第36話 マンドラゴラのそぼろ煮

 草木生い茂る森林地帯の映像が流れる。

 もうダンジョンは何でもありかと言いたくなる光景だが、それでもこれはダンジョン内の映像なのである。


 フォレストダンジョン21層。

 そこにいつもの狸の仮面をつけたタヌポンが映される。


「皆さんどうも、タヌポンです」


:おはポン♪

:朝早くから元気ですね

:いつものダンジョンかと思ったらなんじゃこりゃ!?

:フォレストダンジョンだね

:宮城県ですけど!?

:何故にいる!?

:告知見とらんの?

:宮城でイベントするんだよ

:現地民感謝! 圧倒的感謝!!

:くそ、東京組は行きづらい……

:レッドドラゴン配信のやり返しされてて草

:俺も行きたかったなぁ……


「そう、俺は今フォレストダンジョンに来ています! 今回はイベントで振る舞う食材集めも兼ねての配信をしようと思ってる」


:つまり現地行けばモンスター料理が食えると!?

:えっまじで!?

:告知で(以下略)

[シュガー]:【¥50000】今日も推しが尊いだお

:出たわねシュガーニキ

:毎回限度額の投銭、お金足りてます?


「シュガーさんいつもありがとうございます! 頑張って投げてくれるのは嬉しいですけど、無理はしないでくださいね?」


[シュガー]:【¥50000】了解だお

:全然わかってなくて草

:タヌポン信者こっわ……

:珍しいよね

:いじるスタンスのリスナーはいるけど

:ここまでの人はいないよね

:タヌポンに優しい?

:元から優しいだろ?

:リスナーの半分は優しさで出来てるんだぞ

:バ○ァリン?

:バファ〇ンニキは草


「他のリスナーも、シュガーさんみたいに、俺にもっと優しくしてくれないかな!?」


:断る

:無理

:拒否

:いつもの定期w

:やっぱタヌポンはこうだよな


「まぁ、そうですよねぇ……よし、切り替えて行こう!」


 片手を挙げて、えいえいおうと気合を入れるタヌポン。


「え~と、画面切り替えは……これだ! やっぱ機械操作まだ慣れないな」


 タヌポンが手を振ると効果音とともに、マンドラゴラ料理してみた! という画面に切り替わる。


:マンドラゴラ!?

:リスナー殺す気!?

:うん? どゆこと?

:端的に換言すれば、耳が死ぬ

:聞いたら死ぬんじゃなくて?

:伝承の方はそうだけど

:ダンジョンのマンドラゴラにそんな性能はない

:音波攻撃はしてくるけどな

:なるほど

:レッドドラゴンの爆音に耐えた俺達ならいける

:見ろ、爆音配信を乗り越えた者たちだ

:面構えが違う


「大丈夫! 今回は対策ばっちりだ! 早速行ってみよう!」


 タヌポンが森の奥へと進むとカメラが勝手に移動する。


:タヌポン所もドローンカメラ導入したんだ

:臨場感アップ

:自動で追っかけてくれるの便利だよね

:段々と機材アップグレードされてくな

:金あるなぁ

:昔の素朴な配信も好きだけど

:こういう最新技術取り入れた配信も好き!

:天下のドラプロ所属やぞ?

:前から配信だけならトップクラスだったからな

:タヌポンのせいでダンジョン企業としても売上やばい

:いい意味でなw

:この人ポンポン強敵倒しすぎなのよ

:タヌポンだけにw

:は?

:はっ?

:あ゛?

:ギャグ言っただけやのに、めっちゃ当たり強いやんw

:死にてぇ……

:オヤジギャグ兄貴! 強く生きて!


 移動中もコメント欄がどんどん書き込まれていく。

 そしてタヌポンがピタリと止まる。


「一人称視点切り替え、ズーム」


 タヌポンがそう言うとピコン♪ という音が鳴り、仮面に付属してるカメラを通しての視点に切り替わる。


 映像が拡大されると、子供くらいの背丈のデカすぎる根。

 頭から花を生やし二足歩行する生物。


 マンドラゴラだ。


:植物が歩いてる!?

:いつも言ってるけど、絵面がゲームか何かだよな

:フォレストダンジョンじゃよく見る光景。

:むしろドラゴン闊歩してるのが俺らには信じられん

:普通じゃない

:えっ!? 骨が歩き回ってるのが普通では!?

