第100話 スカルバードラーメン(1)

 ネクロダンジョン八十層。


 生者はそこにいるだけで気分を悪くする淀んだ空気と、仄暗い墓場が辺り一帯に広がり、不気味な見た目のモンスターの紅い目がギラギラと光る。


 まぁ、状況をお構いなしにタヌキの面をつけたタヌポンの配信がいつも通り始まっ……た?


「どうもタヌポンやで!」


:おはポ……誰だお前!?

:雑な偽物登場で草

:もうちょっとクオリティ高くして、どぞ

:エセ関西弁のタヌポンは笑う

:口調近づけて~www


 元気よく挨拶するタヌポン(偽)に総ツッコミのコメント欄、画面外からため息が聞こえてくる。


「だから無理だって言ったろ? タヌキの面付けただけでバレなかったら俺も立場ないって」


「いや、元祖タヌポンのうちならバレへんと思ったんやけど……」


「誰が元祖だ」


 う~んと首を傾げるタヌポン(偽)を咎めるように画面外から本物のタヌポンが顔を出す。


:あっ本物だ

:やっぱタヌポンはこれくらい地味でいいんだよ

:実家のような安心感

:このダサダサ感がいいんだよなぁ


「けなしてんの? それとも褒めてんのか? するならどっちかにしてくれないか?」


:ダサい

:アホ

:バ~カ

:間抜け~


「貶す方にシフトすんな!?」


 タヌポンがいつものようにいじられる。

 その隣で顎に手を当て、ふむとタヌポン偽がうなづく。


「成程、タヌポンはいじるのが基本なんやな理解したわ」


「理解すんな!?」


「といいつつ?」


「嬉しくねぇよ!!?」


:こやつ……タヌポンの扱いがうまい!?

:タヌポン偽物さんに翻弄されてて草

:こんなに慌ててるの珍し……いや結構あったな

:そしてまた声と体系からして女性である

:また女性ですかい、お兄様

:ほんとタヌポンは……

:お兄様最低です


「俺の友人が女性多いのそんなに悪いことか!? それに男友達も最近出来たんだからな!?」


:……ま?

:噓だ……僕を騙そうとしてる……

:うわぁぁぁ!!!

:ドクターゲーマーは元の世界にお帰りっ!

:はいはい、妄想妄想

:そういう夢を見たのね

:俺達は分かってるから……


「噓じゃないが!?」


 タヌポンがいじられているとタヌポン(偽)がハンカチをお面の目部分に当てる。


「あの女友達しかいなかったタヌポンに男友達出来たんやねぇ、うち嬉しいわ」


「お前は俺のおかんか!? あぁもう、話し進まないからさっさとタイトルコールするぞ!」


 タヌポンが手でクイッと操作するとテロップと効果音が鳴り響く。


「「スカルバードを料理してみた」」


:……? 聞いたことないモンスターっすね?

:まぁ珍しいからね

:スカルバードって何? 教えて有識者!

:説明しよう! スカルバードとは、ネクロダンジョンにのみ生息する固有のモンスター

:名前の通り鳥の骨が勝手にカタカタと空中を飛び回り

:奇声を上げて仲間を呼ぶモンスターだね

:胸の魔石を壊すか魔術系の攻撃をすれば倒せるぞ

:有識者サンクス

:骨を料理……まぁ幽霊で料理したし今更か

:そもそもここの配信まともじゃない定期

:でも、骨って……ダシとるくらいしか思いつかん


 コメント欄を見てタヌポンは腕を組む。


「まぁネクロダンジョンのモンスターは可食部位ないしな……あっても肉が腐ってるし……」


「腐りかけが美味しい言うし大丈夫やない?」


「これは腐りかけじゃなく完全に腐ってんだよ!?」


:それはそうwww

:タヌポンが正しい

:久し振りにタヌポンのまともな発言を見た

:↑それな

:まともな状態は久し振りとはこれ如何に?


 タヌポンはコホンと咳払いして、配信を仕切り直す。


「まぁ、とにかくまずは狩るところからだな、え~と……」


 キョロキョロと周囲を見渡すタヌポン。

 しばらくしてタヌポンが一点を指さした。

 カメラが指先の方にピントを合わせると、それはいた。


 筋肉も羽根もないのにも関わらず、空中を悠々と自在に飛び回り、仄暗い中鈍く光る魔石を胸に付けた鳥骨。


 スカルバードである。


 タヌポンが拳を構えた。


「まずは……」


「オッケ~♪ あれを倒せばいいんやね♪」


「はっ?」


 タヌポン(偽)の手から人一人分くらいの火球が生成され、轟々と豪炎が揺らめく。


 それを綺麗なフォームでスローイング、モンスターの集団に飛来する。


:あっ……

:これやばい?

:威力がこれは……


「まずい!?」


 タヌポンがカメラを庇う動きした瞬間、大きな轟音だけが画面から響いてくる。


:ギャァァァ!?

:耳がぁぁぁ!?

:耳ないなった……

:事前に鼓膜破っといて正解だったな

:全然無事じゃないが?

:この流れ前にも見たな

:マンドラゴラの時だな

:つうか、大丈夫か?

:タヌポン達無事~?


 数秒後、カメラの映像が戻ると辺り一帯が焦土と化し、その上に二人は無事な状態で立っていた。


「うん♪」


タヌポン(偽)が、こちらに振り返り、てへっとポーズをとる。


「やりすぎたわ♪」


:やり過ぎたわじゃねぇぇぇ!?

:威力がヤバい!?

:二つ名持ちよりヤバない!?

:えっ、これくらいが普通なんじゃないんですか?

:元B級のタヌポンもこれくらいだったし

:探索者はこれくらいできるんでしょ?

:もうダメだここの視聴者……

:タヌポンで慣れきってしまっている

:こんなのホイホイいないっての!?


「……」


 タヌポンが無言でゆっくりとタヌポン(偽)に近づく。


「と……じゃない、タヌポン? 何でジリジリとにじり寄ってくるんや? か、顔見えへんけどちょっと怖いで?」


 ピタッとタヌポン(偽)の前で止まる。


「……いざ」


「ふぇ?」


 タヌポンがタヌポン(偽)の肩を掴む。


「いいからそこに正座」


「はい!?」


 ペタンとタヌポン(偽)は地面に正座する。

 スゥとタヌポンは息を吸い込む。


「確認とってから撃てよ! 周りもよく見る! 危うくカメラぶっ壊れるところだったぞ! あとちょっとは加減しろ!」


:いやそれは草

:おまいう

:タヌポン……鏡って言葉知ってる?

:初期のお前に言ってやりたいよ……

:いきなりモンスター殴り飛ばす人が何言ってんのw

:タヌポン(偽)ちゃんかわいそ

:いや、自業自得では?

:というか、こっちのコメント見えてないなタヌポン

:タヌポン珍しくお怒りモード

:そりゃあ(事前告知なしにあんなのやったらキレル)でしょう?

:ってか、もしかして説教終わるまでこのまま?

:ま?


 その後、小一時間程タヌポンの説教は続き、画面からはタヌポン(偽)の腹の虫がずっとなり続いていたと言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飯テロダンジョン配信! 入社二年目でクビになった俺はモンスター料理で金を稼ぐ!! ヒサギツキ(楸月) @hisagituki9

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画