第83話 無言の嫉妬
啞然とした様子でこちらを見ていた。
俺は可笑し過ぎて、笑いをこらえるのも限外で吹き出したしてしまった。
「アハハ! 腹いてぇ! 何だよお前らのその表情マジで受けるな!」
アスモデウスは顔を引きつらせる。
「頭おかしくなったぁ? 状況分かってるのぉ? あんた目の前で仲間殺されて――」
「おいおい、随分とお優しいな? 魔王様は無機物も仲間扱いできるのか?」
俺が嘲るようにそう言うと、目を見開いて火柱を上がった方を確認する。
付近には燃え残ったであろう複数の羽根が散らばっているのが見えるだろう。
「【
「……やってくれましたねぇ? では、お仲間はどこにいるんですかぁ?」
「言うわけないだろ? 自分で考えられないのか?」
「あらあら、前より口が悪くなりましたねぇ? 大罪武器を使った代償ですかぁ?」
それは正解、傲慢使った代償は思ってもないことを口にするとか、高飛車で横柄な態度をとってしまうなどが挙げられる。
俺がそれをしてるかと思うと、さらに自己嫌悪で嫌になる――まるで、どこかのクソ兎を彷彿とさせるし。
俺は思考を切り替えて、指をクイクイと曲げて挑発する。
「さぁ、どうする? あんたの残る手駒は吉田妻一人、何ならお前も参戦するか?」
「お断りぃ~♪ アスちゃんわぁ後方で指示出すだけでいたいタイプですしぃ♪ そ・れ・にぃ~♪」
アスモデウスはパチンと指を鳴らす。
瞬間、吉田妻は姿をくらました。
「いないのが分かればぁどこ行ったかは想像つくしぃ」
「へぇ……そこに送ったと?」
「近くの簡易ダンジョン内にいるんでしょ? そしたら全員が戦闘できるからぁ~って、合ってるぅ?」
意地の悪い笑みをアスモデウスが俺に向ける。
俺は頬が引きつった。
あぁ、こいつ頭が回るな。
こっちの手は全部読まれてるってわけか。
まぁ、でもダンジョン内なら二つ名持ちの宇佐美も、ベテランの先輩もいる。
あっちの方は任せても大丈夫だろう。
それよりも今は目の前のこいつをどうにかしないとな。
こいつがあっちに行く方がまずい。
「いいのか? 最後の手駒すら捨てちゃってさ?」
俺がそう言うとアスモデウスはクスクスと笑い出す。
「何言ってるのぉ? もう一人いるでしょぉ?」
「オォォォ!!」
その言葉に呼応するように吉田夫が立ち上がり、暴食の牙を投げ捨てる。
「まだ動けるのかよ……完全に腕輪を壊さないとダメか」
「アハハ、殺した方が早いのにねぇ? 元でも人は傷つけたくないからかなぁ?」
「……否定はしない」
確かに俺は吉田夫に色々と酷いことも言われたし、会社をクビにもされた。
でも、殺したいと思う程憎むことも出来ない。
「せめて俺の目の前でだけは死んで欲しくないだけだ」
「偽善者だねぇ、その生き方はいつか足元救われ――」
「ウォォォハガトウヤァァァ!!!」
アスモデウスの言葉も聞こえない程、激高した吉田夫がこちらに向かってくる。
「よっ、と!」
俺は暴食の牙が投げ捨てられた方向に飛びのく。
暴食の牙を掴み、地面に突き立て飛び込んだ勢いを殺す。
吉田夫は木々をなぎ倒していく。
しばらくすると俺がそこにいないことを理解し、ギョロギョロと目を動かし自分を探そうとする。
「ほとんど理性ないねぇ~まるで獣だねぇ~」
「よく言う、お前があんなにしたんだろうが」
「力を望んだからあげただけだよぉ? 願われたから与えただけなのに文句言わないでよ~全くもぉ~」
心外そうに言うアスモデウス。
俺はそれを横目に槍を構えなおす。
「ハガァァァ!!」
瞬間、吉田夫は俺を見つけて突っ込んできた。
槍を握る力が強くする。
「模倣槍穿」
腕輪部分に大技を当てるがガキンと弾かれた。
吉田夫と俺は互いにノックバックし、後方に下がる。
「硬ったい! この槍じゃダメか!!」
「オマエノ……オマエサエイナケレバ……ボクワァァァ!!」
