第73話 オークのブレゼ(4)

 ビーストダンジョン90層セーフゾーン。

 90層は人通りが少ないためあまり手入れが行き届いていない印象を受ける。

 だが、最低限の水場はあるので、いつもの料理セットを準備すれば問題はないようだ。


 カメラの前で宇佐美は嬉しそうに両手を合わせる。


「それでは、オークのブレゼを作っていきますわよ♪」


「あの、途中でタヌポンさんがどこかに消えたのですが、それはいいんですか?」


:あっ、本当だ

:タヌポンがいない

:コラボなのにどこ行った?

:察してやれ……

:トイレ?

:お花摘みですわ~♪

:やめなってwww


「わたくしの料理では、タヌキさんの出番はないですし、放って置いても問題ないですわ。どうせ、お腹空かせたら勝手に戻ってきますわよ」


:タヌポンは野生動物か何かか?

:扱いが雑www

:お腹空かせたらは普通にありえそう

:むしろ、料理につられて現れたら笑うわ

:タヌポン(チラッ)

:タヌポンがお腹を空かせて物陰から見ている

:仲間にしますか?

:完全にそれだわwww


「そんなことよりも、さっそく始めていきますわよ」


カメラが下を向き、机の上の物を映す。

オークのブロック肉、玉葱、ジャガイモ等々が綺麗に並べられている。


「一晩漬け込む必要もないので、比較的今回は簡単にで出来ますわね」


:簡……単?

:本当にシンプルか?

:前回のが手間暇かかり過ぎ!

:怪しい……


「心配なさらなくても大丈夫ですよ。今回はこの配信の趣旨に沿って、家庭で真似が出来るようにフライパンでも作れるようなブレゼにしましたわ」


:モンスター料理の時点で真似がむずくない?

:それは言わないお約束

:まぁ、オークならワンチャン豚ブロックでも……

:今まで現実にありそうなのなかったしな

:ベジソルジャーがいるじゃろうがい!

:存在忘れてたwww

:耐久配信での記憶が曖昧になってる

:あの配信は切り抜き見ないと長すぎるんだよ


「では、さっそくやっていきますわ」


 宇佐美は流石料理人なだけあって洗練された動きで、タンタンと食材を刻んでいく。


「玉葱は薄切りに、じゃがいもはよく洗い芽などを取り除いてから半分に切りますわ。そして切ったジャガイモは水にさらして5分程水にさらしますわ」


:動きに一切無駄なくてすごっ!

:流石にこれは料理人だわ

:ちっちゃいおててがぶれて見える。

:おてて……

:ふふふ、下品何ですがね?

:もしもし、ポリスメン?

:まだ何も言ってないんだけど!?

:野生の吉○吉影かと思ったわ

:ひどい! ただ俺はロリコンなだけだ!!

:普通に変態ですね

:あなた、変態さんですね!


「まぁ、そう言う子供扱いは慣れてますから別に気にしませんわよ。ただ、誰が言ったかは覚えましたからね?」


:わぁ~お

:あれ、コメント主終わったのでは?

:やめろ~死にたくない!

:土下座案件キタコレ


 フフフと宇佐美は暗黒微笑(浮かべているように見える)声音で言ったことにコメント欄も大盛り上がりだ。


「それより、料理の続きですわね」


宇佐美が、ようやくオーク肉に手を付ける。


「バットにオーク肉を入れて上から、塩コショウ、ローズマリー、オリーブオイル、そして柔らかくするための黒スパイスをかけ、よく揉みこんでから、三十分程置きますわ」


:三十分!?

:長いですわ!

:いや、普通に短い方では?

:初期の頃のコボルトもそうだったくね?

:でも、これから三十分か……


「……と、コメントから文句が出てくると思ってましたので、三十分既に漬け込んだ物がこちらになりますわ」


 宇佐美は今のバットを下げて、後方から別のバットを取り出す。

 肉に調味料達がよく染み込んでるのが、映像からでも分かる。


:準備いいですわね!?

:流石、宇佐美様

:どこぞのタヌキと違いますわね

:ドンドンタヌポン派が寝返ってく……

:いつものことでは?

:普段から寝返られる配信とは?


「どこぞのタヌキさんと違って先を考えてますから、当然ですわ♪」


「煽られるタヌポンちゃんに黙とう」


「あはは……本人がいないから言いたい放題ですね」


「さて、お待ちかねの時間ですわ♪」


 事前に熱していたフライパンに漬け込んだいた肉を漬け込んだ液体ごとダイブさせる。


 ジュゥゥ~と肉の焼ける音が画面から響く。


:おぉぉぉ!!!

:腹がへるぅぅ!

:あぁ、いけませんわ! これはいけませんわ!!

:お腹が空いてしまいますわ!!!

:何か野生の令嬢達湧きすぎでは?

:ネットではいつものことよ

:あってたまるか!

:無限ループって怖くね?


「ローズマリーは焦げやすいので途中で回収して、肉の両面には焼き目が付くように、ジャガイモも一緒に焼いていきますわ」


いい具合に焼き上がった肉とジャガイモを取り出し、油をふき取る。


「次に玉葱も同様に焼いていき、茶色くらいになったら、肉とジャガイモを戻しますわ。そこに白ワインを加えて、数十秒程煮込んでから、ローリエ、ニンニク、水を入れて、三十分煮込んだら完成ですわ♪」


:また三十分かよ~

:シンプルとは?

:普段手がかかってる料理ばかりだからじゃね?

:でもでも~♪

:時間がかかるってことは~♪

:もしかして~♪


「そして、煮込んだ物とマスタードを皿に盛り付けたのがこちらになりますわ♪」


 画面外から、蓋がされた皿が取り出される。


:展開がスピーディー

:さぁ、サクサクいきますわよ

:RTA走者か何かですか?

:TASさんかもしれないだろぉ!

:どっちでも同じでは?

:かぁ~これだから素人はダメだ


「さてさて、いきますわよ♪」


 蓋を開けた瞬間、中から湯気が立ち昇る。

 綺麗に盛り付けられたブレゼは油が黄金のように輝き、いい色になった野菜たちや黄色いソースが、一種の芸術作品のような皿に仕上がっていた。


:綺麗……

:盛り付け方がだんちwww

:流石料理人だけあって、俺達のぐちゃ盛りとは違うわ

:うん、知ってた

:写真映えしそう


「改めて見ても、菜月ちゃんの料理はすごいねぇ」


「綺麗ですね……」


「当・然、ですわ♪ あんなタヌキさんのお粗末な即興料理と一緒に――」


「じゃあ、そのお粗末な即興料理で相手してやるよ」


 突如として、今まで画面にも声も聞こえなかったタヌポンの声が響く。

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