第46話 ナンパはお断り!

 喫茶店から出て、ショッピング内を見て周る二人。

 私達は後ろからそれを追う。


 服屋やお土産屋など、様々な店を巡り。

 二人ともこのデートをすごく楽しんでいるようだった。


 私はそんな光景を見て、思わず笑みがこぼれる。


 前まではこんな光景を見れるとは思ってなかった。

 いつも歪に笑い、擦り切れる寸前の兄。

 そんな兄に私は何も出来なかった。

 私には何も変えることが出来なかったのだ。


 でも、そんな兄が最近変わった。

 何が兄を変えたのかは分からないけど。

 お兄ちゃんが、楽しそうなら私はどんな理由でも構わない。


 部長が私の顔を見て、不思議そうに首を傾ける。


「どうしたんデスか? すごく嬉しそうデス」


「いや、何でもないですよ部長。本当に何でも」


 そう、私はこんな何でもない日常を、学生のように友人と、笑って普通に過ごす。

 そんなお兄ちゃんを見たかった。


 お兄ちゃんを変えられたのは私ではなかったけど。

 でも、お兄ちゃんが幸せなら私はそれでいい。

 それでいいのだ。


「へ~い、そこのお嬢ちゃんたち。俺らといい所行かない?」


 私が幸せに浸ってる時に、無粋にも男の声が後ろからかかる。

 振り向くと、何ともガラの悪そうな三人の男達がいた。


 ナンパってやつだろうか。

 あっちでもよくあったけど、こっちでもそういうのあるのか。

 こういうのは無視するのが一番だ。

 私達は目配せして、その場から立ち去ろうとする。


「お~い、聞こえてる?」


 だが、男達はなおもついてくる。


 この男達すっごくしつこい!

 東京でも、ここまでしつこくないよ!!


 何度も無視してるのに、ここまでしつこく来るの?

 興味ないって分からないのかな?


「おい、無視すんなって!」


「いった……」


 男の一人が私の手を勢いよく掴む。

 力強く握られた腕が痛い。


「離してよ! 興味ないんだってば!」


 何とか離そうとするが、男の腕力の方が強い。

 男はヘラヘラと笑う。


「そんなつれないこというなよ? 俺様が天国みせてや――いってぇ!?」


 男の腕を隣にいた部長が掴み上げる。

 掴まれた痛みで、男は私の腕を離した。


「ワタシの後輩に、手を出さないで欲しいデスね?」


「このアマどんな馬鹿力してんだよ! 離しやがれ!!」


 部長に向かって、男は掴まれた反対側の手で殴りかかろうとする。

 ナンパしようとしてる相手に傷をつけようとするとか、この人頭わいてるの?

 そうじゃないと、ここまでしつこくはないだろうけど。


「危ないデス、ね!」


 部長が軽く拳を躱し、両手で、殴ってきた腕と胸倉を掴む。


「うわ!?」


 そのまま、殴ってきた勢いを殺さず、部長は男を一本背負いする。


「ガッ!?」


 男は背中から勢い良くつき、ピクピクと体を痙攣することしか出来なくなった。

 部長がパンパンと手を払う。


「今のは正当防衛デスからね?」


「くそ、だったらお前でいい! 捕まえれば人質にして――」


 別の男が、私の腕を掴もうと手が伸びる。


「はいはい☆ 瑠璃っちへのお触り厳禁ね☆」


 桃ちゃんが伸びてきた手を掴み、前に押し投げる。

 くるりと男が一回転し、背中を強く打つ。

 合気道ってやつだろうか。


 桃ちゃん強キャラみたいでカッコイイ♪


「桃ちゃんも部長も強い……これ、もしかして私達、逃げる必要なかった?」


「ふ、ふざけんな!?」


 残った男はもうやけくそ気味に襲い掛かってくる。

 だけど、二人とも傍にいるし、大丈――


「「あっ……」」


 えっ!?

 今のあっ……ってなに!?

 ちょ、拳迫ってきてるんですけど!?

 何で二人とも固まってるの!?


 私が目を瞑り、拳の衝撃に備える。

 だが、その攻撃はいつまで経っても来る様子がない。


 恐る恐る目を開けると、そこには……


「俺の妹に何してんだ、お前」


 殴ってきた男の腕を掴む。

 鬼の形相をした、お兄ちゃんだった。


「お兄ちゃん!? デートしてたんじゃ!?」


「やっぱ、後を付けて来てたのか。まぁ最初から分かってたけどな」


「あっ!」


 私は思わず動揺して、口を滑らした。

 というか、最初から気づかれてたの!?


 お兄ちゃんの隣には、ジト目の藍ちゃんが立っている。

 藍ちゃんは気付いてなかったみたい。

 物凄く怒ってるのが分かる。


「瑠璃ちゃん、後で……お話、しようか?」


「は、はい……」


 藍ちゃんから、物凄いプレッシャーが放たれていた。

 やばい、後で説教される……


「くそが、離しやが――」


「ちょっと黙ってくれるか?」


「ぐぎっ!?」


 お兄ちゃんが男の腕を固め、関節技を決める。

 関節技なんてどこで覚えたんだろう?

