第97話 大親友は魔王様
ネクロダンジョン最上階。
そこは古びた洋館のようなボロボロのカーテンやカーペット、いかにもホラー映画に出そうな作りだった。
最奥には大きな玉座があり、それに茜がドヤ顔で踏ん反りかえる。
「よう来たな勇者達――よ!?」
無言で銃を抜いた宇佐美が水弾を放った。
余程イラッと来たのか、玉座の一部が崩れている。
「あ、危ないやんけ!? うちを殺す気か!?」
「そんなわけないですわ♪ 別に生存報告しなかったのをまだ怒ってるわけではないわよ♪」
「怒っとるやん!? 絶対にまだ怒っとるやん!?」
よっぽど茜と再会できたのが嬉しかったのか、宇佐美がここぞとばかりに茜をいじり倒している。
お前は好きな子いじめる小学生かっての。
「宇佐美、話が進まないから今は抑えろ――こらしめるのはあとでな?」
「そうそうあとで……うん?」
疑問符を浮かべる茜を無視して、話を進める。
「色々と聞きたいことはあるが、まず一つ――何でケモ耳生えてんだ?」
ピコピコと嬉しそうに茜が紅い狸の耳を動かす。
「あぁ、それはうちの体が獣人、魔族の体になったからなんよ。この変態と取引してな」
「……っ!!」
宇佐美が銃をベルフェゴールに向けようとしたので、手で銃を下ろさせた。
「最後まで聞こうって言ったばかりだろ? で? 取引って?」
「うちに魔王の座くれって言うたらな? 魔族になったらあげる♪ 言うたからうちがすぐに了承したんや」
「軽っ!? それでいいのか魔王?」
フフフと突然笑い出したベルフェゴール。
「まぁ、我もこの肩書は窮屈だったからな! これで何の躊躇いもなく女の子達をナンパ出来る!」
「……あんたの嫁達に伝えんで? また浮気しとるでって」
「やめて、不死の我も死んじゃう!?」
それはそれは綺麗な土下座を披露するベルフェゴール。
どんだけこいつ嫁さん怖いんだよ……。
それだけ怖いのなら浮気しようとするな。
俺が呆れかえっていると、ゴホンと咳払いする茜。
「まぁ、それで魔族の体にしてもらったっちゅうわけや。こっちの姿だと、魔力さえあれば食事もいらへんしな。ほんま便利やで」
ケラケラと笑う茜に対し、宇佐美と俺は少し首を傾げる。
「まぁ体がそうなったわけは分かった」
「だけど、そもそもの話どうやって魔族と接触しましたの? そこのが道端にでも落ちてました?」
そこのと軽称して言われたベルフェゴールを指さす。
ヒクヒクとベルフェゴールは頬を引きつらせる。
「お嬢さんお嬢さん? 我を犬の糞か何かと勘違いしていないかい?」
「似たようなものでしょ♪」
「ひどい!?」
ニコリといい笑顔で宇佐美が返答すると、ベルフェゴールはガーンという効果音が聞こえる程勢いよく地面に膝をつく。
茜はそんな様子を眺めながら苦笑し、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
「まぁ話せば色々と長くなるんやけど」
茜は懐かしそうに魔族達との出会いを話し始めた。
□□□
S級試験の前日。
その日は下見も兼ねてネクロダンジョンに一人で潜っていたんや。
――もちろん、橙矢にも内緒で。
一人で行こうとすると橙矢は絶対止めるさかいな。
「ようやくここまで来れたわぁ、ほんとしんどかったわ」
肩をぐるぐると回し、体をほぐす。
ここまで橙矢にばれないように、物陰に隠れたり、忍び足でコッソリと動いてたせいでかなり疲れた。
「全く橙矢は心配性すぎや、知らない人にはついていかないとか、一人でそこらへんをうろつくなとか、小言ばっか、あんたはうちのおかんかて……うん?」
そん時うちはうずくまってる女性を見かけたんや。
見ると顔色も悪く、体をガタガタと震わせている。
うちはすぐさまその人に駆け寄ったんや。
「自分大丈夫か!?」
うちの存在に気づいた人物は虚ろな目でうちを見上げた。
「あぁ……あぁ……」
「どこか痛むんか!? まっとき、うちが下に連れ……」
「アァァァ!!!」
金切り声をあげながらこちらへと拳を振るってくる。
うちは咄嗟の直感で避け、後ろへとバックステップで下がった。
「危なっ!? 混乱の状態異常にかかっとんのか!? 安心しぃな、うちはモンスターやない!」
「アァァァ!!!」
目の焦点も合わない人影が襲い掛かってきた。
「話は通じへん……か」
攻撃するわけにもいかず、右に左にと避けながら考える。
幸い、動きも橙矢や宇佐美ちゃんよりも遅かったし、苦ではなかった。
「うち状態異常治すポーションは持っとらんのよな……いっつも橙矢が持っとるさかい油断したわ。やっぱ橙矢と来るべきやったかも……うん?」
避けてる最中、狂乱の女性は徐々に肉体が変わる。
耳が長く、見た目も先程より秀麗な見た目へと変化した。
その姿はまるで物語で出てくるエルフのようだ。
「綺麗や……」
思わず見惚れていた、その瞬間だった。
「ぐはっ!?」
突然、女性の動きが速くなり、腹へもろに拳が入る。
威力は強ないが、異常なまでに速すぎたんや。
「こん、のッ!」
「アァァァ!?」
咄嗟にカウンターで手が出てしまい、女性は遠くへと吹っ飛んでしまう。
ズシャァと地面を女性が滑る。
「あっ、やっば……す、すまへん、つい手が出てしもて! 大丈夫か!」
「……」
女性はまるで何もなかったかのように無言で立ち上がり、フラフラと近寄ってくる。
見た目もドンドンと綺麗になっていき、もう綺麗を通り越してその美貌は異常だった。
人ならざる美しさと、そう言ったほうがいい。
「もうこれ、ただの混乱状態とちゃうな。一旦戻って態勢を整え直した方がよさそうや」
戻ってダンジョン協会にこのことを伝えなければと、何とかあの速さから逃げる算段を考えていた――そんな時だった。
「やれやれ、また新たな魔族の発生か。はてさて今回はどんな……おぉ!! 見目麗しい美人じゃ~ないか!!」
声のした方へと視線を向けると、ボロボロのロングコートの細見で不健康そうな青白い肌の若い男性が嬉しそうに声を上げていた。
直感で理解してしまう……あれは人間じゃないと。
「……」
ゆっくりと後退りする。
気づかれないように……バレないようにと……。
「おやおや、もう一人麗しいお嬢さんがいるじゃないか」
だが、虚しくもその願いは叶わなかった。
「麗しいレディに会うのに、こんなボロボロの姿で失礼だったかな?」
きざな笑みをこちらを向ける男。
その笑みに恐怖しか感じない。
うちが黙っとると、男はやれやれと首を横に振った。
「だがこの女性の変貌を見られてしまったからには仕方ない、記憶消去の呪術……おッ!?」
男はいきなり吹っ飛ばされた。
正確には、狂乱状態の女性に突き飛ばされたのだ。
壁に激突し、男はピクピクと痙攣する。
「えっ……弱っ……」
思わず声に出てしまう程、その男は雰囲気とは全く違うほど、クソ弱かったんや。
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