SS:お礼はモンスター料理で(1)
ユグドラシルタートル鍋を振舞った次の日。
とある少女は実家の厨房で頭を悩ませていた。
「う~ん、中々決まらないデスね」
食材を並べながら、エプロン姿の牛山柚黄は考え込む。
「お兄さんへの謝罪とお礼の品、何かいいか相談したら三人とも料理って満場一致で決まったまでは良かったんデスが、いざ作るとなると難しいデスね……」
料理するのも食べるのも好きな人に作る料理……。
なら、珍しい物を作った方が喜ばれるとは思うのですが、ネットに何か……。
スマホをスクロールしているとおすすめ動画にタヌポンが表示される。
「これデス♪ 今人気のモンスター料理をすれば喜んでくれるはずデス♪」
急いで支度し、ダンジョンへと移動する。
□□□
フォレストダンジョン40層。
B級探索者の登竜門とも言える場所で、低層よりも木々やモンスターが多く、対集団戦や足場の悪い所での戦闘練習に持って来いの場所である。
ワタシは大斧を肩で担ぎながら前へ前へと進んでいく。
進むたびに草むらから、丈夫な武器と分厚い鎧を着こむモンスターがわらわらと出てくる。
ベジソルジャーの上位種、ベジナイトだ。
ワタシは斧を腰の位置に構える。
「邪魔、デスッ!!」
横薙ぎに振るわれた斧が、鎧を意にも返さず、ベジナイトをスパスパと鎧ごと両断していく。
ベチャベチャと毒液が巻かれるが、事前に耐性ポーションを飲んでいたので、状態異常にかからずに済んだ。
「備えあれば患いなしってやつデスね」
辺り一帯にベジナイトの死体が転がる。
「ふぅ~」
斧を地面に下ろし一息つく。
「最近、ワタシ強い後輩やお兄さん見てたせいで自分が弱いんだと思っていたデスが、ワタシって決して弱いわけじゃないはず……デスよね?」
学校でも同年代の中では負けなしなんですが、どうも今年は期待の新人達が多すぎデス。
軽装で手数が多く、接近戦が得意な桃ちゃん。
召喚と付与術で後方支援の藍ちゃん。
雷魔術の一撃でボスモンスターだろうと屠る瑠璃ちゃん。
「ジャパンには、将来が楽しみな後輩たちばかりで嬉しいデス」
口を動かしながら、ワタシはモンスターの死体を回収する。
「持ち帰り……はお金がかかってしまうので来てもらうしかないですね。ベジナイトはもうセーフエリアに運んだデスから、これは放置で……あと野菜ばかりじゃ栄養が――」
瞬間、草むらから黒い影が勢い良く飛び出す。
「おっと?」
それを体を捻って、反射的に避ける。
「ベジナイト……にしては速すぎデスね」
黒く大きな影が横を通っていき、その姿を現す。
爬虫類特有のネットリとした黒い肌、ギョロギョロとこちらを値踏みする黄色い瞳、シュルシュルと舌を出して威嚇してくる巨大な蛇、ブラックスネークである。
「シャァァ!!!」
ワタシは斧を片手で掴んで構えた。
「ワタシこいつ苦手デェス……動きは速いし、物理も土魔術も効きにくい、だから結構力がいるんデスよね」
ワタシは斧を大きく振りかぶる。
「力一杯振りかぶっ……あっ」
斧がワタシの手からすっぽ抜ける。
「やばっ!?」
だが、幸か不幸か、斧はクルクルと回転して、ブラックスネークの尻尾を両断する。
「シャァァ!?」
ブラックスネークは予想外の攻撃に対処できず、ジタバタと痛がるように暴れる。
「け、ケイサンドウ~リ! 今のうちに!」
無詠唱スキルと土魔術スキルを同時発動させ、ブラックスネークの周りを囲うように土壁を生成する。
「これでトドメ……デス!」
ブラックスネークの頭上に土の槍を生成し、自然落下させる。
「シャァァ……ァ……」
