第44話 ベジソルジャーカレー(2)

 フォレストダンジョン30層のセーフゾーン。

 いつもの料理セットを準備し、タヌポンがガッツポーズをとる。


「耐性スキルも手に入ったし、食材も大量に手に入った! いい事尽くめだな!」


 タヌポンの隣には上下分離された、様々な種類のベジソルジャーの山が出来上がっていた。


 :全部粉砕してたんじゃないのかw

 :途中からいつものワイヤートラップ(物理)だったよ

 :配信長すぎて見逃したわ

 :しかも、またギロチンかよw

 :お兄様それ好きね?

 :よっぽど気に入ったのかw

 :でも最初からそれしろよ

 :忘れてたん?


「いやぁ……配信始まる前にちゃんと糸を手に入れてたの忘れてて――昔、あの野菜に何度もやられたトラウマのせいで、ムカついてつい♪」


 タヌポンがアハハと笑ってるように後頭部に手を当てる。


 :ついじゃねぇよ!

 :まさかタヌポンの方が言われる側になるのわ草

 :前やられてたんかw

 :素直に報告出来たな

 :ならいいだろう

 :いってよし!

 :どこのネコの話?


「と、とりあえずリベンジは成功したし、今日のメニューはこちら!」


 無理矢理感あるが、タヌポンが進行を進めた。

 ポップなテキストが表示される。


「ベジソルジャーカレーだ」


 :カレー!

 :野菜カレーか

 :二足歩行の野菜は食えるのかw

 :今更だろ

 :確かにw


タヌポンが両手を腰に当てる。


「そして、これがイベントで食べられるメニューの一つだ! 他は来てからのお楽しみってことで」


 :まじか!

 :カレーならいけそう!!

 :数来るなら確かにカレーがいいかも

 :効率的やな

 :何万人来るか分からんしなw


「一応俺が狩ったのと、他の探索者が集めたのも買い取ったの含めて、かなりの数は用意はしてるけど、足りなかったらごめんね?」


 タヌポンが腕まくりする。


「さて、料理していこうか!」


 まず、ジャガイモ型とニンジン型、玉ねぎ型とニンニク型、しょうが型のベジソルジャーを水で洗い、皮をむいていく。


「あっ、俺は状態異常効かなくなったからいいけど、他の人は絶対手袋とかつけてから作業してくれよな。まだ中に毒が残ってて状態異常起こすこともあるから、注意してくれ」


 :あっぶな!

 :フグを調理してる気分

 :やったことあるの!?

 :いや、やったことないw

 :なんだそれw

 :毒食材だな

 :そもそも食材じゃねぇw

 :見た目はモンスター料理で一番まともなのにな


 むき終わったジャガイモとニンジンを角切りにし、玉ねぎをくし切りにする。


「そして取り出すのは――これ!」


 タヌポンの手には、いい色味をした赤身肉を持っている。

 よく見知ったそれは、タヌポンの代名詞とも言えるだろう。


:まさかそれは!

:レッドドラゴンの肉!!

:夢のコラボレーション!


「今回は俺が倒したんじゃなくて、依頼したんだ」


:依頼なんだw

:忘れがちだけど一応他の人も狩ろうと思えば狩れるよね?

:ほぼ単独やるのわ化物だけど

:風神雷神の二人がパーティー最少記録保持者だったよな?

:塗り替えてて草

:記録上二人だから、塗り替えられてないけどな

:二つ名レベル二人で攻略なのにほぼ一人攻略ってw

:バケモン

:でも、確かに記録見るとドラプロがタヌポン以外に挑んでる記録がある

:今回はその肉ってことだ


「そうなんだよ。結構お金かかってると思うんだけど、ドラプロは大丈夫なのかな?」


:う~ん……

:人気は出てるし問題ないとは思うけど

:このイベント次第かな?

:赤字にするかは、タヌポン君の手にかかってる!


