第74話 オークバーガー

 パチンと指を鳴らす音が響くと画面が切り替わる。

 映像には腕組みをして立っているタヌポンの姿。


「よくも散々いじってくれたな~? バッチリ聞こえてるぞ」


:あっ……

:存在忘れてた

:ここはウサミンチャンネルでは?

:タヌポンがチャンネル始めなかった世界線の方です?

:狸何ていなかった、いいね?


「いや、バッチリいるけど!? 何で同じ言葉言った宇佐美は恐怖されてるのに、逆に俺は煽られてんの!?」


:そりゃあ、年季の……おや、誰か来たようだ?

:コメ主逃げて! 超逃げて!!

:さっきの宇佐美さんいじりで飽き足らないのかこの人

:死んだな(確信)


「このままじゃ全部、宇佐美に持ってかれる……と、とにかく!! 今度は俺のターンだ!!」


:俺のターン!

:ドロー!!!

:引くな引くなwww

:決闘開始の宣言をしろ〇野

:デュエル開始!!!(声高らかに)

:みんな遊〇王好きね?


 タヌポンはドカッっとオークの塊肉をカメラ前へと出す。

 見た限りは、もう味付けの類は済ませているようだ。


「今日は、ポークバーガーならぬ、オークバーガーを作っていく」


:やばっwww

:本格的に勝ちにいってる。

:目がマジだ

:タヌポンの目どこ? ここ?

:カラダ探し始まってない?

:飯テロでホラーはNG

:ハハッ♪ やぁ、こんにちは♪

:そっちは別の意味で怖いから出すな

:でも、今は怖くない(昔のトラウマあり)

:ハンバーガー四個分くらいかな?

:ピエロの方だったのか……


「今日はカロリーとか知ったことか! カロリーの暴力って奴を見せてやるよ!」


「ちょっ!? わたくし達も食べるのですのよ!? 何考えて――」


 タヌポンは宇佐美の言葉を無視し、塊肉を分厚くステーキ肉ぐらいにカットし、それを何のためらいもなく火で熱されたフライパンに丸ごと頬りこむ。


ジュワァァァ!


 肉の焼ける音が響き、じわじわと焼き目が付いていく。


:おぉぉぉ!!!

:いつ見ても肉焼く光景は心が躍るな♪

:でも、これ挟んで終わりでしょ?

:じゃあ、特にさっきのと変わらなくない?

:大丈夫? タヌポン具合悪い?


「煽る時の一体感がすごいな!? でも、まだまだ!」


:俺のバトルフェイズは終了してないぜ

:な、何だと!?

:バーサー〇ーソウル(タヌポン自身が)

:それは、そう

:否定されなくて草


 タヌポンは、肉を焼き終わった後にアルミホイルで包んだ後、タマネギを薄切りにし、バターをしいたフライパンに投入、軽く炒める。


「タマネギがいい色に火が通ったら、一度別皿に移しておく。そして、今度は薄切りにしたオーク肉も炒める」


 タヌポンは、サッサッとフライパンを振りながら、肉とタマネギを炒めていく。


「火が通ったら、さっき別皿に置いたタマネギ、ケチャップ、オイスターソース、水で溶かしたコンソメを入れて、弱火で五分程混ぜてから火を止めたら、ポークチョップならぬ、オークチョップの完成」


 タヌポンは皿の上にクーラーボックスから取り出した、バンズと脇にスライスチーズを置く。


「バンズには、マスタードとケチャップを塗っておき、下から、バンズ、チーズ、オークのステーキ、チーズ、オークチョップ、チーズ、バンズの順に挟み、上から竹串をさして固定させれば……」


 タヌポンが皿の上には分厚いオークバーガーを乗せて、カメラの前に出す。


「オーク肉をふんだんに使った、オークバーガーの完成だ!」


:おぉぉぉ!?

:見た目のインパクトすごっ!?

:肉汁が滴るぅぅぅ!!!

:犯罪的だぁぁぁ!!!

:脳が震えるぅぅぅ!!?

:司教はお帰り願います


「美味しそう……」


「お姉さんにはちょっとキツイかも?」


「……はぁ」


三人ともそれぞれ色とりどりの反応を示し、料理を評価する。


「さっさと戻ってきて貰えるかしら? 時間がもったいないですわ」


「言われなくても」


 タヌポンはオークバーガーを人数分作り、歩き出す。

 カメラが切り替わると、宇佐美達の映像が映し出される。


 切り替わって時間も立っていないのに、宇佐美達の後ろからタヌポンが現れる。


「ずっと傍で料理をしたの!?」


「えぇ!?」


「ドッキリのつもりはなかったんですが、そうなりましたわね」


「意外と死角でやってるとバレないもんだな」


:忍者かな?