けたたましい叫びをした後に音がしなくなる。
ソーと土壁の隙間から覗くと、しっかり死亡していることが確認できた。
「フゥ……
ワタシは土壁をゆっくりと戻し、ブラックスネークを片手で、もう片方の手で武器を持つ。
「さて、料理の素材も結構取れたデスから、皆呼ぶデス」
ルンルン気分でセーフエリアに歩いていく。
□□□
数十分後、四十層セーフエリア。
中々出来ないモンスター料理というのに、胸を躍らせていた。
「楽しみデス♪ タヌポンさんの配信みたいに頑張りますデスよ♪」
「……テンション……高い」
「部長チョウ張りっ切ってるし☆ ウケル☆」
藍ちゃんがいつものローテンション、桃ちゃんもゲラゲラと楽しそうに笑っている。
「部長ってタヌポンのファンなんだよ……本人ここにいるの気が付いてないけどね」
「あはは……でも、俺の配信を見て、料理を真似してくれるのは嬉しいよ」
葉賀兄妹は、何かコソコソと喋っているようですけど、あまり聞き取れませんね。
まぁ、気にせずやっていくデス。
「さて、じゃあ作っていくデス」
「ちなみに何を作ろうとしてるの?」
「ベジナイトのキャセロールと、ブラックスネークのナゲットですかね?」
「「「えっ?」」」
「……へぇ、その発想はなかったな。美味しそうだ」
後輩達はマジで? と言わんばかりの表情。
お兄さんは逆に興味深そうな表情をしている。
「ブラックスネークは……予想外」
「蛇かぁ……美味しくなさそう……」
「見た目ヤバそうだよね☆」
「失礼な後輩達デスね!?」
「そうだぞ三人とも」
お兄さんが楽しそうに腕組みをして、人差し指を立てる。
「蛇料理は意外と海外ではよく食べられているんだ。カエルと一緒で少し固い鶏肉に近い味で、アメリカだとガラガラヘビをナゲットにするらしい。今回の料理はそれのアレンジだね、実に牛山さんらしいチョイスだよ」
「流石お兄さん物知りデスね♪」
お兄さんが早口で解説してくれる。
流石料理好きですね。
結構マイナーな食材なはずデスが、知っててくれてマス。
瑠璃ちゃんがお兄さんの袖をグイグイと引っ張る。
「キャセロールは? これも蛇?」
「いや違う。キャセロールはアメリカの伝統料理で、グラタンって言えばイメージつくか?」
「あっ、そっちは美味しいそう♪」
「……というか、スライムもコボルトも食ってるのに蛇ごとき、今更だと思うんだが……」
「「「それは全然違う!!!」」」
「お、おう……何かすまん」
三人がお兄さんに詰め寄る。
相変わらず、仲がいいデスね。
ワタシは腕まくりする。
「じゃあ、早速作っていくデス! お兄さん達は見てるだけでいいデスよ!」
「……ちょっと作戦会議するから、タンマ」
「……? いいデスけど……」
そう言うと、何故か四人がコソコソ話を始める。
「二人に質問、部長は確かに料理出来るし正直お兄ちゃんくらい上手い。でも、あの部長がドジっ子発動させずに終われると思う?」
「……無理」
「不可能だね☆」
「あっ……牛山さんって瑠璃と同じタイプなのか。どうりでほっとけないと思った」
「お兄ちゃん、それはどういう意味なのかな!?」
瑠璃ちゃんがいきなり叫ぶとお兄さんに掴みかかる。
一体何の話してるんデスかね?
しばらく話し合いは続き全員がうなづく。
「危なくなったら、三人でカバーする。いいね」
「「「了解」」」
そして全員が親指をこちらに向ける。
「……? よく分かんないデスけど、オッケーでたので進めていくデスよ♪」
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