第4章:全面戦争編

第95話 再会は突然に

 ネクロンダンジョン九十層セーフゾーン。


 そこで俺達が怠惰の魔王ベルフェゴールを追い込み、あと一歩の所で倒せる瞬間、現れたのは……。


 死んだと思われていた茜だった。


 雰囲気、容姿、言動に至るまで茜そのものだ。

 ――いや、だが少し前とは違うところがあった。


 茜の染めた赤髪からふさふさとした獣耳が生えている。

 付け耳とは違く、ピコピコと意思を持って動く獣耳。

 明らかに人をやめているのだ。


「いや~ほんま久し振りやな?」


 カラカラとあの頃と変わらない太陽のような笑顔で笑う、耳もピコピコと嬉しそうに動かす茜。


「あぁこれか? うち魔族になったんよ。まぁちょっと事情があってな?」


 俺の視線に気づいたのか、茜は耳を触る。


 宇佐美と俺は目配せしてコクリとこれからの行動を確認し、ジリジリと茜に詰め寄った。


「もうちっと早めに生きてることは伝えたかったんやけど、あれよあれよと時間が経ってもう――何でそんなおっかない顔で近づいてくるんや二人とも!?」


  引きつった笑みを浮かべながら、茜も距離を開けようと後ろに下がった。


「あ、あれか? 偽物っぽい登場の仕方したから怒ったんか!? うちは本物やさかい信じてぇな!?」


 壁まで追い込まれた茜は俺達の顔を見てガタガタと震える。


「いやいや信じるよ? むしろ俺達がお前を見紛うはずないじゃないか? なぁ宇佐美?」


「そうですわよ。わたし達が貴方を見間違うわけないじゃないですか?」


 その言葉を聞いて、茜がほっとする。


「ほ、ほんならよ――」


「「ただ――」」


 俺と宇佐美はニコリと笑って武器と拳を握る。


「「生きてんなら最初からいえやドアホォォォ!!!」」


「ギャァァァ!? ごめんなさぁぁぁい!!?」


 宇佐美の水弾の嵐と、俺の拳が茜に振るわれる。

 泣きながらそれから逃げ惑う茜。

 

 その様子をポカンと見つめる三人。


「えっと……これはどういう状況なんですかね?」


「お姉さん、ちょっと分からない」


「我も我も♪ 気が合うなお嬢さ――あっぶな!?」


 二人に抱き着こうとするベルフェゴールの前を殺意が高い紅い炎の槍が横切った。

 茜の得意技の火魔術と槍術の合わせ技である。


「何しれっと抱き着こうとしとんねん変態魔王」


 ふっと息で手から出た火の粉を払う茜。


 俺がDEF特化にしてる状態とはいえ、成長した宇佐美との合体攻撃を避けながら、遠くの魔王に攻撃するとか、成長凄いな。


 感心する俺をよそに茜は冷めた目でベルフェゴールを見る。

 だが、そんな視線を全く魔王は気にした様子がない。

 むしろ声高々に嬉しそうに胸を張る。


「こんな美人を口説かないなんてレディーに対して失礼になるじゃないか♪」


「……もう一発いっとくか?」


「いえ、結構!?」


茜の手に炎の槍が生成される前に、ベルフェゴールが両手を上げて降参のポーズをとる。


 俺達もベルフェゴールの言動に呆れて、怒りもどこかにいってしました。


「で? そこの魔王も茜の死の隠蔽を協力してたみたいだが、言い訳は?」


 茜のように魔王へ軽蔑した視線を向ける。


「こっちにとばっちりきた!? わ、我は悪くないだろ!? 少年が我の話を聞く前に走り去ったのが悪いのだろ!? 我悪くないもん!」


「もんって……いい年した大人が言うなよ」


高貴なイメージが崩れるような幼い言動をとる魔王。

こんなのを倒すために過ごしていたかと思うと、本当に泣きたくなってくるな。


俺は冷めた目をベルフェゴールに向ける。


「じゃあ聞くが、目の前に知人の死体抱えた男が立っていました。そして男は血だらけです。傍から見たらどう思うでしょうか?」


「うむ、傍から見たらそやつが犯人だな♪」


「それがお前のことだよ、張っ倒すぞ?」


「口悪!? 少年は女は尊ぶが男は冷遇する人間なのか!? 我と同タイプだな♪ 特に女の子に囲まれてるとことか♪」


 一瞬、瑠璃のやってるゲームのセリフが思い浮かんだ。

 

 魔王が仲間を見つけたかのようにこちら見つめてくる。

 仲間にしますか?

