第43話 ベジソルジャーカレー(1)

 フォレストダンジョン31層。

 相変わらず草木が生い茂る中に、タヌポンが大きなリュックサックを背負って、画面に映る。


「どうも~タヌポンです」


:おはポン

[シュガー]:【¥5000】朝から尊死だお

:ま~たシュガーニキ

:いや、珍しくお金少なめで投げてる?

:どったの?

[シュガー]:【¥5000】仕事減らしたんだお

[シュガー]:【¥5000】推しの言葉は絶対だお

:限界オタク過ぎるw

:タヌポンの忠実な僕

:小分けで打つなw

:推しの言葉絶対はなんとなくわかる


「仕事減らしたんですね。無理はよくないですからいい判断だと思います。リスナーの誰が倒れても悲しいですから」


[シュガー]:【¥5000】ヤバい投げたいだお

:我慢せいw

:気持ちは分かるがw

:話変わるけど昨日配信切れたよね?


「そうなんだよ。リスナーのみんな昨日はごめん、途中で配信切れてさ?」


:むしろ助かった

:死ぬかと思った……

:もうやめろよ!

:フリじゃねぇからな!?


 タヌポンが考え込む姿勢をとる。


「つまり――もう一回やれと!」


:違うわ!?

:誰か~この狸を止めてくれぇ!

:人の話聞こうか!?

:何か前よりはっちゃけてる分、アタオカ言動目立つw

:前までは本気じゃなかった?

:80%のオレを見せてやろう!

:どこの弟?


 タヌポンは肩を落とす。


「でも、残念だ。会社NGが出たから、ビックスパイダー料理は出来なくなったんだよ。本当に残念……」


:しゃぁぁ!!

:我々の勝利だ!!

:えぇ~俺は見てみた――

:シャ~ラップ!


「ビックスパイダーは出ないけど、今日の配信はこれ!」


 ドン! と言う効果音とともにテロップが表示される。


「ベジソルジャー料理してみた!」


:ベジソルジャー?

:ゲームでも名前聞かないな

:どんなモンスター?

:簡単に言うと二足歩行の武器持った野菜

:何それ怖い

:熱の時見る夢に出てきそうw


「見た目も料理にかなり使えそうだから楽しみ! じゃあ早速狩ってこう!」


 タヌポンが元気よく歩きだす。

 しばらく歩くと広い場所に出る。


 中心には集団で行軍する野菜の群れ。

 野菜から手足が生え、手には粗末な武器が握られている。


:マジで野菜やんけw

:手足も野菜をくっつけたみたいになってる。

:お盆の時によく見るやつw

:武器も何か拾ったみたいにボロボロだな。

:マンドラゴラでもそうだけど、野菜が歩くのシュール

:でも武器使う敵初じゃない?

:知性あるのかな?

:専門家の意見は結構分かれてる。

:決まった動作しかしないプログラム説と

:IQが3しかないから単調って説もある

:3ってw

:サボテンかよwww


「動物よりは賢くはないな。近づいたら取りあえず攻撃してくるし、武器も何となくで振ってる感じ。それよりも気を付けることあるんだよ」


:何々?

:体に傷がつくと、そこから状態異常になる液体を出す。

:きったなwww

:しかも野菜の種類によって状態異常違うからやっかい

:フォレストダンジョンそればっかか!

:状態異常のオンパレード


「そうなんだよ。だからみんなもフォレストダンジョン来る時は状態異常を直すポーションは買ってから臨んで」


:タヌポンがまともなこと言ってる……

:は~い

:↑素直かよw

:まぁでも大事なこと


 タヌポンが両手を合わせる。


「さて、じゃあどんな状態異常があるか。今から受けて確認していくぞ! みんなも勉強になるしな!」


:???(宇宙猫状態)

:お前は何を言ってるんだ?

:一瞬でさっき言ったことと矛盾するのやめろw

:タヌポン……そこまでドMが深刻に……

:おいたわしやお兄様……


「いや違うからね!? ちゃんと理由あるんだよ!」


:もしかして、耐性スキル狙ってる?

:めっちゃ確率低いじゃん

:あの運ゲーやるのかよw

:どういう事?

:状態異常起こすと、一定確率で耐性スキルが手に入る

:どの状態異常でも手に入るのは全耐性

:めっちゃいいやんけ!

:だけど確率ほんと低いんだよ

:0.01%って

:状態異常治すポーション代と見合わないんだよな。

:当たるまで引くんだよ!

:ガチャ廃はお帰りください


「今回ドラプロもこの企画オッケー出してくれたんだ。ベジソルジャーを料理する企画と同時進行でやります」


 タヌポンが背負っていたリュックサックの中を見せると、解毒ポーションや状態異常回復ポーション、ダウン治しなど、かなり多くのポーションが入っていた。


:多いw

:これが運営からの石ですか

:もう完璧にソシャゲw

:ドラプロが運営だった?


「麻痺とか動けなくなるもの以外は、これで基本的に大丈夫なはず。それじゃあ早速やっていきましょう!」


 タヌポンがベジソルジャーの前へ一歩踏み出すと、音に反応したのか、ベジソルジャーが一斉に襲い掛かってくる。


「麻痺系はいないか……なら、【スキル:鉄壁】発動」


 タヌポンの周りがオーラに覆われると拳を構える。

 そしてそのままベジソルジャーに拳を振るう。


 ベジソルジャーの一体にヒットすると、武器ごと体が弾け飛ぶ。

 その武器の破片が、他のベジソルジャーに当たり。

 撃ち抜かれたようにバタバタと倒れていく。


:威力やっばw

:散弾銃みたいだな

:なお銃を使ってない

:いつものw

:さて、状態異常は何を引くかな


 タヌポンがベジソルジャーの風穴に手を入れては抜くを繰り返して、数分後に画面前へと戻ってくる。

 そしてゴソゴソと何事もなかったようにポーションを飲む。


「毒、DEXダウン、ATKダウン、DEFダウン、INTダウンって感じかな? でも、やっぱり耐性はつかないな」


:いや、スキルなしで平然としてる方がおかしい

:タヌポン何でそんなに状態異常受けて平気なん!?

:普通ぶっ倒れるぞ

:この人おかしいよぉ


「あぁ……何というか。そういうのに慣れてるんだよ。我慢すれば動けないこともないからな」


:やっばwww

:どんな環境で過ごしたらそうなるw

:ゾル〇ィック家の住人!?

:麻痺とかも我慢すればいけるとか言い出しそう

:電撃も効かなそうだな

:絶対耐えるだろw

:化物過ぎる


 ポーションを一通り飲むとタヌポンが立ち上がる。


「さて、もうちょっと粘りますか!」


 そう、そこからは途轍もなく長かった。


 ベジソルジャーを見つけては倒して状態異常を受ける。

 耐性ついてるか確認し、なかったらポーションを飲む。

 時間が経つと毒素が抜けてしまうので、二度付けも出来ない。

 だから、新たにベジソルジャーを探す。


 それを繰り返して、二時間立った頃だった。


「や、やった! ようやく耐性スキルを手に入れた!!」


 タヌポンが嬉しそうに跳ね回る。

 その周りには飛び散った野菜汁の水溜まりが出来ていた。


:もう完全に色が毒沼w

:でも、これで終わる

:ようやくか……

:周りが野菜汁まみれで草

:もう、ひたすら作業用配信とかしてたw

:ソシャゲの闇を見た

:ガチャなんてこんなもんだろ?


 喜ぶタヌポンだが、コメントはやっとかという冷めたコメントで溢れたという。

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