 職場でそういう事、教えてくれる人がいたのかな?


 あまりの痛みに男は気絶し、ばたりと倒れる。


「で? この状況どういう事だ?」


「実は――」


 私が今までの経緯を話すと、お兄ちゃんが考えこむ。


「一応、警察に言った方がいいのか? 正当防衛だし、たぶん大丈夫――」


「どうかされましたか?」


 声をかけられた方に振り向くと、警察帽を被った男性二人組がたっていた。

 タイミングが良すぎる。


 いや、これだけ派手に騒いでたら警察も来る、よね?


 お兄ちゃんが警察の人に事情を話す。


「ちょっと、妹達が男達に襲われたようでして、これって正当防衛ですよね?」


 そう聞くと、明るい笑顔で警察の人が答える。


「大丈夫ですよ。しっかりと正当防衛が成立します。後は自分がこの男たちを連れて行きますので! それでは!」


 警察の二人が、三人の男性を担いで、外へ運び出す。

 良かった、これで一安心だ♪


 突然肩をガシリと掴まれる。

 ギギギとぎこちなく後ろを振り返ると、藍ちゃんが笑顔のまま私の肩を掴んでいた。


「お、怒ってます?」


「怒ってない、ように……見える?」


「……見えないですね」


 藍ちゃんの頬が少し赤い。

 デート邪魔された事もあるかもしれないが、デートの様子を見られたことの羞恥心が勝っているのだろう。


 私達三人は藍ちゃんから説教をされるかと思われたが、お兄ちゃんがとりなしてくれたおかげで、長い説教にはならなかった。

 お兄ちゃんにマジ感謝♪


 説教の後は一緒にショッピングモールを楽しく周ることになる。


 それにしても、あの警察の人。

 事情聴取とかしなかったけど、本当に警察の人だったのなのかな?



 □□□



 男達はふいに目を覚ました。


「何だ……ここは、確か……俺は……」


 男達が辺りを見渡すと、裏路地のような薄暗い場所で、そこには警察の服を着た二人組と小学生くらいの少年が見下ろすように立っていた。


「あぁ、起きたんだ♪」


 つかつかと靴を鳴らし、少年を近づく。


「残念だね。そのまま寝てれば何も知らずに死ねたのに♪」


「はぁ? 何言ってんだこのガ――」


 少年が男の一人に触れると無邪気に笑う。


「【スキル:改悪者メタモルフォーゼ】♪」


 そう言うと男の体がドロドロと溶け始める。


「な、なんだこれ……だ、誰か助け――」


 最後まで言葉が続かず、そのまま男の体は溶けきった。

 溶けた液体が形を成し、複数の釘のような形をとる。


 その光景を見た二人は震えあがる。


「ひ、人が……溶け……釘に……」」


 少年は釘を拾い上げ、お手玉のように投げて遊ぶ。


「君たちがあそこで成功させてれば、こんな事にならなかったのにさ♪」


「ひっ!? お、おいそこのお前ら! 警察だろうが! そいつ捕まえろよ!」


 男の一人が叫ぶが、警察の二人は反応を示さない。

 警察の二人は無機質な瞳でこちらを見るだけだった。


「無駄だよ♪ この二人はボクの可愛い人形♪ そして、君たちもその列に加わるんだよ♪」


 少年が無邪気に笑うが、その笑みに男達は恐怖を覚える。

 純粋な狂気、その塊のような少年に畏怖を抱く。


「わ、分かった! 俺達はお前の言う事を何でも聞く! だから――」


「う~ん、でもボク意思のある人形って嫌いなんだよね♪ 人は大好きだけど、中身は大嫌いなんだ♪」


 少年は男二人に釘を投げつけ、手を地面に縫い付ける。


「「あぁぁぁ!!?」」」


「【スキル:頭に糠と釘ブレインニードル】♪」


 少年がスキルを発動させると二人が虚ろな目になり、ゆらゆらと立ち上がる。


「じゃあ、二人とも? ボクの言うことは?」


「「絶対です。カカシ様」」


「オッケー♪ いい子だね♪」


 二人を慈しむように撫でる。

 恍惚とした表情を浮かべる中。

 少年のスマホにとある着信が入る。


 それを少年は忌々しそうに取る。


「はい♪ どうしたの♪」


「――――!!」


「ボクの差し金? 言い掛かりだよ~たまたま一般人が襲ってきただけでしょ? それに、ボクの人形なら君が気付くのに、わざわざバレルような事しないって♪ せっかくフォローしてあげたのに、言い掛かりにもほどあるよ?」


「――――!!!」


「しつこいな……君こそ、ちゃんと監視の仕事しなよ? じゃあね♪」


「―――――――!!!!?」


 電話を切り、着信拒否にする。

 少年は舌打ちをした。


「全く、キャンキャンうるさいな……本当に一般人は想定外だったんだっての――でも、こいつらのおかげで、狸の兄ちゃんが本当に大切にしてるもの分かっちゃったよ♪ 次はそれ、狙ってみようかな♪」


 無邪気で不気味な笑みを少年は浮かべ。

 人形たちとともに、裏路地の奥へと消えていく。

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