第40話 昼下がりの公園
自然豊かな公園。
老若男女問わず人が集まるこの場所に、俺と女子高生ズは来ていた。
その中心には広いスペースがいくつも点在している。
ダンジョンウォーリアー専用スペースと書かれた看板がスペース前に立っており、ダンウォをする人やそれを観戦する人で賑わっていた。
「ダンウォ専用スペース何てあるんだな」
探索者ぐらいしか盛り上がらないと思ったが、一般人もちらほら見える。
こういう風に探索者志望を増やそうってことなのかな。
「意外とお金かかってるみたいだよ? ダンジョン協会も私達から搾取したお金を、こんな事に使わなくってもね」
瑠璃はやれやれと言うポーズをとる。
「いや搾取て……ライセンスの恩恵あるだろ? ダンジョンでの死亡時お金が出るとか、ダンジョンでの怪我の保証と――」
「そうなんだけどねぇ、何かおかしいんだよ」
「おかしい?」
俺が首を傾げると瑠璃がビシッと指をさす。
「徴収した金額と還元した支出が全然あってないんだよ。ネットとか掲示板でもそういう書き込みすると謎に消えるんだよ。これは絶対ダンジョン協会の陰謀! 私的には裏で怪しいことに金を使ってる説が有力だと睨んでる♪」
瑠璃が顎に手を当て、探偵のようなポーズをとった。
呆れたように藍ちゃんが瑠璃をジト目で見る
「瑠璃ちゃん、そういう話……好きだね」
「考えすぎデスよ。運営資金に回してるとか、きっとそのあたりデス」
「でも合ってたら面白そうじゃん!」
瑠璃がプンプンと腕を組んで怒る。
いや、その説ありえそうなんだよな。
これはネットのヘビーユーザーの瑠璃だからこそ、気付けたことだろう。
どうしてネットの検索をしても、そういう噂がないのだろうと思ったが、なるほど、ダンジョン協会が圧力をかけてるってことか。
まさかとは思っていたが、何か段々と黒に近くなってるな、ダンジョン協会。
ダンジョン協会の始まりは、とある金持ちがダンジョンを国から買い取り、ダンジョンを運営し始めたのがきっかけだ。
最初はかなり小規模で、徴収金もそこまで高くなく、ただの自治組織だった。
でも、どんどんと勢力を拡大し、大国と大差ないほどの大組織となっている。
今や、ダンジョン協会に逆らうということは全世界を敵に回すのと同義だろう。
だからこそ、国も探索者も高くなりすぎた徴収にも目を瞑らざるをえなかった。
ちゃんと還元もされているし、国家を転覆させようとしてるわけでもない。
ほぼ無害、むしろ有益だからこそ、国は協力関係を築いている。
そんなダンジョン協会の目的は何なんだ?
何をしようしている。
何のためにお金を集めてる?
何のために……
「お兄ちゃん? 難しい顔してるけど、どうしたの?」
瑠璃が考え込んでいた俺の顔を覗き込む。
俺は首を横に振る。
「何でもないよ。それより何でここに? 誰かダンウォでもやるの?」
「それはね――」
ピコン♪ という音がスマートウォッチから鳴った。
見ると、決闘の申込がされました、というメッセージが表示される。
瑠璃がニヤリと笑う。
「勝負しよ♪ お兄ちゃん♪」
「唐突だなぁ……」
何でそんな好戦的なの?
俺に不満でも溜まってる?
瑠璃が人差し指を立てる。
「勝負は私達対お兄ちゃん♪ 負けたら勝った方の言う事、何でも一ついう事聞くってルールで♪」
「いや、別にこんなことしなくても、大抵のお願いならき――」
「私のお願いはお兄ちゃんが自分のためにお金使う事♪ 最低一万は使ってほしいかな♪」
「無理だが!?」
この妹は何て恐ろしいことを言うのだろう。
一万あったら、二人の一週間分の食費じゃないか。
牛タンやずんだ餅だって、瑠璃が外出先で名物料理食べて、ちゃんと感想聞かせて欲しいというから、断腸の思いで頼んだのに。
さっきの奢りの件?