「何か……胃がキリキリしてきた」


 そう言いながら、手元は止めず作業する。

 赤身肉にいつもの黒スパイスを振りかけ、角切りにしていく。


「鍋に肉を入れ、中に火が通るまで焼く。焼きあがったら一度取り出し、肉の油が出た鍋に、クミンシードとベジソルジャー達を一緒に入れて炒めていく」


 タヌポンは鍋を器用に振りながら、中の具材を炒める。


:クミンシード?

:カレーによく使われる香りづけのスパイス

:あれ超いい香りだよな!

:エスニックな香り~


「香りが立ち始め、玉ねぎが飴色になったら、肉とターメリック、コリアンダーとガラムマサラ、そして毒消し草と麻痺消し草を乾燥させ、粉状にした物を入れて、混ぜ合わせる」


:カレーだけに香りがこっちに届かないのが残念!

:絶対この時点でいい匂いしそうだし

:おぉ~食わせろぉぉぉ!!

:腹壊すぞw


「大体混ざったら、トマト型のベジソルジャーをすりおろし、ローリエと水と一緒に煮込んでいく」


 お玉で鍋をかき回すとゴロゴロと野菜が顔を出す。

 それを十五分程煮込んだら……


「ご飯を皿に盛り、その上にかけたらベジソルジャーカレーの完成だ!」


:旨そう!

:野菜もしっかりとゴロゴロとしてる

:さてさて、お味の方はどうなんでしょうか!


「じゃあ、早速食べていこう!」


 タヌポンがスプーンを手に取り、口に頬張る。


「ゴロゴロな野菜の食感! レッドドラゴンを煮込むのは初めてだったが、ほろほろと口の中で溶ける! スパイスの香りが鼻を抜け、野菜と肉の味を引き立たせる。食欲をそそられ、食べる手が止まらない!」


:いつもの安定食レポ

:これが現地で食えるのか

:めっちゃ楽しみ!

:東京からの旅費とイベント代で高くつきそう

:一皿いくらかな?


「確か千円くらいだったかな? 材料費込みならかなり良心的な値段設定だと思う」


:う~ん、絶妙

:頑張れば手が出せそうな値段設定

:ギリギリの黒字ラインじゃない?

:宣伝費込みなのかもな

:確か宮城のPRも兼ねてるからそっちからも出るかも

[シュガー]:【¥5000】安いだお

:シュガーニキwww

:そりゃあ(五万出すのに比べたら)そうでしょう

:シュガーニキなら、もう現地入りしてそうw

:ありえるな


 コメント欄がイベントの事に注目する中。

 とあるコメントが書き込まれる。


[鳥威]:【¥50000】君の大切なものは何?


:うん?

:何か変なコメントだな

:空気読め

:つうか限界投げ銭www

:やっば!


 タヌポンは、そのコメントを見てどうやら反応に困ってるようだ。


「えっと……鳥威さん? かな。投銭ありがとう。大切なものか、色々あるんだけど。家族、友人、リスナーのみんな――かな?」


 頬を搔くような仕草をとるタヌポン。


:一番最初に出るのそれかw

:いや、嬉しいけども

:セリフが臭い

:臭いぞタヌポン

:そもそもタヌポンが臭い


「もうそれ意味が変わってるだろうが!?」


 タヌポンが叫ぶ中、そのリスナーはお構いなしにコメントを打ち込む。


[鳥威]:【¥50000】そっか♪ ありがとう♪


 それ以降、鳥威というリスナーからのコメントが途絶える。


:一体何がしたかったんだ?

:あの人高額投銭してっただけだぞw

:ただのファンやんけ

[シュガー]:【¥5000】負けただお……

:張り合うなしw


「ちょっと、イレギュラーなこともあったけど。今日の配信はこれまで、配信はしばらくお休みするけど、三日後イベントで会おうな!」


:おつぽん!

:三日後宮城県で!

:お疲れ

:おつかれ

:おつ~


 タヌポンが配信停止すると、配信が終了しましたという画面に切り替わる。

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