第7話 子供たちの活躍(?) その前に

 手短に話し合い、石動と平野平春平と秋水は車で元星ノ宮倉庫へ向かう。


 主にアメリカからの貨物などの輸出入を行っていたが、犯罪に使われやすい治安の悪さや、東京や横浜のほかの港の充実に伴い、年々貨物が減り、今や、細々と歯の抜けた櫛のように古びた倉庫がある。


 その中でも正常に稼働しているのはさらに減る。


 逆に悪党の巣窟にもなっている。


 故に倉庫街には金網フェンスが貼られ、その上に有刺鉄線が張り巡らされている。


 微弱だが、フェンス全体に電流も走っている。

 

 この辺は釣り客にとっては絶好の穴場スポットではあるけど、近寄るものは他県から来た訳を知らない無礼者だ。


 常識ある市民は近寄るのさえ、嫌っている。


「どう攻略する?」


 車を出て、独り言のように春平はフェンスを見た。


「まあ、絶縁体グローブで網を引き裂くのがいいかなぁ」


 運転席から秋水も独り言のように言う。



 実際、秋水の筋肉なら余裕で金網程度引き裂くことができる。


 紛争の中で石動たちの前でも、金網フェンスで逃げ道が無くなっても秋水はつまらなそうに金網に触れ紙を引きちぎるように針金の壁を開けた。


「ほら、行くよ」


 呆然とする石動に師である秋水は催促した。



「あ、そんな乱暴なことはしなくても大丈夫です」


 石動が止めた。


「じゃあ、どうするのさ?」


「正面突破です」


「車で?」


「いえ、こいつの力を借ります」


 石動はスマートフォンを出して従業員用出入り口にあるセンサーに何本かコードを刺し、スマートフォンと連動させた。


 平野平親子は後ろから画面を見る。


 一見すると電卓のようなアプリだが、目にもとまらぬ速さで数字を出し、『ポン』っと音が出た。


 すると、簡単に金網の戸は開いた。


 春平は驚いた。


「凄いな、今の科学技術は……そうだ、石動君。君の職業は何だね?」


「ITのベンチャー企業で社長をしています」


 老人にはちんぷんかんぷんだった。


「今は東京にいますが、早いうちに豊原県に引っ越そうと思います。本籍はここだし、かなり東京よりもIT化が進んでいるから仕事もしやすいから……」


「それに、俺もいるしね」


 横から秋水が入る。


「は?」


 世界を股にかける傭兵の息子の言葉も春平は理解できない。


 と、何処からかうめき声が聞こえる。


――痛いよ、痛いよ……


 それこそ、蚊の鳴くような声だが、三人は同じ方向走った。


 

 大きな倉庫の中、中央部で一人の少年が学生服のまま、苦しんでいた。

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