 

 答えは当然ノウだ。


「すいませんね? なにぶん復讐相手が犯人じゃなかったって体験したことないもんでね?」


「体験できてよかったな♪ 一生の思い出だぞ♪」


 やたらといい面でウインクするベルフェゴール。

 こいつの言動、宇佐美とは別ベクトルでむかつく。


「……なぁ茜、こいつ殴っていい?」


「許可するで」


「二代目ちゃん!?」


裏切られたと言わんばかりに目を見開く魔王。

ゆっくりと俺が殴るために魔王へと近づく。


「何故だ!? 我らは同士では!?」


「お前と一緒にすんな、嫁が72人もいるって時点で気に入らないのに、その上他にも手を出そうとするとかどんな神経してんだ」


俺は拳を強く握った。


「俺なんか人生で一度もモテたことなんてないのに!」


「「「「「えっ……」」」」」


何故か全員驚愕したように俺へ振り返る。

俺そんなおかしなこと言ったか?


ベルフェゴールが頬を引きつらせる。


「少年、モテないという割には周りが女性ばかりのようだが?」


「……? 確かに女性の友人は多いがそれは友人としてだ。俺ごときに好意ある奴なんているわけないだろ」


「そ、そうか」


俺が真面目に答えると、ベルフェゴールが何故か腹を抱えて笑ってくる。


一体なんだよさっきから……。


「その、人生で一度くらいは告白されたりとか……」


珍しく陽子さんが食い気味に質問してくる。

恋バナ好きなのかな?


「陽子さんくらい容姿が良かったらあるかもしれないですが、俺の学生時代に来る手紙は基本果たしじょ――ゲフンゲフン! 友人の恋愛相談だったり、瑠璃が看板持ってドッキリ仕掛けてくるくらいですよ」


「そ、そうなんですか」


 危ない危ない、果たし状とか言いそうになった。

 昔は本当に素行が悪くて、喧嘩ばっかりだったからな。

 ――社会人になってからはそういう言動はやめたけど。


 俺は話し続ける。


「前の会社にいた時も、宇佐美達以外とも仲良くなった子はいたんだけど、バレンタインチョコ渡される時、義理です! 義理ですから! 好意とか全然抱いてないので! もう勘弁して下さい!? って、念押しされて渡されたしな」


 何か怯えてるようにも見えたけど、それくらい俺と親密になったと思われたくなかったんだろうな。


 先輩が茜と宇佐美を見ると二人は何故か視線をそらした。

 

「それにドラプロに来た時もファンから色々貰うことあったけど、中にはハート型の物もあってこれは! ってはしゃいだ時もあったけど、注意書きに義理ですって書かれたし、勘違いは良くないなって気を引き締めたよ」


 先輩が今度は陽子さんを見ると視線をそらした。


 俺は腕組みする。


「こういう経緯あって俺は一度も告白何てものには縁がなかったし、俺程度じゃ告白何てオッケー貰えないだろうしな」


「「「「……」」」」


 俺が話し終えるとお通夜のような空気になってしまう。


 前も瑠璃にこの話したら、生暖かい目で見てくるし、藍ちゃんに至っては苦笑いだったし。


 まぁ、俺がモテない件は諦めている。

 だが、ベルフェゴールは俺の恋愛事情を聴いて、ずっと腹を抱えて笑っていたので、一応ぶっ飛ばしておいた。


 ――笑いすぎたこの野郎。

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