第49話 内通者
橙矢と瑠璃が去った四十層ボスフロア。
残ったのは、試験官と大怪我した男の二人。
だが、本当は二人ではない。
「【スキル:
すると壁からカカシが姿を現す。
先程まで感情豊かに笑っていた試験官が無表情になり。
カカシの前でかしづいて、迎え入れる。
そう、試験官もカカシの人形だ。
ずっと側で隠れて操っていたのである。
「あぁ……あの純粋無垢な女の子を、恐怖に、苦痛に歪ませるの、最・高♪ 狸のお兄ちゃんも、あそこまで感情を露わにした、怒りの表情堪らないよ♪ 僕興奮しちゃった♪」
カカシが恍惚とした表情を浮かべたのもつかの間。
ガッカリとした表情を浮かべる。
「はぁ……でも狸の兄ちゃん、結局【罪なる者】のスキルに飲まれてくれなかったなぁ。絶対、トリガーは憤怒だと思ったのに!」
地団駄を踏んで悔しがるカカシ。
そして自分の爪を嚙む。
「性格からして、強欲と傲慢、色欲と暴食は、ないだろうし。それだったら与えてやれば、簡単に墜ちるのに! 残りは怠惰? めっちゃ出しにくいやつじゃん! 萎えるなぁ」
「あ……あ……」
カカシが口に手を当てて驚く。
「あっ……忘れてた♪ お兄ちゃんとの約束だし、君も一応直さないとね♪ 【スキル:
カカシが男に触れるとダメージを受けた手足が溶け、液体が正常な手足を形成する。
「あぁ……あぁ……」
「恐怖でおかしくなっちゃったか~流石に喋れないのは面倒だし、もう人形にしちゃおう♪」
カカシは懐から釘を取り出して、男の手に刺す。
「【スキル:
そう言うと、男は無機質な瞳になりカカシの側に控える。
嬉しそうにカカシは喜ぶ。
「やっぱり、人形はいいね♪ お兄ちゃんが仲間になったら、ボクのコレクションに加え――」
刹那、超高速の陰が近づき、カカシの首を切り裂く。
「ぐぽぉッ!?」
カカシは首を抑えて、出血を防ぐ。
二撃目の斬撃が来るが、体を捻って回避する。
「――殺す!」
瞬間、炎と水のナイフがカカシを襲う。
カカシは首を改悪者で回復させ、叫ぶ。
「ざっけんなっ!! 【スキル:
スキルを発動させた瞬間、一部の空間が折り曲がり。
炎と水のナイフごと曲がる。
「何すんの! ボクを攻撃する理由ないじゃんか!」
「しらばっくれるなし! 瑠璃っちが男に襲われたってお兄さんからメッセージきたし! そんな現場にあんたがいるなんて、関わってるのは明白じゃん!!」
ナイフを両手に構え、血走った目でカカシを睨む少女。
――猫宮桃の姿がそこにはあった。
カカシは半眼で猫宮を見る。
「本当めんどくさい……ライオンちゃんって暇人なの?」
「うちは命令違反した奴をしばきに来ただけだし。うちらの目的は監視と、可能ならお兄さんをこちら側に引き込むこと。なのに、魔人化させようするなんて、何考えてるんだし!」
怒りを露わにする猫宮、だがカカシはそれを意に返さない。
「えぇ~面倒だよ。魔人にしちゃって殺した方が早くない?」
「魔人化を増進させるなんて、ダンジョン協会とやってること一緒だし! オズの目的忘れた!」
「魔族と魔人の殲滅及び、それに関わるダンジョン協会の解体。だから可能性のある奴処分しようとするの何が悪いの?」
悪びれもせずヘラヘラとカカシは嘲笑う。
猫宮を指差す。
「――っていうか? ボクより君の方が仕事してないじゃん♪ 妹ちゃんと仲良しこよしで、お兄さんを全然攻略してないよね? 全く仕事してない君の方が命令違反でしょ♪ お兄さんに近づくために妹ちゃんに近づいて癖に、何? 本当にあの子とお友達になれるとでも、思っちゃったの♪」
ケラケラとカカシは笑う。
だが、一気に無表情になる。
「甘いんだよ。今更君が普通の生活を送れるとでも思ってんのか? オズに入ると決めた時点で覚悟しただろうが。家族を奪った魔族と魔人の殲滅が出来れば、後は何もいらない。そう言ったのは君だろうが」
「それっ!! は……」
カカシは指をくるくると回す。
「猫を被ってるうちはいいよ? だけど、本気になっちゃダメ。あくまで任務。友情を、心情を、信念を、全てを捨て。同情を、憐憫を、愛情を、気持ちを利用して任務をこなす。全ては魔族達のいない世界――世界平和のためだよ」
「…………」
無表情から人をあざける表情のカカシに戻る。
「ブリキが言ってたこと丸パクリしただけだけどね♪ まぁボクは魔族達をぶっ殺せればそれでいいし♪ 小難しく考える頭は持ち合わせちゃいないしね♪」
笑いながら、カカシはスキップする。
「じゃあボクは後始末しとくから、君もさっさと監視任務に戻りなよ♪ ここにいたら怪しまれるでしょ♪」
しっしとカカシは手で追い払う仕草をとった。
猫宮は悔しそうに去ろうとする。
「あっ、そうだ。さっきの言葉はブリキだったから、ボクからも言ってあげるよ♪」
カカシはケラケラと笑って、猫宮の背中に話しかける。
「臆病者のライオンちゃん♪ 打ち明ける勇気がない君には失うしか道がないよ♪ でもボクはそういうの好きだよ? とっても惨めで可愛いから♪ だから、その時はお顔見せてね♪ 全てを失ったような表情を見るのが僕の一番好きな事だからさ♪」
猫宮を嘲笑うカカシの声を聞き流し、ボスフロアの扉から出る。
扉に背中を押しあて、ズルズルと体を沈ませた。
「ごめん……瑠璃っち……うちには、もう……」
言葉がそれ以上続かず、猫宮の目からはツゥと涙が流れる。
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