第15話 思い出、忘れ物
石動が車を駐車場に止めて、ローソンの中に入った。
中は比較的新しく、ちゃんと清掃されている。
「いらっしゃいませー」
五人ぐらいいるアルバイト店員が挨拶をする。
雰囲気が実にいい。
――昼飯持って来たからお茶がいいな。石動君も奢るから好きなものを買ってきなさい
猪口はそう言って千円札を二枚出した。
『子供のお使いでもあるまいし……』
石動は内心愚痴り、まずは、書籍・雑誌コーナーに向かった。
『星ノ宮観光ガイド』
『豊原県星ノ宮地図』
星ノ宮市は豊原県では大きな市だが海辺から山岳地帯をカバーしている。
他には漫画や雑誌などがある。
適当に手に取って読むふりをする。
そこから、猪口の様子を見る。
ベテラン刑事は社内でスマートフォンをいじっていた。
怪しいことはしてないと思うが、なまじ、刑事である。
猪口がいなくなったら車を総ざらいして発信機や盗聴器がないか調べよう。
おにぎり数個、日本茶と紅茶のペットボトル飲料を買って、石動は戻った。
「おかえり」
猪口はブルーライトで酷使した目を数回意識的に瞬くした。
「好みが分からないので適当に買ってきました」
ふと、石動は不思議に思った。
秋水もそうだが、何故か、猪口の前でも敬語になってしまう。
年上とか肩書などではなく、にじみ出る風格というか、歴戦の戦士だけが持つ威厳というべきか?
秋水が戦場の戦士なら、猪口は?
「あの、秋水さんと猪口さんの関係って何です?」
「うーん……」
おにぎりの鮭を食べていた猪口は少し考えた。
「事細かに話せば面倒な話になるが、まあ、昔から警察などでも立ち行かない悪い奴らを代わりにお仕置きをしてもらっている……って言えば分かるかな?」
「『必殺』みたいな?」
「いやいや、彼らみたいに非合法ではないよ。そこを上手く調節してきたのが我らが猪口家。まあ、正確には五家を守るのが役目だったらしいけど……」
そう言って、猪口はペットボトルからお茶を飲んだ。
この世界の日本には「
元々は皇室を守る御家人の中で色々な派閥が出来、歴史の裏で暗躍し、団結したり分かれたり争いをしたりしつつも現代まで続いている……らしい。
火野家、風間家、水木家、大野家、龍田家。
このどれもが大手企業を持ち、海外にも進出している。
関連企業に内定や就職できれば、勝ち組になる。
ただ、昨今の世界情勢や閉塞感などから、前よりも五家の勢力は弱くなっている。
特にIT関連では有能な技術者を海外や新興のベンチャーに取られて、IT関連で売り上げを持っていた風間家はITトップテンランキングから消えた。
「物語の話かと思っていましたよ」
「これでも、戦後は龍田家が主体で孤児院とか作って慈善活動もしていたらしい。GHQもこれらを見て、財閥解体を止めたそうだからね……まあ、逆に情報機関、特にテレビなどに圧力をかけて情報統制しているのも事実なんだ」
紅茶のペットボトルを飲む石動に猪口は言った。
「『闇の中にある影こそ主なり』という代々の家訓もある……俺は喧嘩が苦手でね、だから、口先三寸で今まで生きてきた」
そして、猪口は真面目なのか不真面目なのか不思議な表情で笑った。
「これは、君にしか言わない。俺の本当の目的は闇の中の影を表に引っ張り出すことだ」
猪口直衛。
彼もまた、戦士なのである。
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