第47話 S級試験、キングトレント
フォレストダンジョン六十層ボスフロア前。
俺は今、ダンジョン協会の試験官と共に来ている。
言わずもがな、S級試験に合格するためだ。
八十層踏破は前にしたし、今回は六十層ボス討伐だけ。
サクッとクリアして、終わらそう。
試験官の男性が俺に一礼する。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
挨拶を交わして、それ以降試験官の人は喋らなくなる。
口下手な人なのかな?
前の試験官の人がお喋りだっただけかもしれないけど。
違和感すごいなぁ……
ちなみにドラゴンダンジョンのS級試験は既にクリアしてる。
前の試験官の人と同じ、翔太郎さん、だったかな?
その人に見てもらった。
まさか、陽子さんのお兄さんだったとは思わなかったけどね。
言われてみれば、翔太郎さんはドラプロの社長に面影がある。
陽子さんは母親似なのかな?
俺がそんな事を考えていると試験官の人に話しかけられる。
「準備はよろしいですか?」
「はい、いつでもどうぞ」
「では、試験を開始します」
ボスフロアの扉を開けて、中に入る。
中は先程までいた所とは違い。
より一層木々や草花が多くなる。
その中央に大きな樹木が鎮座していた。
いや、正確には、樹木ではない。
木にはギラギラとした目、ギザギザとした口などがあり。
枝先には毒々しい木のみが垂れ下がる。
木々達の王、キングトレントだ。
こちらにはまだ気づいてない。
なら先手必勝だ。
「【スキル:弱点看破、叛逆者】発動」
キングトレントの弱点が視認できるようになり。
腕には螺旋のオーラが渦巻く。
代わりに体から己の守りとスピードが失われたような感覚がする。
あれからこのスキルを色々と検証し分かったことがあるのだが、どうやら【叛逆者】は、いずれかのスタータス値を代償に、その代償にした値分、他のステータス値を上げるスキルらしい。
ただし一回攻撃、または被弾したら上がったステータス値が戻る。
しかも、下がったステータス値は、しばらくの間下がったままになる。
かなりリスキーなスキルだが、攻撃スキルがない俺にはとてもありがたい代物だ。
ただ、このスキルにはまだまだ分からない事も多い。
レッドドラゴン戦での痛覚が一時的に無くなったのも、このスキルのおかげだと思う。
でも、流石にもう一回瀕死状態になって、検証するわけにもいかないしな。
このスキルの検証はこれからも続けていこう。
それよりも……
「今は目の前の事に集中!」
キングトレントは流石に俺の存在に気づき、襲い掛かってくる。
長い根を地面から伸ばし、俺を貫かんと迫った。
一応試験官の人も見たが、当たらないようにかなり離れた位置に移動したようだ。
なら、試験官を今回は気にしなくてもよさそうだ。
俺は伸ばされた根をジャンプして交わす。
動きはそこまで速くない、だが……
キングトレントが、さらに複数のツルを俺に伸ばす。
「攻撃すれば一発で吹っ飛ぶだろうが、せっかくだ。俺の苦手な避けの練習に付き合ってもらうぜ!」
俺は空中を蹴り、ツルを回避する。
本当に便利だな、疑似空歩。
どっかのクソ兎と被るから使いたくなかったが、中々使い勝手がいいじゃないか。
そのまま俺はツルの上に乗って、走り寄る。
足蹴にされてキレたのか、さらに増量したツルが俺に迫った。
「大盤振る舞い大変結構だ! そうじゃないと面白くない!」
ひらりひらりとツルを躱し、少しずつ近づく。
流石にDEF値とDEX値をBにまで下げるのはやりすぎた感じがする。
だが、動きが単調な分避けやすい。
これなら避けられないこともないな。
正面から来たツタをスライディングで避け、さらに近づく。
キングトレントはツタ攻撃が無駄だと悟ったのか。
自分の木の実を手でもぎ取り、こちらに投げつけてくる。
あの実、確か当たると状態異常起こすんだよな。
しかも何かに当たった瞬間、弾けるから、なおやっかいだ。
「目測を見誤らないようにしなきゃな」
俺が果実を避けるとツルに当たり爆散する。
大きな果実だけにその破片も大きい。
だから、見てから避けても余裕だ。
体を捻ったり、サイドステップなどを交えて、破片を回避する。
そして何事もなかったかのようにキングトレントに近づいていく。
キングトレントの攻撃もツタ攻撃と木の実爆弾くらいで、他は目立った攻撃はない。
そう思ったのも束の間。
キングトレントの口から、禍々しい色の煙が吐き出される。
「ほんと、初見殺しなんだよ、な!」
疑似空歩も交えて、後ろにバックステップする。
煙が俺が元居た場所に滞留し続け、ツタの上をこれ以上進めない。
「だったら空中だろ!」
俺がツタの脇からジャンプし、疑似空歩で前に進む。
二撃目の毒霧を吐こうとするが……
「残念だけど、もう時間切れかな」
俺はもうキングトレントの目の前に来ており。
避ける理由が全くない。
拳を強く握り、振りかぶる。
螺旋のオーラが拳の先に収束していく。
「【叛逆者の矛】!」
オーラが放出され、キングトレントを貫く。
まるでドリルで削ったようにぽっかりと穴が開いた。
ドガァァァン! という大きな音を立て、キングトレントは地に伏す。
俺は倒れたキングトレントの上に立つ。
「いっちょ上がり」
俺がパンパンと手を払うと、試験官が草葉の陰から出てくる。
撮った映像を確認し、うなづく。
「しっかりと撮れています。お疲れ様でした。この後はどうされますか?」
「まだダンジョンに残ります。ちょっと下の階層に用がありまして」
「……そうですか。自分も別の試験の手伝いに行きますので、ご一緒しますか?」
「もしかして、B級試験受けている女の子達ですか?」
俺がそう言うと、試験官が怪しい者を見る目をする。
「あなたまさか、ストーカ――」
「違います!? 妹とその友人が受けてるから知ってるだけですよ!」
俺は慌てて弁明するが、半信半疑そうな顔だ。
試験官の人がタブレットをいじりながら、何かを見ている。
もしかして、名簿でも見ているろだろうか。
「……確かに、苗字が同じ探索者さんが受けていますね。疑ってすいませんでした」
「いえ、大丈夫ですよ」
俺がそう言うとスタスタと前を歩く。
「では、一緒に行きましょうか。言っておきますが、試験に手を出したら、妹さんは即失格ですからね?」
「手何て出しませんよ」
笑って俺は受け答えするが、試験官はクールな対応で、そのまま気にせず前を歩く。
何か読めない人だなぁ……
仕事以外はどうでもいいって感じなのだろうか?
でも、佐藤さんとはまだ違った感じなんだよな。
まるで、決められたことのみをこなす。
そう、人形でも相手にしてるようなそんな感覚。
相手に失礼だとは思っているのだが、そんな印象を受けた。
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