第45話 ショッピングデート、背後に?

 仙台市のとあるショッピングモール。

 様々な商品のお店が中に並び、子供連れなど多くの人であふれかえる。


 ショッピングモールの中心にある時計前に私服姿の藍ちゃんが、そわそわしながら待つ。

 そこに私服に着替えた橙矢が走り寄る。


「藍ちゃんごめん! 待たせちゃって」


 橙矢が両手を合わせて、藍ちゃんに謝罪する。

 藍ちゃんは首を横に振った。


「大丈夫、私も……今、来た」


「そ、それなら良かった」


 ほっと胸をなでおろす橙矢。

 フフと藍ちゃんは朗らかに笑う。


「それ、じゃあ……行こ?」


「うん、行こうか」


 二人が並んで歩きだすと、橙矢が微笑む。


「藍ちゃんのその服、すごく似合ってて可愛いね♪」


「ぷぎゅ!?」


 不意の橙矢の褒めに顔を真っ赤にする藍ちゃん。


「……? どうしたの?」


「な、何でも……ない」


 藍ちゃんは手で顔を隠しながら、スタスタと前へと進む。

 橙矢はそれを不思議そうな顔をしながら、その隣に寄り添う形で同行する。


 そして、その後ろから三つの人陰が二人を尾行する。

 誰かって?

 それは――


「藍ちゃんを見守り隊のメンバーだったのだ♪」


「誰に話してるんデスか?」


 部長が呆れたようにこちらを見る。

 私はやれやれとポーズをとった。


「雰囲気で察してくださいよ……ナレーション的なやつです。状況説明にいいでしょ?」


 部長が半眼でこちらを見る。


「説明するなら、まずワタシを無理矢理連れてきたことの説明デスよ」


 私は勢いよく親指を立てる。


「暇そうだったから♪」


「最低な理由デス!?」


 部長がギャーギャーと隣で騒ぎ。

 桃ちゃんがそれを見てケラケラと笑う。


「部長もいい加減諦めた方がいい的な☆ 瑠璃っちは一度言い出したら聞かないの分かってるしょ☆」


「ワタシ的には猫宮さんに止めて欲しいんデスけどね!?」


「無理☆」


「もう! この後輩たち手に負えないデス!」


 頭を抱える部長。

 手に負えないとは失礼ですね。

 まるで私が問題児みたいに聞こえるじゃないですか。


「それに、これは必要なことなんです部長! 藍ちゃんの、可愛い後輩の恋の応援なんですよ? 完璧なサポートをして、デートを成功させましょうよ♪」


 私が力強く熱弁するが、部長が首を横に振る。


「でも、デート覗くのは、人としてよくないデスよ。ワタシもう帰りま――」


「お兄ちゃんに不意打ちしかけた部長が言っても、全く説得力ないですよ?」


「ふぐっ!?」


 私の一言に部長はガクリと膝をつく。

 そして床を指でなぞるような仕草をする。


「ワタシも負けっぱなしで悔しかったんデスよ……不意打ちでも一勝が欲しかったんデス……後で謝ろうとは思ってたんデスよ? でも、負けず嫌いな性格が祟って、あんなことになったんデス……ワタシだって……」


 ブツブツと部長が独り言を呟く。


「あぁ、部長がナイーブモードに……流石にいじりすぎちゃった……」


「いつものことっしょ☆ 美味しい物食べれば元気になるし☆ それよりお兄さん達見失うっしょ☆」


「そうだった! 急がなきゃ!」


 独り言を今もなお呟く部長の手を引っ張り、私達は二人の後を追いかける。


 二人は早速本屋に真っ直ぐ向かい、本を眺める。

 藍ちゃんが嬉しそうに本の話をするのを、笑ってお兄ちゃんが隣で聞く。

 一通り説明が終わったところで、買う本を選びレジで会計する。


 とてもいい雰囲気♪


 だけど、藍ちゃん?

 流石にそれはデートで買う本の量じゃないよ!?

 三十冊近くない!?


