモリモリ食べていた。


 土を耕し、肥料を撒く。


 昔、それこそ、春平が生きていた時は農作用の牛などもいたが、高齢化に伴い、彼らは売られた。


――子供たちに『命』について考えさせたい。


 そんな大層なことは考えてないが、参加した一年生には、直接畑に行かず、まず、近くの屠殺場に連れて行く。


 その場面は見せないが、枝肉処理された牛や豚を見せる。


 泣く子がいた。


 うつむく子もいた。


 彼らを秋水は叱責もしなければ悟ったことも言わない。


 そして、彼らは顔を上げる。



「ああ、秋水さん。ここにいましたか……」


 農家を継いだ松田がやってきた。



 俗にUターン組で、十年前はフランスレストランで料理人シェフとして腕を振るっていたが、金持ち相手なのが気に障り、胃に穴が開いて戻ってきた。


 豊原県星ノ宮市の野菜や肉などをブランド化させ、青年会議所では全国から見学が来る。


 なお、彼は秋水の麻雀仲間であり、飲み友達でもある。



「どったの?」


 もぐもぐしながら秋水は松田を見た。


「俺……というか、この村全体ですが……農業を辞めます」


 その言葉に、流石の秋水でも本気で驚いた。


 詰まったご飯を懐から出したウィスキーボトルで流す。


「マジか?」


「はい……昔、俺の親父がクラウドファンディングで慣れないパソコン操作をしながら無農薬・無添加の野菜や牛肉を作ろうとしました。夏に雑草が生えるから彼らがボランティアで刈っていたんですけど、誰かがこう言ったそうです。『こんな重労働なら農薬使えばいいのに……』心が折れたそうです。で、無理がたたって親父は、その一か月後に向こうの世界へ逝きました……まあ、俺も俺なりに支えてもらって、今まで着ましたけど……辛いものは、やっぱキツいですね」


 その声はいっそ明るいものだった。


「今、この土地で、アメリカの企業で水溶栽培で本当の無農薬野菜工場を作るという計画があってばっちゃんたちも『もう、辛い』と判子を押しています」


 と、横を見るといたはずの秋水は無く、数分待つとシャベルを持って秋水は現れた。


 そして、休耕田をいきなり掘り出した。


 幸い、苗も水もない状態だからいいのだが、二メートル以上ある秋水の頭だけになった時、彼は掘るのを止めた。


 それから地上に出て、土を弄り、にんまり笑った。


「なあ、松田クン。君は農家を続けたいかい?」


「ま、まあ……機械とか最新鋭のものがあれば……」


「無欲だねぇ……」


 秋水は呆れた声を出した。


「は?」


「本来なら、いくらか謝礼をもらいたいが麻雀する仲だ。特別サービスで麻雀の時に宅配ピザを奢ってくれ」



シーン2


 平野平正行は部活で夜遅く帰ってきた。


 スポーツ部ではない。


 高校から続けている陶芸を続けている。


 歴代の部長と講師は言う。


「君は思うままに、自由に作ればいい」


 が、実は正行があまりにも不器用なため彼らは見捨てたというのが正直なところだ。


 ただ、粘土から空気を出す「菊練り」などの力仕事は彼は非常に役に立つので重宝はされている。



 満足できる作品が出来たのは夜九時を回り、正行はバイクで家に戻った。


「ただ……」


 玄関を開けるといきなり、大きななにかが顔を襲った。


 正行はそれを当たる寸前で受け止めた。


「おかえり」


 そこには父・秋水がいた。


「あれ? 明日まで農作お泊り会じゃなかったの?」


「子供たちが寝ている間に様子見と、それを渡したかったから一時帰宅。お前、今度、県展に作品を出すんだろ?」


「うん、明日も工房で制作するんだ」


「じゃあ、それを使いなさい」


 手の中にあるもの。


 それは陶芸用の粘土だった。


 ただ、触った感じに違和感がある。


「ん?」


 表現できない違和感。


 でも、その違和感は確実に正行の想像を膨らませた。


(後編へ続く)

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