:隠れて料理する忍者がいるかwww

:クッキングニンジャ……何か普通にありそう

:忍者は何でもありだからな

:忍者世界ではルール無用ってそれ一番言われてるから

:どこのニン〇レ?

:あいぇ~♪


 二人が驚く中、タヌポンは簡易机の上に料理を並べていく。

 見渡す限り、肉、肉、肉で机が埋まる。


:光景すっごいなぁ……

:肉のオンパレードやぁぁぁ!!!

:コンビニ行ってくる♪

:じゃあ俺はスーパーで♪

:最初から買っておけとあれほど……

:初見か?


「それじゃあお姉さんは……」


 ゴソゴソとクーラーボックスの中から、虎のお姉さんは大量の缶を取り出す。


:今まで出てこなかった酒類がwww

:そう言えば初だな

:あれ一人で飲むの?

:やっばwww

:いや、でも、一応宇佐美さんも成人してますし

:絵面は小学生に酒飲ましてるみたいだけどなwww

:この人、墓穴しか掘らないな

:死にたがりか?


「あっ、わたくしは今日は飲みませんのでお一人でお飲みになってくださいまし」


「はいは~い、一人でチビチビ飲みますよ~っと」


ブ~と口を頬を膨らませ一人でカシュッとビール缶を開ける虎のお姉さん。


 全員がカメラ前に移動したら、手を合わせる。


「じゃあ、せ~の♪」


「「「「いただきます!」」」」


 ハンバーガーに全員がかぶりつく。

 宇佐美以外は口元が笑顔になる。


「美味しいです♪」


「あぁ~肉のこってりした油を、シュワシュワのビールで流し込むの最高~♪」


「脂もしっかりのってるし、食べ応えは抜群! 硬いかと思ったけど、弾力がしっかりとある! オークチョップを中に入れたことでソース代わりに、それでいて肉の油もしっかり追加され、チーズの濃厚さも相まってエクセレント! これこそカロリーの暴力だ~!」


「……大量の油で味を誤魔化し過ぎではなくて? 食が細いわたくしには、一口でギブアップしたい味ですわ」


:相変わらず美味しそうに食いますねぇ?

:ビールでギトギトの脂流し込むの最高だよね!

:そして、いつものクソ長食レポ

:い つ も の

:そして、宇佐美さんの初の食レポは辛辣www

:一口食べてくれるだけ優しい

:世の中には食わずに評価する奴もいるくらいだしな

:それでも、相変わらずタヌポンに厳しい

:だが、それでいい!


「じゃあ、口直しにわたくしのブレゼでも食べましょう」


「口直しって……」


 タヌポンが何か言いたそうにしていたが無視して、全員がフォークとナイフでブレゼを切り分け、口に運ぶ。

 タヌポン以外の口元が緩む。


「肉がトロトロになってます♪」


「ワイン缶が進むぅぅ♪」


「うん、いつも通りの味ですわね」


「……」


:フォーク入れた瞬間スッと溶けましたわ!?

:煮込みとはいえ、柔らかくなりすぎwww

:全員が大満足♪

:あれ? 何かタヌポンが食レポせず無言なんだけど?

:やけに静かだと思ったら違和感それだ

:食べ物食べて無言は珍しい


 宇佐美が口元に手を当てて、タヌポンを嘲笑う。


「あらあら? タヌキさんからの感想がまだですわね? わたくし気になりますわ♪」


「……あぁ、もう!! ローズマリーやローリエの香草系の風味がアクセントになって爽やかだ!! 肉も程よくホロホロと解けて美味いよ!! 俺のよりも肉の旨味を引き出せてるって!!」


「はい♪ わたくしの方が美味いを引き出しましたわ♪」


「はぁ……負けた、ガチで挑んで負けた……」


 宇佐美は上機嫌に笑い、タヌポンは不貞腐れたようにそっぽを向く。


:メスガキに負ける構図

:タヌポン完全敗北

:お兄様の初敗北

:今、負け狸がトレンド入りしてるwww

:ホンマで草

:おいたわしや兄上(爆笑)

:料理~しか~取り柄のない♪

:可哀想な~ひ・と♪

:全員ここぞとばかりに煽り寄る

:笑ってやるなってwww


「今日の配信はいかかでしたか? ゲストはわたくし、タヌキさんに勝った宇佐美とスタッフでお送りしましたわ♪」


「……それじゃあ、また次の配信で」


:おつぽんでした

:おつおつ~

:もう、お兄様手を振る元気もなくなってる


 全員が手を振って、映像が配信は終了しましたという画面に切り替わる。

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