なおも我武者羅に突っ込んでくる吉田夫。
俺は拳を構える。
「全スキル発動!!」
全てのスキルを有効化すると大罪武器が腕輪に収納される。
俺はそのまま吉田夫を掴み、抑え込んだ。
黄色く輝く憎悪に満ちた瞳と視線が交差する。
「スベテガウマクイッテタハズダッタンダ!! カイシャノシャチョウニさえなれば、僕はもう福田家の落ちこぼれでも、お荷物なんかでも無くなるはずだったのに!!」
「……」
段々と暴走状態から意識をはっきりさせる吉田夫。
もしかしたら沈静化してくれることを願って、このまま俺は黙って聞く。
「周りはいつも言ってた、父さんは立派な経営者だと、兄さんは優秀な弁護士だと……なのに僕は何の才能もなくて、福田家の無能だと誰もが言ったんだ!!」
吉田夫はポツポツと己の過去を話す。
「家族だけは同情で優しく接してくれたけど、だからこそ、その優しさが何よりつらかったんだよ!! 何も期待なんてしてくれなかったら楽だったのに!! どうして僕に社長なんて肩書を押し付けた!! 兄さんがならないから仕方なく押し付けただけだろうが!!」
「……同情なんかじゃねぇよ」
俺は自分の沈黙を破る。
その言葉は否定しなければならない。
元社長が口に出さなかった思いを――否定させるわけにはいかないから。
ギロリと黄色の瞳がこちらを睨む。
「お前に何が分か――」
「何も分っかんねぇよ、俺はエスパーじゃねぇからな。だけど、昔に似たようなことをを言った奴がいたんだ。その子は自分の夢を追いたいのに両親からは否定され、何も言い返すことも話しあうこともせずに家から黙って逃げたんだ。それが悪いとは言わないさ……けど、その子にも言った言葉を俺はあんたにも言ってやる」
俺は深く……より深く呼吸する。
「自分の思いを、悩みを言葉にしないと誰にも伝わらないだよ!! 口に出さなきゃ誰も理解してくれないんだ!! 自分が苦しいなら、誰かに助けて欲しいなら、理解して欲しいのなら言葉にしろよ!!」
「……うるさい」
「そんな一言で会話を放棄するな! あんたは優しくされるのが辛かったんだろ? 家族から同情されてるんじゃないのかってビクビクしてたんだろ? それを相手に、家族に伝えていたら、何かが変わったかもしれないだろ! 口に出すことにびびるなよ!!」
「ウルセェェェ!!」
俺の腕を力一杯振り払う。
もうこれ以上俺の話を聞く気はないということだろう。
俺はファイティングポーズで構える。
「俺はあんたを殴ってでも止めるよ。その言葉をあんたの口から直接伝えさせるために、嫌いなあんたを助けるために――この拳を振るう!!」
吉田夫は腕を俺に振り降ろそうとする。
俺は腕輪目掛けて拳にオーラをまとめせて振りぬく。
「アァァァ!!!」
「【
拳が腕輪を捉え、バキッと腕輪が割れるような音が響く。
パリーン! 腕輪が跡形もなく破壊され砕け散る。
「あっあっ……」
吉田夫は異形化した姿から元の人間の姿へと戻り、そのまま地面へと倒れる。
脈はある、しっかり生きてはいるな。
俺は深いため息をついた。
「……ったく、元社長も、藍ちゃんも、こいつも、福田家の血筋は全員口下手なのかよ。元社長も元社長だ、俺なんかじゃなくて本人に直接伝えてやればよかったのに、お前を社長に選んだのは弱者の気持ちを誰よりも理解しているから、同じ立場になって考えてやれるからだってさ。そしたら俺もクビにならずに……いや、たらればの話を今しても仕方ないか」
俺は辺りを見渡す。
いつの間にかアスモデウスの姿は消えていた。
近くに魔王の気配を感じないからどこかへ逃げたのだと思うが、吉田妻の方の気配は宇佐美達の方からまだ感じるから油断はできない。
「――急ぐか」
俺は走って簡易ダンジョンへと向かった。
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