第62話 ダンジョン脱出ゲーム

 ――最悪な状況だ。

 会った時点オズと連絡とって、来てもらえばよかった。

 そしたら、こんな状況には……


 いや、今はそんなこと言ってる場合じゃないな。

 俺は拳を構える。


「来るなら来い、俺が相手になってやる!」


「……? 何か勘違いしてるようだけど、僕は君に手は出さないよ?」


「……は?」


 サタンが不思議そうに首を傾げる。

 戦わない?


「だって、俺を仲間と分断して倒すって作戦じゃ?」


「だから、眷属には手出さないって言ったじゃん? ほんと面倒……」


 そう言えばさっきそんなこと言ってたな。

 話した内容すべて嘘だと思っていたが……


「一応言っとくと、さっきの情報は全て本当だよ。その中にあったでしょ? 僕の目的」


「人類を魔物の餌に……だが、俺をここに移動させる意味なんて――」


「あるよ♪ だって地上から君を離すことが目的だからさ、これで問題なく全員を魔物の餌に出来る」


「何を――いや、待て転移の直前地震があったな。その時に何かしたのか!」


 サタンが拍手する。


「正解! さて、その目的は何でしょう? ヒントはこの都市で行われてるビックイベント全部使いました」


 ここでやってることと言えば。


「ダンジョンウォーリアーと俺のファンイベント」


 ダンジョンウォーリアーは、ダンジョン協会からの指示で作られてる。

 なら、何かしら意味があるはずだ。

 魔物はダンジョン内でしか生息できない……なら、もし疑似的なダンジョンが作ることが出来たら?

 そして、転移が出来るこいつなら……


「モンスターを地上に送り込んで、一番人が多く集まってるイベントを襲わせる。それがお前の作戦か」


「ピンポン♪ 正解したから、答えてあげるけど地上に出せたのはモンスター一体だけなんよね」


 一体だけなら……そう思ったが次の言葉で凍りつく。


「91層のモンスターくらいしか転送できなかったよ」


「……は」


「だって、90層以下のモンスターは全部データ取られてるみたいだし、対処できないかつ仮想ダンジョンが耐えられそうなのは――」


 サタンが何か言ってるが話が全く入ってこない。

 91層……それは俺達、疾風迅雷がかつて挑み。


 逃げ帰ることしか出来なかった層だ。


 いや、俺達だけじゃない。

 その層は世界中の探索者が挑み、全てが敗北へと終わった人類未踏破の魔窟。

 そこのモンスターが地上に出てるって。


「くそが!!」


 俺はポータルへと手を伸ばして起動させようとするが反応がない。


「何で!」


「僕がここの管理人なの忘れてない? そんなショートカットさせるわけないじゃん?」


「――だったら、お前をぶっ飛ばす!」


 俺は拳を握って殴りかかろうとするが、拳が動かない。


「一つ言ってなかったね? 僕も君に手が出せないけど、君も僕には手が出せないんだよ」


 じゃあ、この行動自体無意味ってことかよ。

 なら、走って地上に出るしか……


「まぁ、流石に可哀想だから、一つゲームでもしようか?」


「……ゲーム?」


 サタンはニヤリと笑う。


「君が無事地上に出れたなら君の勝ち、力を貸してあげる。でも、モンスターが地上を破壊しここの入口を塞いで出れなくなったら、僕の勝ち。君が僕の眷族になる、もちろん命令は絶対ってことで」


「――俺にメリットが少なくないか?」


「だって僕、傲慢の魔王だよ? 理不尽、傍若無人、それが僕の生き方さ」


「……いいよ。どうせ、拒否権ないんだろ?」


 サタンは三日月のように口を開いて笑う。


「じゃあ、ゲーム開始だ!」


「俺が行くまで、何とか耐えてくれよ!」


 無我夢中で俺は地上を目指す。



 □□□



 時間は少し巻き戻ったイベント会場。

 そこで、ダンジョン探索部と牛山祖父が会場にいた。


「車で送ってもらってありがとうございます♪」


「気にする出ない。好きでやっとることじゃ。それにしても盛況じゃな? 何かやっとるんか?」


「そりゃあ、おに――」


「鬼?」


 私は首をぶんぶんと横に振る。


「鬼盛り上がってるなって!」


「今時の若者言葉か? よう分からんのう」


「それよりも、タヌポン生で見に行きたいデス! ワタシ大ファンなんデスよ!」


 部長は目をキラキラと輝かせているが、もう既に中の人とは会ってるんだよなぁ……。

 部長、タヌポンの中身がお兄ちゃんだって知らないし、教えてないから仕方ないけど。


「うん、そう……だね」


「藍ぽん、笑っちゃ、可哀そ、だし☆」


 二人は必死に笑いをこらえながら、部長に同意する。

 部長は不思議そうに小首を傾げていた。


 私はその様子に苦笑いしか出てこない。


「あはは……会えるといいね?」


「何故に苦笑い気味なんデス!?」


 部長が私の肩を揺らして問い詰める。

 そんな他愛ない会話をしていた――その時だった。

 地面がグラグラと揺れ始め、立っていられない程震える。

 しばらくして、揺れは止まった。

 だが……


「おい! あれ、見てみろよ!」


 会場に来ていた一人が叫ぶ。

 私達は声のする方へ視線を向けた。


 そこにいたのは、山と相違ないほどの巨大な亀だ。

 甲羅にある大きな木を揺らし、亀の一歩が町の建物を破壊していく、さながら怪獣映画のようだった。


「映画の、撮影?」


「そんなイベントありましたデス?」


 まだ、この時は危機感が足りなかった。

 ――足りなさ過ぎたんだ。


 部長のおじいさんが、あの亀を見て血相を変える。


「早くこの場から離れるんじゃ! 急げ!!」


「えっ?」


「グランパ? どうしたんデ――」


 刹那、亀から目を離した直後に耳をつんざくような轟音が響く。

 目線を戻すと、会場の一部で爆発が起き、火の手が上がっていた。

 爆発に巻き込まれ、瓦礫の下敷きになった人、血まみれの状態の人をまじかで目にして、ようやく私達はこれが

 現実での出来事だと理解する。


「う、うわぁぁぁ!!!」


 そこから、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 我先にと会場から離れる人で溢れ、そこら中から悲鳴や怒号が飛び交う。


「私達、も……逃げない、と!」


「そ、そうデスね!」


「――りょぴ」


 三人が走って行こうとしたので、私もそれに続こうと思った時に、ある声が耳に聞こえてくる。


『鈍――! ――亀!! ねぇ、橙矢ってば!!!』


 兄の声を呼ぶ、女性の声だった。

 私は足を止めてしまう。


 そうだ……この会場には、お兄ちゃんがいるんだ。

 まさか……今の声って――お兄ちゃんに何かあったの!


「ごめんみんな……私、行かなきゃ!」


「瑠璃っち!!」


「お兄ちゃん!」


 かけられた声を振り払い、私は声のした方へと走る。


 お兄ちゃん、無事でいて!

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