第42話 それぞれの願い事
仮想ダンジョンが閉じ、コノハも同時に消える。
最後遊んでもらえなくて、コノハ残念がってたなぁ。
――今度会うことあったら遊んでやろう。
「藍ちゃん! 私達を囮にしたね!」
「ズルいデス!」
「それ☆」
藍ちゃんが三人に詰め寄られてる。
やれやれといったポーズを藍ちゃんがとった。
「作戦……だった。結局、勝ったから……いいでしょ」
「「「そうだけども!」」」
三人はとても不満そうだ。
でも、今回は藍ちゃんの方が正しい。
俺の性格、戦闘の癖を完全に把握し。
ルールの穴を突くために作戦をたてる策士っぷり。
どれをとっても完璧だ。
パーティーの参謀として優秀と言わざるを得ない。
「真正面から倒すだけが戦闘の全てじゃないってことだ。むしろ実力で勝てないと分かったら、切り替えられる思い切りの良さを三人とも見習うべきだね」
「「「むぐぐ……」」」
三人とも納得いかないって顔だな。
これからゆっくり覚えていけばいいさ。
俺もそうだったし。
「さて、約束通り一人一つ俺に出来る範囲で叶えるよ」
「じゃあ、すぐに出来るワタシからいいデスか!」
牛山さんが元気よく手を挙げる。
すぐに出来るって何だろうか?
一発ギャグしろとかだったらやだなぁ……
「その……この前襲ったこと許してほしいんデス。ちょっと気がかりで……」
もじもじとしながら牛山さんがそう言った。
何を言われるかと思ったけど、
「そんな事か、別にいいよ。元々許してはいたから」
「よ、良かったデス……」
牛山さんほっと一息つく。
律儀だなぁ、元々牛山さんはいい子なんだろうけど。
何が彼女をあそこまでの狂行に走らせたんだろうか。
ゲームに熱中すると、周りが見えなくなるタイプなのかな?
「私は最初言ったから……桃ちゃん♪」
「う~ん☆ 特に決まってないんだよね☆ 一回保留ってことで☆」
「まぁそういう事なら、決まったら言ってくれ」
「りょぴ☆」
猫宮さんがピースして元気よく返事する。
後でっていうのが、少し怖いな。
いや、それも怖いが……
「一万円以上か……食材は――」
「食事も食材も金額には反映しないから♪」
「ですよねぇ……」
瑠璃が俺の考えを先読みしてたのか、返答がすぐに返ってくる。
食材買って、家で振舞えば、有耶無耶に出来ると思ったのにさ。
俺がどうしようかと悩んでいる時に、藍ちゃんが俺の裾を引っ張る。
「悩んでる、なら……本買うのは……どう? 私のお願いは……買い物、付き合って……貰うこと、だから。ちょうど、いい」
「それだ! 最近藍ちゃんに本借りてばっかりで悪いし、俺も何か買うよ。明日の午前中は仕事だから、午後でいいかな?」
コクリと藍ちゃんは頷く。
藍ちゃんって、俺と読んでる本の趣味が合うんだよな。
出会ったきっかけも、俺が好きな本を藍ちゃんが読んでたから、声かけたからだし。
仲良くなってからは、互いに持ってる本を交換して読みあってたんだけど、昔に買ってた本も底ついてきた。
優しいから藍ちゃんが貸してくれるけど、そろそろ俺も貸せる本買わないと、申し訳ないしな。
瑠璃と猫宮さんがコソコソと耳打ちする。
「藍ちゃん、どさくさに紛れてデートの約束取り付けたよ? 絶対狙ってそう言ったよ。策士、藍ちゃん策士だよ」
「マジそれ☆」
小声で何言ってるか聞こえないが、絶対碌なことじゃないな。
牛山さんは首を傾げる。
「本をわざわざ店に行って買うんデス? 今なら電子書籍とかあるじゃないデスか? 紙の本なんて重いし、かさばって面倒――」
「いま何て言ったの?」
藍ちゃんが、いつものゆっくりな口調から、途端に流暢になる。
何か藍ちゃんから途轍もない圧を感じる。
「えっ……いや、その……」
牛山さんが藍ちゃんの圧にダラダラと冷汗を流す。
「紙の本は、インクの香りや、本独特の紙の匂いは電子書籍じゃ出せない魅力があるんだよ。もちろんそれだけじゃない、紙をめくるワクワク感は電子書籍では味わえない、得難いものがあるの。それにインテリアとしてもいいし、最近は装丁など凝ったものも多いの、コレクションとしても価値があるよ。そもそも本の歴史も全く知ろうとしないのに、便利ってだけで電子書籍こそ至高と思う最近の文化も私はどうかと思うの。別に電子書籍が悪いって言いたいわけじゃないんだよ? 持ち運ぶのに便利だし、スペースをとらない。だけど歴史的背景も知っとくべきだと思うの、そもそも本の歴史は、最初は羊皮紙から――」
藍ちゃんが、スラスラと本の歴史について語りだす。
牛山さんは段々と肩をすぼませ、最後には正座で藍ちゃんの話を聞いている。
瑠璃がやれやれというポーズをとる。
「あぁ~あ、藍ちゃんのオタクスイッチ入れちゃったよ。藍ちゃん普段喋らないのに本の話になると長いよ? どうしてオタクって、自分の得意なことになると、早口になるんだろう?」
「……ブーメラン刺さってるぞ」
「それは言わないお約束♪」
俺達は藍ちゃんが話し終わるまで、公園でずっと待機することになった。
□□□
同時刻のとある地下施設。
仄暗く、異様な気配がする空間。
そこで、三人の男女が顔を合わせる。
重苦しい空気の中、大きな玉座に座る少女が口を開く。
「ブリキ君、例の少年の件どうなってる?」
カチャリと全身鎧の大男が一歩前に出る。
「はい、監視の情報から実力は申し分ないかと、仲間にするのなら彼が適任です――我々程ではありませんが」
「ボク達と比べちゃ可愛そうだって♪ むしろこっちで、よくそのレベルに達したって、褒めてあげようよ♪」
ケラケラと小学生くらいの少年が笑う。
甲冑越しに男は少年を睨む。
「カカシ、貴様は楽観が過ぎるぞ。ドロシー様の仲間としての自覚がないのか」
少年は舌を出して、両手を合わせる。
「ごっめ~ん♪ ボクって考える頭ないからさ♪ 自称感情ないなら一々怒らないでよ♪ だるいな♪」
「貴様!」
「あれれ? ブリキ君怒ってるの? 面白いねぇ♪ 何、ボクとやりたいの?」
「その減らず口叩けないようしてやろう」
二人はバチバチと睨み合い。
お互いの武器を手に取ろうとする。
「はいはい、二人とも喧嘩しない」
少女が二人をいさめる。
二人とも素直に武器から手を離した。
ブリキと呼ばれた男がため息をつきながら報告を続ける。
「ただ、彼はダンジョン協会にもマークされています。仲間に引き入れるのは慎重になった方がいいかと、我々の存在がダンジョン協会にばれる可能性があります」
「そうだね。彼が完全にダンジョン協会と敵対関係になったら本格的に引き込もうか。それまでは監視も引き続き継続ってことで」
「御意」
ブリキはドロシーという少女にかしずく。
ドロシーはカカシに顔を向けた。
「カカシ君、彼女は上手く彼の懐に潜りこめたの?」
「大丈夫♪ 彼女は彼と行動を共にしてるよ♪ ボクの分身も一緒に監視は続けるね♪」
「二人ともよろしくね」
「「全ては世界平和のために!」」
二人は高らかにそう宣言する。
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