:これだけでどこ出身かよく分かるよな


「獲物は見つけたし、早速狩りたいと思います」


 タヌポンの視点で少し下がり、前傾姿勢を取ったことが分かる。

 瞬間、景色が置き去りにする高速移動の映像が流れた。


:いつ見ても一人称やっば!

:パルクールとかとはまた違った臨場感!

:これをいつもタヌポン見てるのか

:やばいわよ!


 マンドラゴラが近くにまで迫り、ようやくタヌポンに気づく。


「ギャ――」


 マンドラゴラが声を上げようとした瞬間、タヌポンが口を塞ぎ、そのまま地面に叩きつけた。

 声もあげられず、無情にもマンドラゴラが爆散する。


:草

:粉砕! 玉砕! 大喝采!!

:爆☆殺!

:ようしゃねぇw

:マンドラゴラさん声すらあげられてないやんけw


「あっ、しまった。これじゃ食材にならない……」


 タヌポンが頭を抱えてうずくまる。


:いや、そうわならんやろw

:なっとるやろがい!

:食材の心配w

:モンスター食材としてしか見てへんやんけw

:だってタヌポンだし

:それよりマジな話食材どうするん?

:攻撃したら爆散するなんてどうすりゃいいんや

:罠でも張れば?


「罠……そうだ!」


 瞬間、タヌポンが森をダッシュで駆ける。

 辺りをきょろきょろと見渡し、何かを探そうとしているようだ。


:ちょっと酔いそう……

:一人称視点ずっと見てるとそうなるよな

:タヌポン、視点戻して


「そっかごめん! ドローンカメラに切り替えて!」


 画面が切り替わり、タヌポンの頭上のドローンの映像に切り替わる。

 視点が変わったのを確認したタヌポンは走るのを再開した。


:つうか、このドローン速すぎね?

:走ってるタヌポンに追いつけるって

:二つ名レベルを追跡できます

:お求めはドラプロまで♪

:また通販やってるよw

:科学の力ってすげぇ


 タヌポンが茂みを抜けるとピタリと止まる。


「見つけた!」


 ドローンがタヌポンの見つめる先を映す。


 大きい鋏角をカチカチと鳴らし、緑の甲殻に八つの赤い瞳がこちらをギョロギョロと見つめてくる。

 それを見ているだけで恐怖を駆り立てられるだろう。


:ビックスパイダー!

:フォレストダンジョンは植物だけじゃないぜ!

:おえっ……

:虫苦手ニキが吐いてらっしゃる!?

:モザイク早くしろ!

:わたくしで隠さなきゃ!


「も、モザイク加工!」


 タヌポンがそう言うと蜘蛛の姿はモザイクで隠れる。


:ふぅ……

:危なかった……

:様子が分からなくなったが

:まぁしゃない


「よし! 映像には映らないし、早めに終わらせよう!」


 瞬間、バギッ! ボギッ! という何かが折れる音がした。


:ようしゃねぇw

:しばらくお待ちください

:グロテスクな表現が含まれております

:今更過ぎる注意喚起w


「固定カメラモードにしてっと……」


 その後ズルズルと蜘蛛が画面外に連れてかれ。

 タヌポンが画面外で作業した後、何かを手に持って帰って来た。


 手にはかなり太く、長い丈夫な白い糸が握られている。


「ビックスパイダーの糸ゲット! これでワイヤートラップ作って行こう!」


:ワイヤートラップ

:ワイヤーじゃないが?

:細かいこと気にすんなw

:でも餌みたいなのないよ?

:どうやって罠にかけるん?


「それは見てのお楽しみ」


 タヌポンが糸を木に括り付け、木と木を結ぶ。

 ピンと張った糸がキラリと光る。


「よし、じゃあ後は……」


 タヌポンが画面外に消えると――


「ギャァァァ!!!」


 遠くから赤子のような、絶叫にも似た声が上がる。


:うるせぇぇぇ!

:耳がぁぁぁ!!

:ミミガー?

:おじいちゃんそれ沖縄料理よ……

:全然余裕そうで草


「よ~し、行っくぞ~!」


 そして、ワイヤートラップ(仮)に何かが飛来する。

 飛来した物がスパッと切れ、真っ二つになった。

 よく見るとそれは、両断されたマンドラゴラだ。


:ワイヤートラップの使い方ってそういうこと!?

:罠にかける(物理)

:ただのギロチンやんけw

:セ〇コそれ罠やない、ギロチンや……

:こんなのトラップじゃない!

:脳筋過ぎですわお兄様!?


 そしてしばらくタヌポンがマンドラゴラを両断し続ける映像が流れることになった。

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