 案の定というか、藍ちゃんが重そうに本を入れた袋を持とうとした所を、お兄ちゃんが代わりに持ってあげる。


 流石お兄ちゃん♪

 恋心には気付かないけど、細かい気遣いができる♪


 藍ちゃんが申し訳なさそうにしょんぼりとする。


「あっ、その……ごめん、なさい……つい、買いすぎて……迷惑、でした……よね?」


 お兄ちゃんは首を横に振る。


「これくらい平気さ。むしろ藍ちゃんが楽しそうで良かったよ」


 お兄ちゃんが笑うと、藍ちゃんが顔を真っ赤になった。


「藍ちゃん照れてて超可愛い♪」


「大声出したら気付かれるっしょ!?」


 二人は昼食も兼ねて、ショッピングモールの喫茶店に入る。

 私達も気づかれない位置に座り、聞き耳を立てる。


 どうやら買った本の事とか、今までよんだ本の感想とか考察を話し合ってるみたい。


「ずっと本の話ばっかりだね」


「それな☆ うちは読書無理ポだから、マジリスペクト☆」


「私も読むのラノベくらいだし、辞書並みに分厚い本読める気しないよ」


 二人を眺めながら、私達は注文した物を待つ。


 どうやら、ほぼ同時くらいに注文した物がお互いのテーブルに届く。


 藍ちゃんはサンドイッチ、お兄ちゃんはオムライスを頼んだようだ。

 いや、お兄ちゃん配信で食べたばっかりなのによく食べられるね?

 見てるだけどお腹いっぱいになりそうだよ。


 ちなみに私は甘いカフェオレ、桃ちゃんがコーラ、部長にはお詫びの意味も込めて、部長が好きなパンケーキと紅茶を私のおごりで注文した。

 物が届くとキラキラした瞳で部長がパンケーキを見る。


「パンケーキ! ワタシ大好きデス!」


 嬉しそうに口に頬張る部長。

 さっきまで元気なかったのに回復が早い。


「美味しいデス♪」


 部長がリスみたいに頬を膨らませて食べる。

 思わず可愛かったのでパシャリと写真を撮った。


「何で撮ったんデス!?」


「気にしないで下さい♪」


「気になるんデスが!?」


「部長可愛よ☆ こっちにも目線ちょ☆」


 パシャパシャと桃ちゃんがスマホで写真を撮る。

 部長もかわいいと言われて満更でもないのか。

 照れながら、写真撮影に応じる。


 部長、かなりチョロイ。


 視線を二人に向けると、どうやら進展があったようだ。


「美味しい、です……オムライスは、どう……ですか?」


「ふわふわ卵で、チキンライスもパラパラ、トマトソースもトマトピューレが使われてて、かなりこだわってるって感じだな」


「そうなん、ですね」


「一口食べるか?」


 お兄ちゃんがスプーンを差し出そうとして、藍ちゃんが固まる。


 不味いと思ったのか、お兄ちゃんは慌てて手を引っ込める。


「あっ、ごめん! 瑠璃と食事する時の癖で、今のは気にしないで!」


「い、いえ……その、大丈夫……です」


 二人とも、気まずそうに見合う。

 藍ちゃんは意を決したように、手にサンドイッチを持つ。


「私の、一口……良かったら、どうぞ」


「えっ、でも――」


「オムライスと、交換で……そしたら、色々……楽しめる」


 藍ちゃんがサンドイッチを差し出す。


「このまま、ガブッと……どうぞ」


「えっ!? いやそれは流石に――」


 お兄ちゃんは断ろうとしたが、プルプルと目をギュッと閉じ、顔を真っ赤にする藍ちゃんを見て、断れないと悟ったのだろう。


「……いただきます」


 お兄ちゃんがサンドイッチにかぶりつく。


「野菜がしっかりとシャキシャキして美味しい。パンもフワフワだ」


「良かっ……た」


 藍ちゃんが、ほっと一息つくと顔も元の色に戻る。

 お兄ちゃんが


「今度は俺のだけど、流石に俺の使ったスプーンじゃいやだろうから、新しいのを――」


「大丈夫! 気にしない!」


「そ、そう? じゃあどうぞ」


 お兄ちゃんがオムライスの皿とスプーンを藍ちゃんに差し出す。

 藍ちゃんが恐る恐るスプーンを手に取り、オムライスをすくうと口に入れる。


「どう? 美味しい?」


「美味しい、です」


「なら、良かった♪」


 そんなバカップルみたいなやり取りをする二人を見て、私達は一言。


「ブラックコーヒーにすればよかった。甘すぎる」


「コーラが激アマ☆」


「甘すぎて口から砂糖が出そうデス」


 二人のその甘ったるい雰囲気に口々に文句をこぼした。

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