第9話 子供たちの活躍 ドライブ編

 石動肇は十六歳の正行の体を何とか担いで愛車であるグリフィスを停めた駐車場についた。


 アフリカなどで秋水から鍛えられ、以前よりも力やスタミナはあるが、それでも、何とか助手席のドアを開け、半ば放り込むように正行を座らせシートベルトをセットする。


 一見すると、詰襟の学生服を着た、でも、まだ、ほんの少し子供らしさのある顔立ちで秋水より眉が下がり、人がよさそうだ。


 だが、手には無数のタコがある。


 袖口や首元を見れば、痣や切り傷がある。


 自分と同じように祖父であり師匠である春平にどれだけ苛烈な修行をさせられたかが分かる。


 胸に何かこみ上げるものがあった。


 だが、今は、逃げるのが先決だ。


 自分たちの師匠二人が敵を九分殺しにすると宣言した。


 普段でも十二分に強い彼らが本気で怒ったのだ。


 少し、深いため息をして石動は運転席に入り、スタートキーを回した。



 平野平家の家は意外と遠い。


 港を出ると、賑やかな街中を通るが、石動は別の道へハンドルを切った。


 これから、狂気と狂乱の夜の街ではなく、静かで穏やかな農村を場違いなグリフィスが走る。


 ほとんどの家は雨戸やカーテンを閉め、静かにしている。


 酒場もカラオケ屋もない。


 頬に当たる風の中に土のにおいがする。


 ほぼ、車のヘッドライト以外は明かりは無い。


 ぎゅるる……


 何処からか変な音がした。


 蛙だと、こんなにド派手に鳴くのだろうか?


 鈴虫だったら、世紀の発見である。


「あれ? ここは?」


 寝ていた正行が目を醒ました。


 だが、まだ完全に覚醒していないのか弱々しく、覇気がない。


 ただでさえ、トロンッとした目がますます閉じる。


「……そろそろ、コンビニがあるから、そこで休憩しようか?」


「……」


 正行は小さく頷いた。



「いらっしゃいませ」


 覇気がある様でない様な声が数人聞こえる。


 レジに立つ男性もいれば、物品の品出しをする二人組……


 石動は、週刊誌や漫画本を立ててある本棚の窓越しから車の中にいる正行を見た。


 彼は、まだ、ウトウトしていた。


 その様子を見て、石動は自分用のブラックコーヒー缶とパイン味のサイダーをプラスチックの駕籠に入れた。


 それから、三十円程度の駄菓子を少々、レジで会計するときに肉まんと、あんまん、煙草のマルボロを買う。


 レジ袋に入れてもらい、車に戻る。


 

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