第81話 山道でのカーチェイス

 そして時は戻り、現在。

 全て話し終わった後、しばしの沈黙。

 俺はニコリと笑う。


「以上が俺とクソ兎の話だと」


「なるほど……そんなことが……その……」


 陽子さんは言いづらそうにギュッと自分の手を握る。

 まぁ、こんな話聞かされれば当然か。


「別に気にしないでくださいね。この前のレッドドラゴン討伐の日に、もう吹っ切れますから」


「わ・た・く・し・のお陰ですわね♪ 地べたに這いつくばるくらいに感謝し――」


「あぁ、あの時は感謝してるよ。止めてくれてありがとな宇佐美……本当に助かった」


「ふぇ!?」


 俺が感謝を口にすると宇佐美が変な奇声を挙げる。


「どうした?」


「な、な、なんでもないですわよ!? ……あんたが柄にもなく感謝するから調子狂いますわ」


 後半ぼそぼそと呟いて聞き取れなかったが、また俺の悪口か?


「はいはい、アオハルアオハル、お姉さんやってらんな――」


 ドガァァァン!! 後方から何かが爆発したような音が車の中にまで響く。


「爆発!?」


 宇佐美以外が後方を振り返ると、道路の中央に火柱のようなものが上がっている。

 幸い、後方には巻き込まれた車はないようだが、一体何が……。


「――鈍亀、前見なさい」


 宇佐美に言われた通り前を向くとフロントガラスから、現実では起こりえない異様な光景が目に飛び込む。


 前方の車両の脇に火の玉が浮かんでいる。

 いや、正確には車の窓から出た手の上に浮遊していると表現がいいのかもしれない。


 ダンジョン外だというのに、魔術スキルを行使している。

 それが出来るのは、魔族と……オズのメンバーだ。


「おいおい、ここまで強硬手段とるのかよ!?」


 ここ山の中だけあって道路は一本道だ。

 逃げるに逃げられない状況。

 逃げるには都市部に行くか、もっと開けた所に出るしかない!!


「ど、どうしましょう!?」


「取りあえず、宇佐美運転は頼んだ!!」


 俺は窓を開けて、車上に登る。

 強風が吹き、立ってるのもやっとだ。


「早めにけりをつけないとまずい……だけど」


 相手がもし操らている人だとしたら、傷つけるのは絶対にダメだ。

 だが、相手に気を使っていたらこちらがやられるのも時間の問題。


 俺がそんなことを考えていると火球がこちらに向かってくる。


「迎撃し……うわっ!?」


 足元が揺れ横にずれて火球を回避した。

 運転上手いのは分かるが、いつどっちに避けるのか分からないと動くのも一苦労だな。


「とりあえ、ずっ!!」


 俺は跳躍し、前方に飛び込もうとしたが前の車が速度を上げ、俺の足が空を切る。


「あっ……」


 このまま地面にぶつか――。


「――るかよっ!! 【スキル:鉄壁】疑似空歩!!」


 俺は空中を蹴り、元の車上に何とか着地する。


「あっぶねぇ……」


「だ、大丈夫ですか!」


「あぁ何とかな」


 車内にいる陽子さんにそう返す。


「車の上じゃ近接戦闘は無理ってことだけは分かった。同様にこんな距離で迎撃したら車体がもたない。遠距離攻撃で弾くなら怠惰の杖で……いや、俺の詠唱が遅すぎてダメだ。叛逆の矛も一撃だけじゃ何度も防ぐのは無理か」


 俺はブツブツと呟いていると、コンコンと先輩がボンネットを叩く。


「お姉さんの突飛なアイディアで悪いけど、車を鉄壁のオーラで覆えないかな? 昔、武器に対してコーティングしてたことあったじゃん? それの要領でどうかな?」


 そういえば、昔そんなことやった気がするけど、よく覚えてるなこの人? まぁ、その作戦を考えなかったわけではないが……。


「受けたら受けたで衝撃が凄いですよ? その衝撃で車がもつかどうか……そもそも、鉄壁のオーラ量が人を覆うくらいしかないんですよ」 


「君の叛逆者スキルでDEF一点特化にしたらどうかな? 確か鉄壁の強度はDEF基準だし、しかも叛逆者の矛だっけ? あれ使う時は鉄壁のオーラ量が増えるようだから、それを攻撃じゃなく防御に転じられれば、車くらい覆えるんじゃないかな? 試すだけ試して見てよ」


 叛逆のスキルは一回当たっただけでも解けるし、成功率がかなり低い。

 荒唐無稽な作戦、だが何もしないよりかはましだ。

 俺は車内に戻り、そんな無理な注文を実行する。


 DEF特化のステータスに変更し、叛逆者の矛のようにオーラを車全体に渦巻かせた。

 大きな物体だけに、制御が難しい。

 しかも少しでも失敗すれば、車自体がねじれてしまう。


 慎重に、だが素早く展開させる。


 そして、体に覆えた時の手応えを確かに感じとった。

 ――成功だ。


「よし、出来た! 流石最年長のアイディア、伊達に歳だけ食ってない!!」


「そうでしょそうでしょ、お姉さん頭いいいで――今、ナチュラルに毒吐かなかった!?」


「キノセイデスヨ。オレセンパイソンケイシテルヨ?」


「こっちの目を見て言いなさい!?」


 そんなやり取りをしている間に火球が迫る。

 バチンと火球がオーラに触れると壁にぶつかったように

 弾ける。

 だが、中にいる俺たちに全くと言っていいほど衝撃はない。

 しかも、叛逆者のスキルが未だに切れていないのだ。


「被弾しても切れてない……まさか、叛逆者のスキルの被弾は肉体に接触しない限り切れない、のか? だとするなら、これ色々と応用が――」


「今は考えてる余裕はなくてよ!! 飛ばしますから、しっかりと捕まってくださいまし!!」


 宇佐美がアクセルペダルを思い切り踏み込むと、体が張り付くようなスピードで車が急加速する。


 車が右に左に曲がり、車の間を縫うように通り抜ける。

 そして目の前にヘアピンカーブが見えているのにも、関わらずスピードを落とさない。


「おいおいおい!? スピードスピード!!?」


「オーバースピードだ♪ ブレーキいかれたか♪」


「何で先輩は楽しそうなの!?」


「今の子にそのネタは通じませんわ、よッ!」


 宇佐美は見事なハンドル捌きもあり、車体がガードレールすれすれでカーブして、車体を擦ることもなく曲がり切る。


「上手いな……流石に俺もこれには素直に褒められる」


「すごい……」


「立ち上がりも上手い♪」


「いつまでそのネタやってるつもりですの!? それより急いで今日泊まるコテージに向かいますわ。あそこには簡易ダンジョンがありますからそこで迎え撃ちますわ!!」


 なるほど、そしたら全員で戦えるってわけか。


「よし、急ごう!!」


 俺達は目的地まで火球を飛ばす車とカーチェイスをしながら、向かった。

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