SS:お礼はモンスター料理で(2)
オニオン、パプリカ型のベジナイトをまな板の上におく。
それぞれ、みじん切り、粗みじん切りする。
「えっと? ベジソルジャーの時が、毒消し草と麻痺消し草を使ってたみたいデスから、今回もそれでいいはずデスね」
フライパンに油をしいて、毒消し草、麻痺消し草を先に炒め、次にベジナイトを炒めていく。
ジュゥと焼ける音が心地よく響く。
「……普通に上手い。そんなに心配しなくても」
「いや、こっから! こっからだから!」
何か、瑠璃ちゃんがワタシの悪口言ってる気がするデスが、今は料理に集中デス。
火が通ったら、キャセロール用の皿……日本で言うとグラタン皿デスかね? に盛り付けていく。
「じゃあ、次は買って来たコンキリエを茹でていきマ~ス」
「こん? きりえ?」
「パスタの種類だよ。貝状のパスタでシェルとも言われてる。大きい物をコンキリオーニ、小さい物をコンキリエッテって呼び方変わる面白いパスタだよ。主にスープ何かで使われてるんだけど、キャセロールで使うのは珍しいね。家庭の味なのかな?」
「解説ありがとうデス♪」
ひらひらと笑顔で手を振るお兄さん。
そして、その隣から藍ちゃんが凄い睨んでくるデス。
怖い、怖いデェス!?
お兄さんの機嫌が増すごとに、後輩達の機嫌が悪くなるデス!?
な、何とか美味しい料理作って挽回するデスよ!
沸騰したお湯にコンキリエを投入し、袋に書かれているゆで時間より少し早く茹でる。
茹で揚がったら、ザルにお湯ごと入れて、水気をきりこれもキャセロール皿に乗せる。
「さぁて最後に仕上げデスね」
同じく、キャセロール皿にクリームソース缶にミルク、そしてある物をクーラーボックスから取り出す。
ワタシはクーラーボックスから取り出したのは……。
「ワタシが作った自家製のサワークリームを入れるデェス!」
「自家製!? あれ作るのに、相当な手間かかるのに牛山さんすごいな!」
実はこのサワークリームはマザー直伝で、褒められてとても嬉しい、しかも料理好きのお兄さんからの賞賛となればより嬉しく感じる。
「えへへ……それほどで――ひっ!?」
「……? どうしたんだ?」
「な、ナンデモナイデ~ス」
瑠璃ちゃんと藍ちゃんの鋭い視線が痛いデ~ス!?
日本の横恋慕する大和撫子は怖いデェス。
「お兄さんに……褒められる……中々、ないのに」
「これが料理出来る者と、料理出来ない者の差か」
お兄さんは目がキラキラと輝き、テンションは最高潮。
そして後輩達からは何故か冷たい視線……。
ワタシが何をしたというのだろうか。
あぁ、何かもう母国に帰りたくなってきましたマザー。
心の中で泣きながら、手は動かす。
「具材を皿の中で混ざ合わせたら、上からチーズをまんべんなく敷き詰めて、オーブン……は無いのでセーフエリアの石窯使うデス♪」
火をくべ、石窯が熱くなってきたら、人数分のキャセロール皿を入れる。
その様子を見ながら、お兄さんが考え込む。
「……改めて思ったんだが、低層にあるセーフエリアの方が設備充実してるな」
「まぁ、探索者があんまり来ない上層より、よく来る低層エリアが充実するのは自明の理だと思うよ」
「羨ましいな……上層でもこれくらいの設備あればわざわざ調理器具持ってく必要ないのに」
お兄さんがぶつくさと上層のセーフエリアに対する文句が留まることを知らない。
「あれ? お兄さんって企業探索者だったんデスか?」
「うん? あぁ、まぁそういう仕事と言えなくは……ない、かな?」
「じゃあ、最近倒した大物って何デスか!」
あれだけ強いのなら、大物を狩ってるはず。
それに将来のためにも企業探索者の話は聞きたいデス。
お兄さんが腕組みをしながら、頭を抱える。
「そうだな……最近だとやっぱレッ――」
「「「わぁぁぁ!!?」」」
三人が慌てたように、一斉にお兄さんの口を塞ぐ。
「さ、三人ともどうしたんデス?」
「き、気にしないで! ドラゴンダンジョンのレッサードラゴンって言おうとしたんだよね! そうだよねお兄ちゃん!! ねッ!!!」
「そ、そう言おうとした。一人でレッサードラゴンは結構骨が折れたな~ってさ」
しみじみとお兄さんはそう言った。
なるほど、レッサードラゴンなら納得です。
レッサードラゴンはドラゴンダンジョン60層のボスモンスターで、S級試験で一人で倒せれば認められる――確かにこれ以上ない大物デス♪
「すごいデス♪ ワタシもそれくらい強くなりたいものデスね♪」
「あはは……」
途中何故か慌てたように見えたのですが、気のせいデスよね。
まぁ、気にしても仕方ないので料理に戻りましょう。
「そして、焼きあがるまで時間がかかるのでブラックスネークのナゲット作っていくデス♪」
「あぁ……やっぱりそれも作るんだ……」
残念そうな声を上げるが、そのまま突き進むデス。
「皮を剥いだブラックスネークを切って……」
「そのままだと固くて刃が通らないんじゃないか? 肉系は例のスパイス振らないと……って、どっかの配信で言ってた気がするし!」
お兄さんは早口で慌てたようにそう言った。
すごいモンスター料理に詳しいですね。
もしかして……。
「お兄さん実はタヌポンのファンですか♪」
「あぁ……まぁ、そんな所だ」
「ふっふっふ♪ なら今回は驚くかもしれないデスね♪
ワタシはクーラーボックスから黒いスパイスを取り出す。
「タヌポンの配信を何度も見続け、試行錯誤を重ねた上で、あの黒スパイスを完全再現してみたんデスから♪」
「「「「……!?」」」」
四人とも口をあんぐりと開ける。
驚きすぎて声も出ないようデスね♪
「えっと……でも、確か配信だと情報はあんまり出てないというか。そういうそぶり無かったと思うんだけど」
「そうなんデスよ! タヌポンのスパイスは門外不出なので、見て真似するしか無かったんデス! でもタヌポンの麻痺持つなら麻痺消し草、毒持つなら毒消し草って言葉をヒントに、固い肉なら防御低下のアイテムが有効だと思ったんデス! 色々と防御低下のアイテムを使って実験していた時、実家に置いてあった防御低下ポーションをグランパに許可貰って使ったら、これが見事に大正解! 液体だと使いづらいから、水気を飛ばしてスパイス状にしてるんじゃないかな~と、いやぁここまでたどり着くまで、結構苦労したんデスけ……ど?」
早口でタヌポンスパイスの再現過程を話してると四人全員がドン引きしている。
「えぇ……まじか……そんな偶然ある? ……いや、俺がそういう偶然で見つけた方法だしありえなくも……もしかしたら方法見つかるのも、そう時間がかからないのかも……」
ブツブツとお兄さんが小声で喋っていて聞き取れない。
「どんなことしたら、そんなジャックポット引き当てるの? チート?」
「タヌポンの、配信……見過ぎ……ストーカー、っぽい」
「何でその機転の良さ、いつも発揮しないの☆」
「スパイス再現しただけで、何でこんなにディスられてるんデスか!?」
三人には罵倒される。
お兄さんはファンとしての自信を喪失したのかブツブツ言ってるし、何かもうカオスデス!
結局、焼き上がるまでに作る時間は無くなり、刻々と時間だけが過ぎていった。
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