自分で使うのと、奢るのでは全く別だ!
牛山さんが首を傾げる。
「何でそんな嫌がるんデスか? もしかして貧乏なんですか?」
「「そうだよ(違うよ)!」」
「どっちデスか!?」
俺と瑠璃は二人とも違う答えを返す。
牛山さんが瑠璃に耳打ちする。
「どういうことデス?」
「前から別にお金がなかったわけじゃないの、でもお兄ちゃん思い込みが激しいというか。私が高卒で仕事するって言ったら、大学行くお金がないのか! だったら俺が稼ぐ! ――って、あれよあれよという間に中卒で就職先決めて来て……しかも、最近転職したおかげで、お兄ちゃんの収入が前よりすごいことに……」
「ち、ちなみにどれだけ溜まったとか聞いても?」
「――――円」
「ヤバすぎデス!?」
さっきからコソコソと何を話してるのだろう?
瑠璃が牛山さんに耳打ちする。
「それにお兄ちゃん、頑なにお金があるって事信じようとしないんだよね……私が言っても、お金のことで心配させてごめんなって言われるし。貯金通帳見せても、偽物だと思って信じてくれないんだよ……」
「それは……何というか……いい人なのに残念系デスね」
瑠璃がため息をつく。
「お兄ちゃん何で、お金と機械が絡むとあそこまでポンコツになるんだろ?」
「瑠璃ちゃんに、似てる……ね?」
「どこが!?」
藍ちゃんが手で口元を抑えてフフと笑う。
「いつも、善意が……空回り、する所」
「ひどい!?」
三人とも仲良さそうに会話してるなぁ。
――というか猫宮さんが臨戦態勢とってこっち見てくるんだけど!?
「一度お兄さんと戦ってみたかったんだよね☆ うち超楽しみ☆」
「言っとくけど戦うつもりは――」
いや、待てよ。
俺は言うのを途中でやめて熟考する。
考えがまとまると俺はニヤリと笑った。
「受けようか、俺に一撃でも当てられたら勝ちでいいよ。そっちの敗北条件は武器を破壊されたら、俺が勝ったら言う事しっかり聞いてもらうぞ?」
瑠璃がクネクネしながら、微笑む。
「えぇお兄ちゃん♪ うら若き乙女の私達に、一体どんなお願いしようとしてるの♪ もう、お兄ちゃんのエッ――」
「これが終わったら日付が変わるまでずっと勉強な? どうせ夏休みの宿題まともにやってないだろ?」
俺がそう言った瞬間。
藍ちゃん以外の女子高生達が顔を青ざめる。
「お、お兄ちゃんの鬼! 悪魔! 何て事を言うの!?」
「ま、負けられなくなりましたデス! 絶対勝つデス!」
「それ☆」
三人がメラメラと勝負に燃える。
それくらいのやる気を勉強にも燃やしてくれよ……
「藍ちゃんは偉いね。勉強ちゃんとしてて」
「夏休みの、宿題……もう、終わらしてる。負けたら、自主勉……する」
藍ちゃんが珍しくドヤ顔してて可愛い。
自主勉するなんて偉すぎるな。
コツコツ頑張ってる人は好感持てるよ。
「じゃあ、始めるぞ」
俺がスマートウォッチの承諾ボタンを押すと、前のように仮想ダンジョンが展開し、スライムプロテクターが体に装着される。
「バトルアックス、デス」
「鉤爪♪」
「……杖」
「ダガー☆」
「メイス」
牛山さんは前に見た斧、藍ちゃんと猫宮さんは得意武器を出したが、瑠璃だけ武器違うな。
スキル一つしかないから魔術による狙撃銃は使えないし、別の武器にしてもおかしくはないが、武器が杖じゃなく何でわざわざ近接武器に――
そんな事を考えていたのも束の間。
雷のけたたましい音とともに、瑠璃が目の前にまで迫ってきていた。
「はっ?」
「
瑠璃の雷を纏った鉤爪がバチバチと音を立てて迫る。
「まじか!?」
俺は思考を放棄し、反射的に避けざるをえなくなった。
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